2023.06.07
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子どもの脳を育てる音楽の力

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。「楽器を習うと頭が良くなる」「音楽は情操教育に効果的」といった言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか? 特に、ピアノは子どもの習い事としても人気です。今回は「子どもの脳を育てる音楽の力」をテーマに考えました。

音楽が子どもの脳に与えるたくさんの良い影響

子どもたちにとって音楽はとても素晴らしいものです。音楽には良い影響がたくさんあります。そのうちの一つは脳の働きが良くなることです。認知機能、つまり頭の働きが良くなるということが証明されています。楽器を演奏したり、音楽を聴いたり、歌を歌うことによって子どもたちの脳の働きが活性化され、記憶力や言語処理能力、空間認知能力なども向上するといわれています。
音楽は創造力も高めます。例えば歌を歌うとき、子どもによって歌い方は異なり、それぞれが自分なりの表現をします。音楽は自分の感情を表現するとてもいい方法なのです。「私は誰だろう」という自分自身のアイデンティティを確認するためにも有効です。英語で「自分の声を見つける」という言葉があるのですが、音楽は自分自身を表現するための訓練にもなります。
ほかにも、歌を一つ覚えたときや、曲を一つ弾けるようになったときには達成感があり、自己肯定感も高くなります。みんなで歌ったり、バンドやオーケストラに参加したりすることで、社会的なスキルを育てることもできます。みんなで協力して演奏することで、助け合いやチームワーク、コミュニケーション、思いやりを身につけることができるでしょう。

音やメロディ、リズムに触れるチャンスは身の回りにあります

「我が家は音楽が好きではないし、歌も聴かないわ」と思っていても、身近なところに音楽は存在しています。楽器を弾く機会がないと思っていても、お箸でテーブルを叩けばドラムのようなものです。みんなでリズムや歌に合わせて笛を吹いたり、鈴を鳴らしたりすることもすべてが音楽です。マラカスやカスタネット、おもちゃの木琴など簡単なもので充分です。小学校で教わるリコーダーや鍵盤ハーモニカも息を吹きながら指を使うので、脳のトレーニングになります。音とメロディとリズムを合わせていくことによって、子どもの脳はとても成長します。

もし、子どもが興味を示したら、楽器を弾けるようになるのも良いと思います。ギターやウクレレ、ピアノ、バイオリンなど、日本では子どもが希望すれば手に届かないものではありません。町内会や子ども会など地域の活動として、お祭りのために和太鼓や笛を練習しているところもあります。お金をかけなくても、みんなと一緒に音楽を楽しむチャンスはいくらでもあります。
楽器を学ぶだけでなく、合唱団に入ることも素晴らしい経験です。譜面が読めるようになり、みんなと一緒にハーモニーができたときのうれしさや、一緒に歌うときの高揚感を体験できるでしょう。

プロフェッショナルの演奏を聴きたかったら、日本は数え切れないぐらいの公演があります。私の住んでいる東京では、毎日どこかで公演があり、料金も高いものから手ごろなものまで、ありとあらゆるジャンルの音楽を楽しむことができます。子どもによっては、クラッシックが好きだったり、演歌、ポップス、ジャズ、民謡のほうが好きだったりと、さまざまな好みがあります。音楽に触れることや歌うことのチャンスはたくさんあります。いろいろな音楽を聴いて、子どもが一番好きな音楽を見つけられるといいですね。
音楽は不思議なもので、自分の言葉で表せない感情を感じたり、歌って表現することができたり、癒しや励ましといった心理的な支えとなります。音楽は子どもの人生を幸せにするので、積極的に触れさせていくと良いでしょう。

音楽には人生を支えてくれる力があります

今の子どもたちはアニメソングやバーチャルアイドルなども聴いていますが、親世代にとっては馴染みのないカルチャーかもしれません。私たちが若いころにも流行した歌はありました。今は多くの人にとっての青春ソングとなっています。40代や50代になっても、その曲を聴くと胸が温かくなったり、思い出が呼び起されたりするのです。今、流行している歌も、いつの日か子どもたちが思い出して懐かしむようになるでしょう。聴く音楽や好みは子どもに任せていいと思います。

ウォークマン(R)などの手軽に携帯できる音楽プレーヤーが登場して以来、音楽を聴くのに親と一緒に家にいる必要はなくなりました。自分の好きな音楽をヘッドフォンで聴いて、それぞれの世界に浸ることができるようになったのです。音楽業界からすると、宣伝が難しくなったと言われています。テレビで音楽を流しても、実際には個々にヘッドフォンで別の音楽を聴いているのです。そのため、親子で共通する音楽の世界を作るのは難しくなりました。しかし、それは世の中の流れなので仕方のないことです。全世代共通のヒット曲が生まれにくくなった代わりに、音楽のジャンルは広がり、多くの歌手が誕生して、自分だけの美しい世界に生きる人が増えました。これが良いか悪いのかという議論は別にして、みんなが自分だけの音楽の世界に浸り、自分の好きなものを聴けるようになったのです(子どもの場合はヘッドフォンの音が大きすぎて、耳にダメージを与えないように注意が必要です)。
音楽はその人のプライベートのものなので、心に響くものは人によって違います。音楽は人生を支えていくものであり、音楽の力はとても大きいのです。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

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