2011.05.03
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母親を「孤育て(こそだて)」から救うには?

第25回目は「育児を一人で背負いこみ、誰の助けも得られず辛い日々です」についてアドバイスします。

初めての育児、孤立する母親の心

最近、若い母親が、育児の責任を一人で背負いこみ、夫や親族の助けもなかなか得られず孤軍奮闘してしまう「孤育て」が社会問題になっています。

ある調査によると、「自分の出産前に、子育て経験があったか?」の質問に、「全くない」母親は[1980年:約41%]→[2003年:55%]と半数を超え、逆に「よくあった」母親は[1980年:22%]→[2003年:18%]に減少しました。

また、4か月児の親で「世間話をしたり赤ちゃんの話をしたりする人が近所にいない」と回答した人の中で「1~2人もいない」は[1980年:16%]→[2003年:35%]と倍増しました。

出産前に子育て経験がない上に、出産後、身近に子育てについて相談したり話したり出来る人がいない、孤立状態にある母親が確実に増えている現状が見えてきます(原田正文「今緊急に求められる親育てプログラムの実践(2003)」より)。

子育てで大事なのは、子どもが機嫌よく健やかに過ごせること。そのためには、母親が心身共に健康であること。孤独感が強まると、ウツなどの深刻な病気になってしまう可能性も高まります。どうすればこの状況から抜け出せるか、母親本人ができること、また、周りの人たちができることを考えてみたいと思います。

「母子1対1」は自然な形、とラクに構える

「孤育て」の原因はいろいろあると思います。まず、前述の調査の通り「母親が我が子を生むまで、乳幼児の世話をしたことがない」という現状です。昭和10年代頃まで日本では、4~5人以上のきょうだいの家庭が多く、弟・妹の面倒を見る機会もありましたが、40年代以降は二人きょうだいが過半数を超え、学齢期~高校生頃までに乳幼児の世話をする機会が減ったと考えられます。また、祖父母と同居の大家族では、子どもを見る大人の目が多く、母親の負担も軽減されていました。しかし、核家族が増えた今、そうしたことは望めません。ではどうすればよいのでしょうか。

まず、母親の気持ちを少し楽にしてあげましょう。子どもと二人きりで社会から取り残されたように感じている母親には、「ママと赤ちゃん、1対1はもっとも自然な形。だから孤立をおそれないで」と伝えたいと思います。人間は基本的に一度に産むのは一人、しかも他の動物と比べかなり手がかかる状態で産まれてきますので(本来、あと1年はお腹にいるものと言われる)、12か月間は母親と二人きりでいたいものなのです。

ただ、そうはいっても、物言えぬ赤ちゃんと二人きりというのはとても辛い状況。二人目を産んで、母子3人のコミュニティにするという手もありますが、まずは夫が早く帰宅することが一番。そして妻の話を聞いてあげてください。

子育てというのは、小さな喜びの積み重ねで、母親はそれを誰かと共有できるだけでとても心が軽くなります。本当は夫が一番よいのですが、それが望めない時には、育児日記を書く、ブログやツイッターでつぶやくなどのはけ口を作っておくとよいでしょう。

また、1対1の子育てが基本形とはいえ、それでは母親自身に何かあった時が心配。日頃からセイフティネットを用意しておきましょう。実母や義母と毎日連絡をとる、夫とこまめにメールをするなど、外に出られない人は必ずそうした準備をしておきましょう。

子育てママに社会全体で温かいまなざしを

家族以外の人はどのような形で協力できるでしょうか。よく海外のほうが子育てしやすい、という話を耳にします。私もまだ小さかった長男と二男を連れてアメリカ留学した時はそれを感じました。赤ちゃん連れで街を歩くと、必ずいろんな人が声をかけてくれるのです。母親はまるでスターになったような気分。このように社会全体が子連れの母親に対して温かいまなざしを向けるだけでも、かなり辛さは軽減されると思います。
留学中は、よく友人が自宅に来て、子どもの相手をしてくれました。レポート提出の前日、まだ何もできていなかった所に独身の友人が栗を持って急に現れ「子どもと一緒に栗を焼いて食べるから、その間にレポートやったら」と言ってくれたのです。本当に助かりました。1時間でも子どもの相手をしてくれる人がいるだけで、その母親はかなりのことができるのです。そして、そうやって一緒に子育てをしてくれる人が近くにいるというだけでとても心強いのです。 日本の住宅事情では、他人を気軽に自宅に上げるのは難しいかもしれませんが、たとえば集合住宅なら、どこか1室をコミュニティセンターに設定してはいかがでしょう。孤独に苦しむ母親がちょっと立ち寄れる場所があると、だいぶ気持ちが安らぎます。 子育て中の母親の苦労を少しでも軽減するため、私のような育児経験者と新米ママをつなぐネットワークを作るのも一つですね。新米ママを助けるだけでなく、赤ちゃんと接することができれば、私たちの世代も若返ることができます。 また学校教育で、将来親になるかもしれない児童・生徒たちに少しでもその予習となる機会を提供するのも方法です。今は、赤ちゃんに接する授業を行う学校もあり、とてもよい実践だと思います。いのちの大切さや、自分が親にどれだけ面倒を見てもらって育ってきたかを実感する絶好の機会となります。さらに、将来自分の子どもを持った時、「赤ちゃんに接したことない! 右も左もわからない!」という状況は回避できるでしょう。 子育て初心者の母親を社会で支えていくのはもちろん、将来親になる子どもたちにも、赤ちゃんのかわいさと共に、育てることの尊さ、大変さなどを伝えることが「孤育て」予防につながると思います。

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アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

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構成:菅原然子/イラスト:あべゆきえ

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