2009.12.01
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金銭感覚を養うには?

第8回目のテーマは「金銭教育」です。子どもにお金の価値をどう教えるか。私が実践した意外な方法をお教えします。

お金の使い方、教えていますか?

 年末年始はクリスマス・プレゼント、お正月のお年玉と、多くの子どもたちの懐具合がにわかに潤う時期。そうでなくても高校生の1か月のお小遣い平均額は1万円を超える(財団法人日本青少年研究所2008年4月「高校生の消費に関する調査」より)など、不況とはいえ日本の子どもたちは諸外国に比べお金持ちといえます。

 一方、お金の使い方についてルールがある家庭の割合は、中国70.5%、アメリカ58.2%に比べ、日本はわずか29.6%(文部科学省「データからみる日本の教育2006―家庭でのルールがある割合の国際比較」より)。日本の家庭では子どもに金銭教育があまり行われていないようです。

 昨今は子どもを消費者ターゲットにする時代。テレビや雑誌、ネット上には子どもの金銭感覚をマヒさせるような情報があふれ、それらに刺激された子どもは次々と欲しいものが出てきがち。そこで親がすぐに買ってあげるようでは、子どもはそれが当たり前だと思ってしまい、やがて買ってもらえないと駄々をこねる、買わないと気が済まなくなる、という状態になるかもしれません。

 見るテレビ番組を選んで広告に触れさせないようにするなど、子どもの金銭感覚は、やはり親が上手にコントロールしていく必要があると思います。

「お金で買えないものは何か」を考えさせる

 一般に“金銭感覚を養う”といえば、お金の大切さや貯蓄の技術、自分で計算してモノを買う方法などを身につけることを指しますが、私はちょっと違います。“お金で買えないもの”の価値観を知ることだと思っています。

 私は3人の息子に「お金がなくても楽しいことはたくさんある」「お金がなくても頭を使えばおしゃれだってできる」「本当の豊かさや幸せはお金とは関係ない」ことを体現させながら育てました。

 その結果、長男は高価なブランド品をもらっても「もったいない、返してきます」と言い、社会人になった今でも中高生の頃買った服を愛用しています。さすがに古いので私が「そのデニムパンツはもうやめようよ」と頼むと、「ママ、まだはけます。とってもはき心地がいいんですよ」と言うのです。仕方なく二男に「お兄ちゃんにやめるように言って」と頼むと、「うん、お兄ちゃん、それはもうよくないよ。僕にちょうだい」って。そして三男は上の二人のお下がりをもらい「お兄ちゃんたちのTシャツもらった~! ママ見て、僕が3人の中で一番似合っているよね!」と、2回目のお下がりなのにとても喜ぶのです。私の金銭教育、少々イキすぎたかなあ? と思うほどです(笑)。

真の金銭感覚を身につけさせるには?

 息子たちにこのような金銭感覚を身につけさせるため、具体的に私が彼らをどう育てたかといえば、まず「基本的に毎月のお小遣いは無し」でした。学校には歩いて行けるので、毎日の生活にお金は要りません。飲み物は学校のミルクと水で十分。お菓子も買わず、ゲームセンターにも寄らない子になりました。

 また、小さい頃はできるかぎり外で体を使って一緒に遊んであげました。散歩しながら「マンホールだけ踏んで歩く」とか、「白い線を踏まないように歩く」など、やってみると意外と難しくて面白いのです。人気のカフェで「にらめっこしましょ、あっぷっぷ」をするのもエキサイティング。周りでお客さんが見ているから、息子たちはすごく喜びます。ゲーム機を買わなくても、どこかのレジャー施設に行かなくても楽しいことはいっぱいある、一番楽しいおもちゃは家族だ、ということを彼らはわかってくれたようです。

 散歩の途中、たまに100円ショップなどに立ち寄り「1個だけ買っていいよ」と言います。すると延々と1時間以上もかけて選んでいるのです。その様子はとても愛おしいもの。そして真剣に考えて購入したものだからこそ、その後ずっと大事にしていました。

 結局、息子たちは「お金で楽しみは買えない」ことを体験的に知ったおかげで、お金やモノに頼らないようになりました。仲の良い友だち、元気なお母さん、よく働くお父さん……お金では買えない大切なものがこの世にはたくさんあります。お金ばかりに頼っていたら、それらは決して手に入りません。むしろ貧しい人生です。何が本当に豊かな人生か、それを教えることが真の金銭教育だと、私は思うのです。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:後藤真/イラスト:あべゆきえ

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