2023.03.01
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口答えばかりして困らせる子どもへの接し方

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。親に向けて、「バカ!」「ウザい!」と口答えをしてくる子どもとのコミュニケーションはどうしたらよいでしょうか。今回は「口答えばかりして困らせる子どもへの接し方」をテーマに考えました。

親を大切にしない人は周りから信頼されません

自分をリスペクトする人は人もリスペクトできる。親に暴言を吐くのは自分をリスペクトできていない証拠です。ここで言う「口答え」は汚い言葉や、親に対して暴言を言うことを指します。わが家では、子どもたちの口答えを絶対に許しません。子どもが小さかった頃、家族でドライブしていたとき、長男が私に言い返したことがありました。それを聞いたパパは車をとめると、ドアを開けて彼を外につまみ出したのです。土砂降りの雨の中、長男にむかって「ママに口答えするな」「もう君はここに置いておこう」と言いました。私もびっくりしましたが、長男も自分のしたことの重大さに驚いてすぐに謝りました。そのくらい、我が家では口答えは絶対にだめなものです。
私も子どもたちには「親に口答えをすると雷が鳴る」と教えていました。子どもが口答えしようとすると、「あれ?雷が聞こえたかな?」と言って注意します。親に口答えをすると、いつか大きな結果に繋がる可能性があると理解させるためです。

子どもが親にむかって汚い言葉で言い返す家庭もあるようですが、まるで親を同世代の友達のように扱っています。でも親は友達とは違います。親は子供に対して、社会的に重い責任を負います。成人するまでは、子どもが犯罪を起こしたら親の責任です。子どもを愛するからこそ、命を懸けて子どもを守っているのです。普段は子どもと仲良く、楽しく過ごしていたとしても、その裏で親は重い覚悟をしているということを子どもには分からせないといけません。
親を大事にしない人は感謝の気持ちが持てないということです。親が育ててくれたことを「当たり前」と捉えています。しかし、生まれた事、育ててもらった事を当たり前と思っている人間は、大人になっても、周りから信頼される人にはなれないでしょう。妊娠して、出産して、子どもを育てることの大変さを理解せず、「親が勝手に産んだ。私は頼んでない」と思っていては、自分の存在の意味も、親の愛情も否定している事になります。それでは幸せにはなれないのです。もちろんいろいろな親がいますから一概に「感謝すべき」とは言えませんが、大抵の親は子どものために必死で頑張っていると思います。

口答えは親の愛情に対する甘え

一度、空港で親にむかって「うるさい!」「死ね!ばばあ!」と怒鳴っている子を見かけたことがあります。私はそれを聞いたときにショックを受けて、自分の息子たちに「もし君たちが私に『死ね』と言ったらこの場で舌を噛んで死にます」「絶対に親に言ってはいけません」と言いました。

人を物として扱うような言葉や自分を偉く見せようとするような態度は、逆に自分自身を貶めてしまうものです。もっと自分を大事にしてほしいなら、人を傷つけるようなことは言ってはいけません。そして、口にしてしまった言葉は戻せませんから、「死ねばいい」などと本当は思っていないことを言わないことです。しかも、周りの人には自分の家族に悪い印象を与えてします。家の中の教育が行き届いていないと思われてしまいます。
息子たちにも、怒っている時、興奮している時に、まず「深呼吸を10回」するように教えています。興奮していると言わなくてもいいことまで言ってしまうことがあります。怒っているときほど慎重に言葉を選ぶようにすることです。

親にむかって暴言を吐く子どもは「パパとママは何を言っても許してくれる」と、親の愛情に甘えているかもしれません。でも、親もひどいことを言われたら傷つきます。子どものことが大事だから、争いたくない為に、許してしまいます。思春期のせいだから怒っても仕方ないと、耐えている親もいると思います。しかし、これは子どものためにはならないのです。傷ついて辛い気持ちは子どもに伝えたほうがいいと思います。自分の言葉は暴力であり、人はそれによって傷つく事になる事を教えてあげないといけないのです。子どもに理解してもらうようにしましょう。パーフェクトな親になることは難しくても、子どもに「この人を傷つけたくない」と愛おしく思ってもらえる親を目指したいです。

お互いに尊重できる関係を目指して

子どもに気持ちを伝えるときにも、「あなたにはがっかりした」「失望した」「ダメな子だ」という言葉は使ってはいけません。子どものことを否定せずに、根気よく話すことが大切です。子どもの存在を否定せず、子どもを信じている気持ちを伝えるようにしてください。なぜ怒ったのか?どこで意見が食い違っているのか?気に食わない理由をとことん話し合う必要があります。子どもが自分のことを「本当の私はもっといい子。今回はしくじってしまった、次は絶対にやめよう」と思えるように接することです。子どもは自分が認めてもらえないと思えば、親と話しても仕方がないと諦めるようになってしまいます。

口の悪さは家庭での言葉遣いも影響します。子どもたちは大人の態度もよく見ています。親が暴言を度々吐くのなら、子どもは真似してしまいます。親も言葉遣いに気をつけることが大事です。お互いに尊重することが大事なので、我が子であっても、汚い言葉で叱ってはいけません。子どもに尊重してもらえる親になる為に、親も感情的になって子どもに「馬鹿」「アホ」と言ったりしてはいけません。子どものいい模範になりましょう。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

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