2010.11.02
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

仕事の素晴らしさをどう伝える?

第19回目は「自分の仕事に自信が持てません。我が子に仕事について語るべきでしょうか?」についてアドバイスします。

子どもに自分の仕事のことを話す

1991年のバブル崩壊後から長く続く経済不況の中、希望の職種に就けない、またはリストラにあって失業するなど、仕事に自信が持てず、不安を抱える大人は少なくないと思います。一方、ニートやフリーターの若者は増加傾向にあり、小学校では2011年から、中学校では12年から全面実施される新しい学習指導要領でも、各学校段階での教育活動の特性を生かしながら、系統的なキャリア教育を実践する必要性が盛り込まれています。

 このような状況下、子どもたちに「仕事」や「働く」ことについてどう教えていけばよいでしょうか。

 家庭で一番大事なのは、やはり親が自分の仕事について子どもに話すことだと思います。「仕事といってもパート勤めだし」「やりたいと思ってやっている仕事ではないし」と思っている方もいるかもしれませんが、仕事はすべて貴いもの。今の世の中、人のために働いてお金を得られるのはとてもラッキーです。それに、仕事というのは辛いもの、楽な仕事などありません。ですから自信と誇りを持って、仕事の難しさや苦労、もちろん楽しさも、子どもに話してみましょう。

 また、人間にはいろいろな面があります。妻であり、母であり、仕事人であり、そして地域の一員でもある。子どもに親のいろいろな面を知ってもらうことは、親子関係を築く上で有効です。私は出産後も仕事を続けていたので、話を理解できるようになる2~3歳から息子たちに自分の仕事のことを話していました。すると、3人とも小5になると自分から「ママ、今日はどうだったの?」と聞いてくるようになったのです。そして慰めてくれたり、一緒に喜んでくれたり。成長した今では、アドバイスまでしてくれます。これは大きな喜びです。

 このように普段から仕事について話していれば、ある日リストラに遭っても、収入が減ることになっても、子どもは理解し、受け止め、協力しようとするでしょう。家族の危機を乗り越えようとする強い子にもなることでしょう。

仕事場に子どもを連れて行こう

子どもに親の職場を見せることも意義があります。そうすることで、子どもは仕事の具体的な様子を知ることができ、生きたキャリア教育になるだけでなく、親の仕事人としての面を見ることで、親への尊敬の念や愛情がより増すはず。「お父さんは毎朝この電車に乗って、この駅で降りて、この会社へ通っている。会社ではこの席に座って仕事をしているんだ」ということを肌で実感するのですから。

 例えば、仕事がスーパーのレジ係であれば、実際にレジを見せて何が大変か、どんなことが嬉しいのかを伝えましょう。その中で子どもたちは、どんな仕事にも魅力があることを知り、仕事自体に興味を持つようになります。

 私自身、小さい頃に父親の会社に連れて行ってもらい、父の同僚を紹介してもらって、父がいつも食べる昼食を一緒に食べたことを今でも鮮明に覚えています。仕事というものが具体的に見えてくるだけでなく、親とこうして過ごした時間が、子どもにとってきっと大切な宝物となることでしょう。

学校は親を巻き込んでキャリア教育を

学校では、親や地域の人たちを巻き込んでキャリア教育ができたらよいと思います。例えば、親や地元商店街の人たちに学校に来てもらい、自分たちの仕事について話してもらうのです。

 息子たちが通っていた小学校では、親が自分の仕事について15分間話す授業がありました。私も何度かユニセフの仕事のことを話しましたが、短い時間で子どもたちにわかりやすく伝えるため、準備にもずいぶん時間をかけました。当日は子どもたちも集中して聞き、たくさんの質問が出ました。

 地域の商店街の人たちであれば、八百屋さんはどこで商品を買い付けてきて、値段はどうやって決めて、売れ残ったものはどうするか、といったことまで話してもらえば、普段口にしている食品の流通経路や廃棄処理の方法などもわかり、社会科、食育、環境教育……等々の学習にもつながります。

 学校はわりと早く始まりますから、朝の15分間であれば、出勤前や開店前に時間をとることもできそうです。

 小さい頃から、家庭や学校で仕事について、話したり見せたりを積み重ねることで、子どもたちは働くことに興味を持ちます。同時に、どんな仕事も貴賎はない、誇りあるものだと理解できれば、人のために一生懸命働ける大人に育っていくと思います。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:菅原然子/イラスト:あべゆきえ

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望・気になることなど、お寄せください!

「アグネスの教育アドバイス」では、取り上げて欲しいテーマ、教育指導や子育てで気になることなど、読者の声を随時募集しております。下記リンクよりご投稿ください。
※いただいたご意見・ご要望は、企画やテーマ選びの参考にさせていただきます。
※個々のお悩みやご相談に学びの場.comや筆者から直接回答をお返しすることはありません。

pagetop