2010.10.19
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命の大切さをどう教える?

第18回目は「自殺者が増えています。命の重さを子どもたちにどう教えればよいのでしょう?」についてアドバイスします。

将来自殺に向かわない子どもを育てるために

 日本では、1998年から昨年まで毎年、年間自殺者が3万人を超えています。これは交通事故死者数の約6倍にものぼります。

 自殺の動機の1位は健康問題(2009年の自殺者のうち原因・動機特定者の64.9%=出典:警察庁「自殺の概要」)、中でもうつ病が一番多く(健康問題が原因の自殺者中43.8%=出典:同上)、必ずしも正常な精神状態で死を選んでいる人ばかりではないことがわかります。

 以前、ネット上で一緒に自殺する人を募り、複数の若者が練炭自殺をする事件が多発しました。また、今年8月には小学3年生の子が自殺するという痛ましい事件がありました。簡単に死を選んでしまう若者がいることや、子どもの自殺率が上昇傾向にあることは大変遺憾です。

 自殺者には、それぞれに複雑な理由があり、自殺予防の有効な手立てはケースバイケース。とはいえ、親や先生は、子どもたちに小さい頃から「命の大切さ」や「楽しく生きるコツ」を教えていくことで、将来彼らが困難にぶつかった時に、自殺を選んでしまわないような“命の土台”をつくれると思います。今回はその土台をどう築いていくかについて考えてみましょう。

たくさんの動物や植物を育ててみる

 私はこれまで日本ユニセフ協会大使として、人道援助を必要とする国々を視察しました。生きたくても生きられない人々がどこの国にも大勢います。そのような状況に遭遇した子どもは「死にたくない、生きたい!」という思いを強くします。ですが、日本を含む平和な国々ではそんな体験をすることはまずありません。このため、幼稚園生くらいから命を実感できる体験をたくさんさせることが大切になってきます。

 第一に、生き物を飼う、植物を育てることをお勧めします。犬や猫だけでなく、アリ、イモリ、金魚……、何でもいいのです。子ども自身が責任持って育てることで、命を身近に感じられるようになります。それに、どんなに大事に育てていても、生き物はいずれ死にます。子どもはたくさんの生命に触れて、生きている時の喜びと、死んで離れてゆく時の悲しみを繰り返し体験し、命の価値を実感するようになります。

 我が家では夏ミカンの木を育てていて、そこに集まるアゲハ蝶の幼虫を息子たちと一緒によく飼いました。毎日餌となる夏ミカンの葉をあげ、やがて幼虫がさなぎになり、さなぎから成虫の蝶が出てきます。最初は羽が湿っている蝶も、しばらくすると羽が乾き、飛び立っていきます。これは本当に感動的な光景でした。

 学校では教室で生き物を飼育・栽培し、週末はクラスの子どもが順番に里親になるとよいでしょう。一時でも里親になることで、生き物と自分との間に一対一の関係ができ、育てることの素晴らしさを体験できます。ただし、学校で行う場合は、子どもの体質や好みを考慮し、多種類の動植物を対象にすることがコツです。

 子どもがある日「死が怖い」と言ってくることがあります。こんな時は、親子で人が死ぬことについてじっくり話し合ってみましょう。人が死んで土に還ったら、その土から花が育ち、花としてまた生きることができる。そうやって命はぐるぐるとまわって、なくならない。だから決して死は怖いものではない、ということを伝えてあげたいものです。

楽しく生きる力を身につける

 “命の土台づくり”にもう一つ有効な方法は、子どもたちに楽しく生きる力を身につけさせることです。このコツが身につけば、小さなことでも幸せを感じられ、前向きに生きられるようになるでしょう。

 それにはまず知識が必要です。新しい知識によって、今まで見えなかったことが見えてきます。例えば、目の前のティーカップについて、どこで作られた焼き物か、模様はどうやってつけられたか、なぜ丸みを帯びた形なのか……など、理由がわかれば、漫然と見ていたカップが面白く見えてきます。学校は子どもが知識を得る場所。子どもたちが身近なものに興味を持って見ることができるよう、先生方も心がけていただければと思います。

 家庭では親子の会話が重要です。親が我が子に「今日、学校で何があった?」と毎日、しかも「もっと詳しく教えて」と熱心に尋ねれば、子どもは親に報告するために、身の回りのことを注意して見るようになります。その積み重ねがやがて日常の隅々から面白いことを発見する目を育てていくでしょう。

 息子たちが幼かった頃、香港の親戚の家へ皆で行った時、移動中の車内で長時間にもかかわらず、彼らは「誰が一番多く緑色のクルマを見つけられるか」というゲームをして楽しんでいました。おもちゃがなくても、その時間を楽しむ術を身につけていたのです。基本は「いつでも楽しく過ごす」。それができない時は「自分の頭を使っていないからだ」と、子どもは気づくようになるでしょう。このような力をつけた子どもたちは、将来困難にぶつかった時でも、少なくともすぐに死を選ぶようなことはないと思います。

 親も先生も、子どもたちが命の価値を実感し、生きることの楽しさを感じられる機会をできるだけ提供して、将来の自殺予防につなげていきましょう。

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アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

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構成:菅原然子/イラスト:あべゆきえ

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