2023.07.05
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子どものアレルギーに向き合う親が知っておきたいこと

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。花粉症や食物アレルギーなど、アレルギーのある子どもの数が増えています。アレルギーは特別な病気ではなく、身近な疾患として広く認識されるようになりました。家庭や学校でも対応が必要な場面も多いのではないでしょうか。今回は「子どものアレルギーに向き合う親が知っておきたいこと」をテーマに考えました。

食事と生活環境の見直しが重要なカギ

アレルギーのある子どもが増えている理由のまずひとつに、生活環境の影響が考えられます。アレルギーの原因はまだ分かっていないことも多いうえに、どんなものにアレルギーがあるのか、何がトリガーとなって発作を起こすのかは個人によって異なります。皮膚に症状が出る子もいれば、喘息になる子もいます。なかには、気道が腫れて窒息してしまうようなこともあるので軽く見てはいけません。まずは、病院を受診して、この子は何に対してアレルギーを起こすのかをきちんと調べることが必要です。
多くの場合、身体にあらわれてくる症状は食事で改善できます。ですから、食事には特に注意しなければいけません。一方で、住んでいる環境を清潔にすることも大切です。空気を清浄にしたり、湿度を調整したりする必要があります。特にハウスダストやダニの死骸に反応する子は多いです。その場合は、家をきれいにするしかありません。ぬいぐるみや泥のついた植物を置かないようにし、絨毯やソファーなどの布製品も取り除いて、ダニが生存しそうな状況を作らないことが重要です。生活環境と食事の改善に取り組むことが唯一の解決策ですので、アレルギーの子を育てる保護者はとても大変だと思います。

私が出会った例では、重度のアレルギーのある子がカナダに移住したところ、アレルギーが改善したことがありました。カナダは空気や水も清涼で、乾燥した気候がよかったのかもしれません。徐々に食べられるものが増え、最終的にはアレルギーの症状は出なくなったそうです。前向きな子で、お母さんも一生懸命に子育てをしていた結果だと思います。同時に、いかに私たちが汚染されている環境の中で生活しているのかということも実感しました。敏感な子どもにとっては、学校や外出のときの排気ガスや花粉は、地獄のような状況だと思います。この悪循環を止めてあげたいと思いますが、みんなが移住できるわけではなく、難しい問題です。それでも、日本にはまだ環境のきれいな地域がたくさん残っています。香港は国土が小さく逃げ場がないので大変な状況だと聞いています。

目標を持つことで前向きな気持ちに

アレルギーは生活に制限も多く、いつ治るのか分からず辛いこともあるでしょう。そんなときは親子で共通の目標を持つことも良いかもしれません。私が知っている子どもの場合、医学部に進学することを目標にしていました。アレルギーの子どもが苦しまなくて済むように、アレルギーを治す薬を研究したいと、お母さんと一緒に本気で目指していました。
共通の目的を持つことで、前向きな気持ちになることができます。病気のことばかり気にしてしまうことは辛いので、気晴らしも必要です。「頑張ろうね。元気になったら、旅行に行こうね」と子どもが好きなことを一緒に話しながら、目標を作っていくと、もう少し毎日が楽になるのかなと思います。

子どものアレルギーについて悩みを持つ親の集まりや支援の場で仲間を作り、情報を交換することもよいでしょう。食物アレルギーのある子どもがいる保護者の多くは料理が上手になります。食事を改善しなければいけないので、限られた食材でおいしい料理を工夫して作っています。そして、市販されているものにも詳しくなります。その知識を生かして、「うちの子はこの商品を試したら大丈夫でしたよ」「この製品の成分は危ないですよ」と伝えるなど、自分にできる貢献を考えることも、目的が生まれて病気がただの苦しみだけではなくなると思います。

家族で食事をするときには、「お兄ちゃんはこれが食べられないから、みんなも食べちゃダメ」と全員で我慢することはやめた方がいいです。もちろん、いろんな料理を用意して、アレルギーのある子どもに「何が食べられる、何が食べてはいけない」ことを覚えさせる必要があります。学校や社会では、いろんな料理が出てきます、その中で、どうやって自分を守るかということを、小さなときから段々と覚えていくようにしないといけません。

アレルギーがある場合は、何ができないのか、何が食べられないのかを子どもが自分で言えるようにしなければなりません。今はアレルギーに対しての理解も広まって、対応を拒否されたり、いじめられたりすることも少なくなっていると思います。小さな子でも、急にかゆくなったり、咳が止まらなかったりして、自分が一番つらさを分かっています。だから、できるだけ早い段階で「これは食べられない」ときちんと覚えて、自分で管理できるようになるのが大切です。

経験を通して深くなる親子の絆や思いやりの心

次男も動物やハウスダストなどにアレルギーがあり、蕎麦が食べられなかったり、花粉で鼻が詰まったりします。だからこそ、健康に気を付ける人間になりました。アレルギーがあることは大変ですが、自分の身体を理解し、環境について考えるきっかけになるので、ある意味で良いことだと思います。自分の命や健康について考え、生きていることをありがたいと思うようになります。さらに、同じような悩みを持つ人々に対する優しさや思いやりも生まれます。ですから、「これは良い人になる一つの恵みでもあるのよ」と子どもに教えることも大切です。

アレルギーのある子どもと親の絆は非常に深いものです。親は子どもの生活や食事に気を遣って大変だと思いますが、子どもとの絆が強くなるのは恵みです。
私は、世の中に起きたことは全て良い方へ考えるようにしています。重度のアレルギーがある場合でもいつかは子どもが自分で管理できるようになります。そして上手く社会で生活していけるのです。どのようにして、この経験を良いものにしていくか考え、取り組んでほしいと思います。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

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