2023.01.04
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人生を変えるような目標を追いかけること

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。新年は何か抱負を考えて、新しいことを始めたくなります。あなたには達成したい目標はありますか? 今回は「人生を変えるような目標を追いかけること」をテーマに考えました。

目標は諦めないからこそ価値があります

英語にも「New Year's resolution」という言葉があり、目標をリストアップして、それを実行していこうとする英語圏の伝統的な文化があります。日本も同じく新年という節目に、新しく目標を立てて心機一転取り組もうとする習慣があります。これは共通する気持ちなのかもしれません。
でも、うちでは子どもたちと一緒に「今年はこうしよう!」と、1年の目標を立てるという習慣はありませんでした。我が家では、軽い気持ちでは目標を立てません。「目標というのは一度立てたら、その目標に向かって努力して、そして達成するまで諦めない」と教えていました。そして、いざ目標を掲げたらすぐに達成できないとしても、忘れる事なく何年かかってもやり遂げるようにしましょうと良く話していました。
目標と「やってみたいこと」「こうなったら良いね」という願望と区別しています。私にとって目標は人生を変えるようなものや、周りに影響を与えるようなものです。お正月に、「今年は毎日1時間走るぞ」と誓って、三日坊主でやめてしまう人はいるかもしれません。でもそれは我が家では本当の「目標」ではないので、諦めても、大して問題ではないと思います。
でも、「マラソンランナーになります」は目標です。そのために毎日走るのなら、諦めずに、最後までやり遂げたいものです。

成長した姿を見せたくて頑張った香港の50周年コンサート

私の知人の男性は「結婚記念日に奥さんと一緒にクルーズ旅行に行きたい」という目標がありました。でも、普通の会社員ですから簡単には行けません。お金を貯めて、長期の休みがとれるように仕事を調整して、何年もかけて準備していました。やっと実現したときの喜びはとても大きかったそうです。これはとても良い目標だと思います。

私自身が最近目標を立てたのは、一昨年の香港でのデビュー50周年記念のコンサートで、うまく歌う事でした。なぜそのコンサートで歌うことが目標になったかというと、歌う曲のほとんどが香港でのヒット曲だったからです。私は日本と香港の両方で活動していたので、香港の曲はレコーディングのときに1回歌っただけ、私がいない時に香港でリリースされ、ヒットするという曲が多いのです。つまりステージで歌ったことがないのです。曲によってはメロディーも歌詞も覚えていませんでした。25曲のうちに18曲は初めてステージで歌う曲で、私にとっては大きなチャレンジでした。
でも、やるからには「50年も経って劣化したな」とファンをがっかりさせたくありません。「絶対にうまく歌えるようにならないと」「さらに成長して、素敵になった姿を見てもらおう」と数カ月の間、毎日練習しました。友達にも会わず、家の中でも、外でも、散歩しながらもずっと練習していました。実際に、コンサートが終わってみたら、現地の新聞や雑誌で「若いころに聞いた歌声より今の方が素晴らしい」と大評判でした。私にとって、目標が達成できて大きな励みになり、本当にうれしかったです。これからどんなに難しいステージでもこなす自信がつきました。

次のステップに進むために、方法は変えても目標は変えない

我が家で「目標を立てる」ときは真剣です。時には自分が達成できるもの、時には「自分がやらなければいけない」と心から思ったものです。
アメリカにいる長男が独立して起業すると決めたとき、私は「どうして高収入の仕事を辞めて起業するの?」「もう少し貯金して生活が安定してからのほうがいいと思う」「このプランは難しい」と反対しました。でも、長男は「成功すると思っています」「これは僕の目標ですから」と言いました。起業してから最初の何年間はCOO(最高執行責任者)という役職でした。事業は華々しく見えますが、実際の数字は良くなかったようです。でも、その後、彼がCEO (最高経営責任者)になってからは、業績が伸び、今ではアメリカで注目される会社となっています。私は、そんな彼をとても誇りに思います。
なぜならアメリカでは起業する若者は多いのですが、途中でギブアップするケースも多いのです。起業してうまくいかなければやめて、違うアイデアを出して、また再スタートする。また、うまくいかなければやめて、次の会社をおこす。そんな人が多いのです。
でも、彼は投げ出さずに、利益を上げるビジネスにまで育て上げました。私がいつも「目標を立てるなら最後までやり遂げる」と話していたことを覚えていてくれたのだと思います。

目標には困難が伴いますから、いろいろな方法を試しても必ず成功するとは限りません。むしろ、うまくいかない場合のほうが多いと思います。だから自分の能力をアップさせるために勉強したり、人間関係を作ったり、計画を何回も考え直して、その目標に向かっていくのです。自分ひとりの力では達成できず周りの助けが必要な場合もあります。目標を立てた以上は簡単に投げ出さない、方法は変えても目標は変えない、必ず達成するまで努力することです。
諦めてしまったら、新しいものは生まれません。1つ成功したら次のステップに進めます。もし諦めてしまったら永遠に次のステップに行くことはできないのです。子どもには目標を立てることの真剣さと、諦めない気持ちを教えることも大切だと思います。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

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