2023.05.03
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理解できない子どものファッション、個性として認めますか?

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。短すぎるスカートや派手なメイク、だらしない着こなしなど、親から見て理解しがたいファッションについても、子どもたちの個性として認めたほうが良いのでしょうか?今回は「理解できない子どものファッション、個性として認めますか?」をテーマに考えました。

子どもが自分で服を選ぶことの意味

保護者によって、子どものファッションに対する許容度は違うと思います。流行に敏感な保護者だったら、子どもが最先端なファッションを身につけても「全然いいんじゃない?クールだね」と思うでしょう。あるいは保守的な保護者なら、スカートが短かったり、男の子の髪が長かったりするだけで、気になると思います。
私たちがなぜ服を着るのか? 現代人は身体を保護する以外に、服を着ることは自己表現であり、好きな服を着ることで自信がつくからです。ファッションには「この格好をして自信がついたので出かけよう」「この服を着れば、みんなに溶け込むことができて安心だ」「これを着て今日は目立ちたい」など、人によっていろんな目的もあります。
子どもが選ぶスタイルで子どもの気持ちや好み、目指している人物像も知ることができます。想像力の豊かな子どもだったら、変わったファッションを着たりするかもしれません。ファッションは自己表現ですので、それは尊重されるべきだと思います。

我が家では、基本的に子どもの服装については本人たちに任せていました。長男が小さい頃は、プレゼントでいただいた服をたくさん持っていたので、私が選んで着せていたこともあります。しかし、彼が自分で服を選べるようになってからは、任せるようになりました。そして、たとえ変な組み合わせだとしても、私は黙って見守っていました。3人の息子の中でも次男は、ファッショナブルなタイプなので、自分なりにアレンジして服を着たりしていました。それも私としては全く問題ありません。
そうやって段々と、自分に何が似合うのか分かってくるのです。私が理想とする子どものイメージではなく、彼らが表現したい自分、周りからこう見てほしい、こういうファッションを着たら自信が出る、そういった自己表現をするために、賢く選択できるようなファッションセンスを身につけてほしかったのです。

自分らしさを貫いた長男のロングヘア事件

子どもが好きなアニメキャラクターの洋服を着たいと思うことも、私は大賛成です。人生の中で、そういう服を着て、道を歩いたり、学校に行ったりできるのは、小さいころだけです。その楽しみを奪ってはいけないと思います。
もちろん女の子が露出の高い服を着ていたら、「危ない地域を歩く時は何か羽織った方がいいよ」といったアドバイスをすることも必要かもしれません。しかし、「こんな服を着ちゃダメだよ」という、否定的なダメ出しは控えた方がいいと思います。子どもは試行錯誤をしながら、自分探しをするのです。

長男は高校時代、髪を伸ばしていました。学校のルールでは男子は髪を伸ばすことは禁止されていたのですが、彼は「男女差別だ」と主張して、男子生徒も髪を伸ばせる運動を起こしました。「女子は髪を伸ばせるのに、なぜ男子は髪を伸ばしていけないのか?これは男女不平等」と訴えました。彼は卒業式までずっと髪を伸ばし続け、その結果、学校が「男子も髪を伸ばしてよい」とルールを変えたのです。私も彼の考え方に納得させられました。
個性的なファッションをしているといじめられるのではないかと考える保護者もいるようです。それはいじめる側がおかしいと思います。子どもが自分で選んだ服を着て、自信を持って「素敵」「かっこいい」と思えるようになることが大切です。親は子どもの選択を応援すべきです。もし、子どもが周りと違う格好をしていたら、「お!いいね」と声を掛けて、自信を持たせることが重要だと思います。もしそれでいじめられたら、相手の子どもたちの親や先生にその行動をやめてもらうように話したほうがいいと思います。

しかし、服装が心の状況を表す時があります。例えば、急に全身真っ黒な服を着て、顔にも濃いメイクをして、暗くしている子どもがいたら、子どもの心に変化があったのかどうか親として確認する必要があります。子どもがただファッションとして楽しんでいるのか、それとも自分の心の中で表現できないような何かがあるのかを確かめてみることをお勧めします。子どもの様子をよく観察し、話をして、子どもを理解することが大切です。その格好が好きだからやっている場合は問題ありませんが、ファッションは場合によっては心を表現しているので注意が必要です。

ファッションも子どもの自己表現として尊重しましょう

私の息子達は外見を全く気にしていません。普段はずり落ちそうなジーンズを履いたり、穴のあいたTシャツを着たりします。環境問題に熱心な彼らは極力物を買いません。古い服を気にせずに着ているし、服が欲しい時はリサイクルショップで買っています。彼らから見れば、古い服を大事に着るのが一つの生き方です。「僕たちはこういう人間だ」と表現しているのです。
もちろんお葬式や結婚式ではスーツを着て、大事なプレゼンテーションがある日はシャツのボタンを締めます。そういうことをきちんと理解しているので、普段は何を着ても構わないと思います。高級ホテルで一緒にいるときに彼らがボロボロな格好をしていても、私は気にしません。それは彼らがみんなに見せたいイメージなので、親が口を出すべきではありません。

もし子どもが奇抜なファッションをしていたとしても、その子にとって楽であり、自信を持てるのであれば、親はそのファッションを応援すべきだと思います。子どもが自分らしく表現できるのは素晴らしいことです。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

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