2024.01.03
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

子どもとのたくさんのおしゃべりが語彙力を育む

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。「おしゃべりな子」と聞いてどんな印象を受けますか? 今回は「子どもとのたくさんのおしゃべりが語彙力を育む」をテーマに考えました。

電車で見かけた、絶えずに孫と話すおじいちゃん

先日、香港で電車に乗ったときの話です。隣には幼い子どもを連れた男性が座っていました。私が車窓からの景色を楽しんでいると、その二人の会話が耳に入ってきました。
その子は「これは何のステーション?」「次はどの電車に乗るの?」「ケイバジョウってなに?」とあれこれ質問しています。聞かれた男性は「競馬場では馬が走って、どっちが早いか競争するんですよ」など、まるで友達と話しているかのように答えます。
まだ幼くて、はっきりとした言葉ではないのですが、よくおしゃべりする子です。普段、私たちが使わないような難しい単語も上手に使っています。
あまりにかわいらしい様子に、思わず「賢い子ですね。お子さんですか?」と話しかけたら、「いいえ、孫です」とのこと。おじいちゃんとお孫さんのふたりでお出掛け中のようです。
私はその子が何歳なのか気になっていました。見た目は小さな子どもなのに、なんでこんなにおしゃべりできるのか不思議です。すると、おじいちゃんが「孫は2歳5カ月です」というのでびっくりしました。
久しぶりに子どもを中心に動く大人を見たような気がします。普段、電車でよく見かける光景は、携帯ばかり見ていて、子どもが質問しても短い返事しかしない大人の姿です。

香港では、外国人のメイドを雇っている家庭が多く、子育てもメイドさんにお任せする家庭がよくあります。公園ではメイドさん同士がおしゃべりしていて、赤ちゃんのことを見ていないという光景も珍しくありません。これは子どもの言葉の習得にとっては問題です。しゃべりかけられないと脳の成長は停滞してしまいます。
電車で出会ったおじいちゃんはまるで同僚や友達としゃべっているみたいに子どもと話していました。これは教育者から見ても、子どもにふさわしいコミュニケーションです。おじいちゃんとの会話で、子どもがたくさんのことを吸収していることが分かります。
おじいちゃんとしゃべり放題、聞き放題の環境で育った彼はきっと知能が高いでしょう。小学校に入っても楽勝だと思います。あの子は言いたいことは全部自分の言葉で言って、理屈も通っていました。これはすごいことです。

黙って静かに座っている子がおりこうさん?

語彙力が高い子は、学校に行っても成績が良い傾向があります。語彙力を高めることは、子育ての重要な目標のひとつです。
語彙力を豊かにするには、二つの方法があります。一つは、子どもと「絶えずしゃべること」です。子どもにしゃべり続けることが大切です。子どもがまだ話し始める前から、たくさん話しかけることで、子どもは無意識に吸収して、自然と語彙力が育って自分の意思をうまく伝えられるようになります。会話が多い家庭と、会話が少ない家庭を比べると、会話が多い家庭の子のほうがIQやEQが高いという研究結果があります。絶えず子どもと話すことはとても大事なのです。

語彙力を育むためのもう一つは、本を読むことです。親が本を読んであげたり、子どもに読んでもらったりするのです。なぜかというと、普通使わない言葉が本の中にあるからです。しゃべることで身に付く語彙力と、本から得られる語彙力は違います。本をたくさん読むことで、書くための語彙力も育てられます。たくさんしゃべることと、本を読む習慣が、子どもたちの学力やIQを高めます。
だから、「静かに黙っていて、大人が話してるのだから」「自分で遊んで」という過ごし方は良くありません。おとなしく座って、何もしゃべらない子を育てることが、私たちの目標ではありません。絶えずしゃべりたがる子、話を聞きたがる子を目指したいのです。
「いい子ですね。おとなしいですね」というのは、子どもにとっては良いことではないのです。静かな場所で、黙って子育てをするのは、子どもの発達にとっては良くありません。語彙力が足りなくなってしまうかもしれません。
もし、親が忙しいようでしたら、電車で見かけたおじいちゃんと孫のように、祖父母が子どもと一緒に過ごして、おしゃべりするのもいいと思います。とにかく子どもの周りで気にかけてくれて、問いかけに答えてくれて、話してくれる方がいた方がいいのです。

子どもの賢さを育てるのは、実は簡単な方法で十分です

電車が終点に着くと、その子は「このあとはどうするの?」と聞き、おじいちゃんが「折り返して、終点まで乗って、その後はフェリーに乗ろう!」と答えると、孫は大喜びでした。
彼らの日曜日の過ごし方は、お金がほぼかかっていません。高齢者は運賃が安く、子どもも乗車賃がかかる歳ではありません。それでも、その半日はその子にとって学びの場になったことでしょう。子どもを賢く育てるためにできること、楽しい時間を過ごすことは、もしかして簡単なことなのかもしれません。テーマパークやショッピングモール、特別なイベントに行かなくてもいいのです。子どもと散歩に行ったり、バスに乗ったりすることで充分です。

一番肝心なことは、注意力を子どもに向けることです。たくさんしゃべって、いっぱい子どもの話を聞くこと。そして、子どもを赤ちゃん扱いせずに、普通に会話すること。これだけでも、お金をかけずに賢い子に育ちます。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

ご意見・ご要望・気になることなど、お寄せください!

「アグネスの教育アドバイス」では、取り上げて欲しいテーマ、教育指導や子育てで気になることなど、読者の声を随時募集しております。下記リンクよりご投稿ください。
※いただいたご意見・ご要望は、企画やテーマ選びの参考にさせていただきます。
※個々のお悩みやご相談に学びの場.comや筆者から直接回答をお返しすることはありません。

pagetop