2010.05.04
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

お受験は子どもに有益ですか?

第13回目は「首都圏を中心に"お受験"させる親が増えていますが、子どもの教育にとってやはり有益なのでしょうか?」についてアドバイスします。

長男の“お受験”に必死だった私、反省しています

 社会全体が不況に覆われている中、どの家庭も教育費を落とさざるを得ない状況の一方で、我が子に“お受験”(=小学校受験)をさせる親が首都圏を中心に増えています。

 実は私も長男の学校選びの時、いわゆる有名私立校へのお受験を考えたことがありました。その時は、合格させるためにどんな準備が必要か、お受験経験者の話も聞くなどして必死に動き回りました。

 そんなある日、夫から「お受験は結局、君自身の見栄のためにやっているだけではないの?」とズバリ指摘され、ショックを受けました。確かにそうかもしれないと思ったからです。

 我が子を有名校に入れることで自分が周りからよく見られたい、「私は子育ての勝利者よ」と誇りたい、という意識ばかりだったように思います。本当に子どものためになるのかという視点が全く頭になかった。当時の自分を今でも強く反省しています。

“お受験”のメリットとデメリット

 もしかしたら保護者の方の中には、お受験の良い面ばかりに心を奪われてしまっている人がいるかもしれません。ただし、そのメリットはデメリットと表裏一体で、見落とされがちな面も中にはあるので注意してほしいですね。

 最もわかりやすいメリットは、エスカレーター式に大学まで進めることでしょう。小さいうちに一度受験をするだけで、子どもの心身が大きく揺れ動く思春期に勉強漬けにならず、好きなことに打ち込み成長できる点はとても魅力的です。半面、受験という苦労も人を大きく成長させる大切な要素の一つなので、それを経験せずに成人するというデメリットがあります。

 周りが同じような家庭環境の子に均質化されることで、“悪い友だち”と付き合うことを避けられ、友人関係が安心できるというのもメリットの一つでしょう。この場合は、社会には困難を抱え苦しんでいる人など、様々な環境で暮らしている人がいることを、子どもが理解しにくくなるというデメリットがあります。

 また、裕福な家庭の子が多く集まる学校では、遠足費用や保護者の懇談会費用など、思わぬ大きな出費がかかることもあると聞いたことがあります。入学金や授業料以外にもどんな費用が必要になるか、事前のリサーチは欠かせないでしょう。

何のための“お受験”か、よく見極めて

 まだお受験を迷っているなら、なぜ受けさせるのか、まずはその目的をはっきりさせましょう。案外、何度も受験せずにラクをしたいのは、子どもではなく親のほうかもしれませんよ。自分の卒業した母校が素晴らしい教育だったから、あるいは家族と同じ宗教を学んでほしいから、といった確かな目的があれば大丈夫。

「ご近所さんや“ママ友”がお受験するから、我が家も……」といった安易な動機なら、あまりお勧めできません。それは結局、親の見栄ではないですか? 本当に子どものためになるかを第一に、そして今の家庭の経済状況を冷静に判断して選択してほしいです。

 地元の公立校の悪い噂を聞き不安を感じている人で、お受験するくらい余裕が家計にあるのであれば、理想の公立校を探して引越しをすることも選択肢の一つです。

 では、すでにお受験することを決めている人は、たとえ落ちても子どもに精神的なダメージが残らないよう配慮してください。受験の際は「ちょっと学校に遊びに行ってみようか」くらいの感覚で取り組ませましょう。受からなくても子どもは「楽しかった」という感想を持つだけで済みます。逆に受かれば「ラッキー!」というもの。

 もし本気で取り組ませ、子どもにプレッシャーを与えたら、失敗した時、たった5歳の子が挫折感を味わうことになります。「自分のせいでママを悲しませてしまった」とずっと後悔し続ける子もいます。この点だけは注意してください。

 何のためのお受験かをよく見極めることが、何よりも大切なのです。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:後藤真/イラスト:あべゆきえ

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望・気になることなど、お寄せください!

「アグネスの教育アドバイス」では、取り上げて欲しいテーマ、教育指導や子育てで気になることなど、読者の声を随時募集しております。下記リンクよりご投稿ください。
※いただいたご意見・ご要望は、企画やテーマ選びの参考にさせていただきます。
※個々のお悩みやご相談に学びの場.comや筆者から直接回答をお返しすることはありません。

pagetop