2011.03.01
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文化・教養を身につけるには?

第22回目は「親の私にはない文化・教養を、我が子には身につけさせたいのですが」についてアドバイスします。

子どもに文化・教養を身につけさせたい

我が子に文化・教養を身につけさせたいとは、多くのお母さんお父さんが考えることだと思います。学力と共に、自国の文化や教養を身につけることは、これからの国際社会を生きていく上で、とても大切なことといえるでしょう。

 夫の海外赴任のため、一緒に海外へ渡った妻のAさんが、現地で知り合ったお母さん友だちと自分との間にギャップを感じたという話を聞きました。他のお母さんたちは、華道や茶道の心得があり、お客様のおもてなしもとても上手だというのです。Aさんにはそうした特技もなく礼儀作法も知らなかったため、現地の人々との交流にも困り、せめて我が子には文化・教養を身につけさせたいと考えるようになりました。

 フランスの社会学者、ピエール・ブルデューは、文化資本(文化や教養、習慣など)の保有率が高い学生ほど高学歴で、またその子どもも親の文化資本を相続し高学歴になることを証明し、これを「文化的再生産」と呼びました。上記のAさんは文化資本の保有率が低い家庭で育ったのかもしれません。でも子どもには文化資本を身につけてほしいと考えています。たとえお母さんの文化資本の保有率が低くても、子どもに文化・教養を身につけさせることは十分可能です。今月はどうすればそれができるかを考えてみましょう。

国際交流の基本は「おみやげ」

私は大学で異文化コミュニケーションについて教えています。その授業で必ず言うことは、「海外へ行くときはおみやげを持っていきなさい」。それは、品物だけではなく日本の文化、たとえば茶道や華道、日本庭園や日本史の知識など、何か一つでも深く語れることを携えていきなさいということです。そうすれば、初めて日本人に接する人でも、日本という国に興味を持ってくれます。そうしたおみやげを持っていることが、文化・教養を身につけていることともいえるでしょう。

 このおみやげは、各家庭で子どもに身近な日本の文化に触れさせるチャンスを作ってあげることで、持つことができます。たとえば折り紙や日本の童謡、剣道や将棋など、探せば身近な所に子どもがチャレンジできる日本文化はいろいろあります。その中から子どもが特に興味を持ったものについて、より深く学べる機会を提供してあげるのです。

 私の3人の息子にも、茶道、陶芸、合気道、将棋、囲碁……などを経験させましたが、長男は日本の思想や政治・経済、次男は合気道、三男は茶道にそれぞれ興味を持ちました。そうして身につけたことは、留学先や他国の人と交流する場で確実に役立っているようです。

 私自身は香港で生まれ育ったため、中国の地理や歴史についてそれほど詳しくはありません。代わりに「医食同源」については深く語れます。母が食事をとても大事にしていたことと、私自身が結婚するときに理論的な部分もしっかり勉強したからです。また、歌手なので、中国の子守唄を歌うこともできます。これらは海外の人々との会話をはずませ、コミュニケーションを円滑にしてくれます。

学校でも四季の行事を大切にする

最近は、我が子に文化・教養を身につけさせようとしない親御さんも少なからずいるように感じます。ショッピングセンターなどの公共の場で、周囲に迷惑をかけている子どもを笑って見ているだけの親。深夜まで幼い子どもを連れまわして買い物をしている親。そのような家庭で育てられた子どもは、文化・教養を身につけるチャンスが少ないかもしれません。そんなとき、やはり学校の役割は大きいと思います。

 先生が季節の行事を大事にして、たとえば春は花見、夏は七夕、秋はお月見、正月には餅つきと、実際に子どもに体験させて、その由来を教えていくのです。行事に親も参加させれば、親子一緒に体験することができ、日本の文化を守っていくきっかけにもなるでしょう。新学習指導要領でも、伝統や文化に関する教育の充実がうたわれていますが、四季折々の行事を大事にすることも一つの方法なのです。

 家庭と学校で身近な伝統文化の体験を積み重ねていけば、子どもには文化・教養の土台がしっかり身につくはず。子ども自身が何か一つをより深く究めたいときの礎になるでしょう。将来、外国の人からも「友だちになりたい」と思ってもらえるような、おみやげを持てる子どもを育てていきたいですね。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:菅原然子/イラスト:あべゆきえ

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