2011.04.05
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他人の子どもをどう叱るか?

第24回目は「子どもが悪さをしていても、人様の子はやはり叱れません」についてアドバイスします。

叱らなくなった大人たち

公園で、幼稚園児くらいの子が目下の子をいじめていたのに、その子の親とのトラブルが面倒で叱ることができなかった。電車の中でふんぞり返って座っている高校生を見て「ちょっとこれは」と思ったけれど、逆ギレされても困るので何も言えなかった……。このような経験のある方、いらっしゃるのではないでしょうか。

 昭和30~40年代頃の日本では隣近所のおじさん、おばさんが、子どもが悪さをすれば叱ってくれていましたが、今はあまりそうした光景は見られません。

 あるデータでは、子どもを持つ母親に「他人の子どもを叱らない理由」を尋ねたところ、1位「叱る状況に直面したことがない」、2位「近くに子どもの親がいたから」、3位「叱る勇気がなかったから/恥ずかしかったから」を理由に挙げていました(「となりの芝生」2010年6月8日ウェブクルーリサーチ調べ)。

 相手の親とのトラブル回避や自分の保身のために、他人の子どもを叱れない大人像が浮かんできます。また、他人の子どもばかりでなく、自分の子どもさえ叱らなくなった親も増えているようです。

 現代の大人は、なぜ子どもをあまり叱らなくなったのでしょうか。また、叱る場合はどのようなことに気をつければよいのでしょう。今月はこれらについて考えてみたいと思います。

叱られない子にはどんな弊害が…?

まず、現代の大人がどうして他人の子どもを叱れなくなったかを考えてみます。理由は大きく二つあると思います。一つは、昔は年を取ると長く生きてきた分、情報もたくさん持っているということで若者から尊敬されていました。今は、若者のほうが情報をたくさん持っていることが多く、大人はなんとなく遠慮をして叱れない。もう一つは、他人の子どもに対し、愛情をあまり持てない傾向があるためではないでしょうか。

 「他人の子」「自分の子」と子どもを区別した段階で、その大人は他人の子どもを叱る資格がないといえるでしょう。なぜなら、叱るという行為は相手のことを本当に大事に、自分の子と同じくらい思っていなければできないし、そうでなければ相手に真意が伝わりにくいからです。

昭和30年代頃までは、子どもが隣の家に勝手に上がりこんでご飯を食べたり、トイレを使わせてもらったりと、日常的に他人の子どもの面倒をみる大人がたくさんいました。そういう大人にとっては、子どもはみんな我が子のようなもの。良く育ってほしいと思うから本気になって叱れたのでしょう。今は「相手の親から迷惑がられるくらいだったら……」と叱らない。本気で「どの子も大切な子ども、良い子に育ってほしい」と願っていないから、叱る自信もないのだと思います。  では、子どもを適切に叱らなかった場合、どのような弊害があるのでしょうか。今は、他人どころか、嫌われたくないからと我が子さえも叱らない親がいますが、子どもにとって叱られないことはむしろ毒。なぜなら、叱られたことのない子どもは、生きていくための指針や基準を持ちづらくなり、いつまでたっても自己肯定感を得られず、不安にかられやすくなるからです。  先日行われた国際調査で、日本の高校生で「自分が価値ある人間だ」と思っている子はたった7.5%。調査を実施した日本、アメリカ、韓国、中国の中で最低でした(日本青少年研究所「高校生の心と体の健康に関する調査~日本・アメリカ・中国・韓国の比較~」2011)。日本の子どもがいかに生きることに不安をもっているかが表れています。  また叱られた経験のない子どもは、大人になってから他人の言うことに“聞く耳”を持てず、“成長できない人”になりがちです。私はこの年になっても姉や息子たちから注意されることがありますが、その度に「なるほど、そうか」と思います。人は何歳になっても叱られたり注意されたりすることで、成長し続けるのではないでしょうか。

コツは5回ほめて1回叱る

では実際に子どもを叱る時、どのようなことに気をつければよいでしょうか。

 一つは、子どもは傷つきやすいので、きちんとお互いの信頼関係を作ってから叱るということ。5回良いところをほめてから、「ちょっと聞いてくれる?」と1回叱るくらいでないと、相手の心には届きません。普段から「あなたのこと、大好き。大事な子」と言葉で伝えたり、抱きしめたり、一緒にお菓子を食べたり、そういった関係作りができていれば叱ることもできるでしょう。

 学校の先生方は、皆さん我が子同然に児童・生徒のことを思っているので、悪いことをすれば叱るのは当然でしょう。ですが、今は叱ると親からのクレーム問題に発展する場合があります。そうならないためには、普段から親とコミュニケーションを密にとることが第一。そしてトラブルが予想される場合、子どもを叱る前に「お子さんはとても良い子で、もっと良くなってほしいと思っています。この前こういうことがあったのですが、私から一言注意してもいいですか」と、その親に聞いてみる。親は「この先生は我が子のことを思ってくれている」とわかれば同意するでしょう。

 それでも嫌だという親には「ではあなたから注意していただけますか」「私からがだめならば、カウンセラーに引き継いでもよいですか」など代替案を出していきます。大抵の親はそれで納得するはずです。

 それも受けつけない時は、逆にそうした親から子どもを守る必要があるでしょう。先生はその子に愛情を注ぎ信頼関係を作った上で、必要な時には叱る。

 叱ることは、物事の価値を教えることです。子どもたちがたくましく生きていくためにも、私たちは愛情を持って叱れる大人になりたいですね。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:菅原然子/イラスト:あべゆきえ

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