2009.06.02
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コミュニケーション能力は大丈夫?

第2回目のテーマは今、学校現場でも重視されている「コミュニケーション能力」です。人付き合いの苦手な子が増えている背景とは? そしてその改善策は?

「人に迷惑をかけるな」は本当に正しい?

 子どもへのしつけとして、家庭でも学校でもよく「人に迷惑をかけるな」と教えますね。でも、この言葉を額面通りに受け取るのは、とても危険なことだと私は思います。

 たとえば、公共の場で騒ぐ子どもがいると「周りに迷惑だ」と子どもも親も非難されることがあります。マナーは大切ですが、マナーとは何かをまだ理解していない子どもや、注意の仕方がわからず戸惑っている新米ママまで強く非難するのは、思いやりに欠けた弱い者いじめです。

 そのほか身体の不自由な人や介護が必要な高齢者など100%自立できない人たちも、ある意味周りに迷惑をかけながら生きています。また、日本は食 糧の多くを輸入に頼り大量のエネルギーを消費して、地球温暖化の要因をつくり途上国の人々の暮らしや地球全体に大きな迷惑をかけています。

 このように、人間は誰もが迷惑をかけ合いながら生きているのです。他者と関わりながら、誰かの世話になりながら。とくに、子どもの時は親や周囲の 大人の手を借りなければ生きていけません。迷惑をかける、かけないだけを基準に物事や人を判断させる教育は危険だと私は考えます。

自信のない子は人付き合いを避ける

 もしも「相手に迷惑をかけるのは悪い」を判断基準にすると、困っている人がいても放っておけばよい、手助けするとかえって余計なお節介と迷惑がられる、と考えるようになるでしょう。

  最近の日本人には「自分をある程度犠牲にしても、他人の面倒を見る」という考え方よりも、「他人の面倒をあまり見ないが、他人にも迷惑をかけない」という 考え方のほうが圧倒的に多く、「全面的な人付き合い」をわずらわしいものとして避ける「個人主義」傾向が見られます(参照:日本放送出版協会『NHK 中学生・高校生の生活と意識調査』)。

 その影響からか、親子関係はケンカもせず表面的に和やかなだけの“友だち親子”になりがち。厳しい親が減り、親子間の意見の対立も少なくなったの ですね。互いに言いたいことも言わなくなった親子……。一番身近な親とさえ正面から向き合わないのですから、子どものコミュニケーション能力が育たないの もわかります。

 コミュニケーション能力の低い子どもは、自分に自信がないか、あるいはその裏返しで相手に差別意識を持つ傾向があります。うまく他人と付き合う自 信がないから、最初からクールに気取って「こっちは別に話したくないんだ」という態度をとる。つまり、相手に拒否されて傷つくことを恐れ、人づきあいを避 けようとするのです。

 この私も小学校6年生まで、自分に自信が持てず人見知りをする子どもでした。友だちづくりも下手で、いろんなコンプレックスを抱えて自分の殻に閉じこもっていたのです。そんな私が立ち直れたのは、担任の先生のあるひと言でした。

“無我夢中”を体験させると子どもは変わる

 先生は私の受験用の写真を見て「なんてかわいいの!」と言ってくれたのです。そのひと言が私に自信を持たせるきっかけになりました。

 実は、自信を持たせるということが、コミュニケーション能力の低い子どもを改善する有効な方法なのです。具体的には、その子どもを自分の赤ちゃん だと思って100%信頼し、その子の言葉や行動を100%受け入れてあげることです。その子がやることを一緒になって興味を持ち、時間をかけて遊び触れ合 う。何もしない子だったら、何もしないままずっと一緒に寄り添ってあげる。これが一番効くのです。

 自分に自信を持ち始めた私が完全に殻から出られたのは、中学生になってボランティア活動を始めてから。孤児院や少女院などの施設を訪ね、身体の不 自由な子や難民の子たちの世話をするうち、一瞬自分のことを忘れていました。“Forget yourself”体験です。厳しい環境に置かれながら前向きに努力をするみんなの姿に心を打たれ、無我夢中になって彼らのための活動をしていたのです。

 同時に「こんな私でも人の役に立てるんだ」と、より自信がつきました。すると、自分以外の人の存在が見えてきて、周囲の人とも積極的に関われるよ うになれたのです。無我夢中になれることが見つかると毎日が楽しくなります。楽しみがあると、他の事にもチャレンジするようになります。

 このように自分を忘れられる体験“Forget yourself”をしたら、その子は本当に変わります。コミュニケーション能力を養うためにも、子どもたちが無我夢中になれる場や機会を親や先生は与えてあげたいものですね。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:学びの場.com/イラスト:あべゆきえ

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