2023.08.02
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

子どもたちから学ぶ、違いを尊重する異文化理解

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。少子高齢化による労働力不足を補うため、外国人の受け入れが年々増加しています。将来的には職場の同僚や地域の隣人として、外国人と共に働き生活する社会を迎えるかもしれません。今回は「子どもたちから学ぶ、違いを尊重する異文化理解」をテーマに考えました。

異なる花が美しいように人の多様性を楽しもう

子どもたちにとって、一つ大事なことは自分と違う人を受け止め、その違いを楽しめることです。私の絵本『みんなちがうから、すばらしい』の中に、こんな話があります。主人公が違う文化の男の子と出会った際に戸惑って、自分と同じような子としか遊びたくないとお母さんに話しました。
お母さんは公園に彼を連れて行って、いろいろな花を見せました「みんなきれいね。もし公園に1種類の花しかなかったら、どんなにつまらないのだろう」と話しました。公園がこんなにも美しいのは、花の咲く時期や形、色、香りがみんな違うからです。
人間も同じです。「自分と同じ人間しかいなかったら、どんなにつまらないことでしょう」と自分の子どもに教えたのです。
男の子はその後、外国人である隣人と友達になったのでした。

そうなんです。違いがあることは恵みであり、自分と異なる人間がいることはとても大切で、楽しいことなのです。人間はみんな違うから面白いのです。違いを恐れるのではなく、「楽しもう」と思考を切り替えた途端、人生は面白くなります。
「みんなが同じ考えになれば平和だ」と、私も幼いとき思っていました。しかし、日本に来てからその考えは浅いと気づきました。生まれや育ち、言葉、習慣、歴史が違うのなら、同じにはならないのです。
例えば食文化。私はヘビを食べることは平気です。小さいときから食べていたので、全く違和感がないです。でも、蛇を食べない国はたくさんあります。日本の皆さんは刺身を食べますが、食べられない国もあります。フランス人や中国人にとって鳩はご馳走ですが、日本人は「鳩を食べるのですか」とびっくりします。

私たちは同じにはならないし、同じになる事を望む事も必要ないです。むしろお互いの違いを認め合い、尊重し合って、一緒に楽しめるものがあれば、楽しんで。どうして同じになれないものがあっても、時と場合によっては、大目に見ることも大切です。

私たちはみんな地球人。共存共栄することが大切

自分の民族を愛することは問題ありませんが、他の国の人たちに対して「自分たちの民族のほうが優れている」と優越感を持つことは良くありません。
また、アジアの国々に対しては偏見を持つ人もいます。「日本は良い国だけど、ほかの国はダメだね」という情報を目にすることもあります。そんなときは、私は息子たちには「どんな文化にもいいところがあります」「その国々にそれぞれの歴史があります」と教えていました。意外に思われるかもしれませんが、子どもたちが小さいときには、あえて欧米ではなくアジアを旅行するようにしていました。日本では西洋の文化を真似たり、讃えたりすることが多いからです。息子たちにアジアの文化を理解させるために、できるだけ現地に足を運びました。文化がどう違うのか、生活が苦しくても素敵なところがあることを教えたかったです。
私たちは誰の上でもないし、誰の下でもありません。人を差別してはいけないし、人に媚びる必要もありません。自分は自分、人は人。みんなをリスペクトしなければいけませんと、口酸っぱく教えていました。政府が民族の対立を煽ったり、差別的な意見の人がいることもあるので、芯を強く育てておかなければいけません。

ただし、資源がどんどん限られてきている今の状態では、権力争いが起きたり、自分の仲間を守るために攻撃的になったりします。今は地球温暖化が問題となり、既に雨が降るところと、降らないところで争っています。かつては石油資源のある国が強い影響力を持っていました。これからは水資源やAI技術など、何を手に入れたら強い国になれるのか、各国が探り合っているところです。
だからこそ、子どもたちには「私たちはみんな地球人」と言っています。勝ち負けよりも共存共栄の考え方が必要です。地球環境を一緒に考えていかないといけません。地球にとっての一番の大きな加害者は人類です。地球が住めなくなってしまったら大変なことになります。
「この地球を守っていこう。違いを認め合って仲良くしていこう」という考え方が、生き残るための唯一の道です。そうしないと、攻撃的な人はどんどん争って戦争が起き、悲観的な人たちは子どもを産まなくなり、世の中がとても不健康な状況になります。

次世代の子どもたちが持つ価値観や行動力を応援しましょう

一方で、ジェネレーションZといわれる、26歳以下の子どもたちは環境問題に気をつかい、お互いに認め合う精神を持っています。インターネットやテレビ、本から得た知識が多く、固定観念が少ないのです。動物や海、地球を大切に守ろうと考えています。
私も息子たちから学んでいます。彼らは服や物を買わないし、物も集めません。長男の会社ではみんなが通わなくてすむようにと考えて、リモートワークを続けています。1年前にスペインに行った次男は、もうスペイン語が喋れるようになっていてびっくりしました。三男は環境に配慮したプラントベースフードの会社に入社して、AIを活かして動物を食べなくてもいいような世の中を作ろうとしています。彼らはどこでも友達ができるし、異文化に対して戸惑うことが少ないようです。

今の世代の子どもたちは優しく広い心と、他者を受け入れる精神、自分に何ができるのかを考える頭を持っています。私たちより先の未来を考えているのだと思います。「そうだよね、パパに教えて」「ママにも話して」と、むしろ私たち大人は、子どもたちから学び、応援していくことが大切かもしれません。

関連情報

新著紹介心に響いた人生50の言葉』

今回の本は「自分育て」のヒントが満載です。子育て世代は勿論、全世代を対象に、心を元気にする本です。親からの金言、自己肯定感、働くことの意味、家族の絆、夢を見る力、幸せになるため、元気になるため、強くなるため、賢明になるため等、シチュエーションごとに章構成し、読者の気持ちに沿って、好きなところから読めるよう工夫しています。この言葉がみなさんの心に響き、穏やかにこだますることが出来たら、最高に幸せです。

著:アグネス・チャン
発行:かもがわ出版
価格:1,700円+税
仕様:四六判・260頁

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

ご意見・ご要望・気になることなど、お寄せください!

「アグネスの教育アドバイス」では、取り上げて欲しいテーマ、教育指導や子育てで気になることなど、読者の声を随時募集しております。下記リンクよりご投稿ください。
※いただいたご意見・ご要望は、企画やテーマ選びの参考にさせていただきます。
※個々のお悩みやご相談に学びの場.comや筆者から直接回答をお返しすることはありません。

pagetop