2022.11.02
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上手に子離れするためには

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。親にとって子どもの成長はうれしくもあり、寂しくもあります。子どもの自立によって子育てロスを感じたり、"空の巣症候群"といわれる喪失感に陥ったりする場合もあるようです。今回は「上手な子離れの仕方」をテーマに考えました。

いつか子どもが離れていくことを覚悟してやり残したことが無いように

子どもが親のそばにいて、親が影響を与えることができるのは大体14歳くらいまでのことです。中学校を卒業するまでは親の影響を受けていても、高校生になったころには子どもの人格は完成してしまいます。
だから14歳くらいまでは精一杯に子育てをして、子どもとコミュニケーションをとって、親がしてあげられることを全て考えて、一生懸命にしてあげることです。

母親にとって最初の子離れは出産です。お腹の中にいた子どもが出てきて、どこにいても一緒だったはずなのに自分から離れてしまいます。子宮から出てしまえば、母親以外の人が面倒を見てもその子は成長することができます。
次の子離れは、子どもが歩き出すときです。抱っこをしなければどこにもいけなかったのに、自分で歩いていけるようになります。しゃべり始めると、親以外の人とのコミュニケーションができるようになります。保育園や幼稚園、小学校と進むたびに子どもは親から離れていき、段々と子離れをしていくのが子育てです。
寂しさはありますが、いつか子どもが離れていくことを覚悟して、子育ての一つ一つの段階をしっかりとやっていくことが大切です。
子どもが成長していくために、親として何をしてあげることができるか。一生懸命に考えて、やり残すことがないほど真剣に考えて取り組めば、子離れはそれほど辛くないでしょう。むしろ、自分の頑張った成果として、子どもを世に送り出すことができます。

子どもがひとりで生きていけるように小さなころから自立の準備を

戦国時代くらいまでは14歳は結婚できる年齢でしたから、昔の子離れはそこで完結していました。でも、現代では子どもはずっと親のそばにいて、親の手厚いサポートを受けているので、自立するのに時間がかかります。
日本の場合、大学生になっても、就職しても自宅に住んでいる人も多いでしょう。仲の良い親子だと、お互いにとても快適で、結婚が遅れてしまうこともあります。
子どもを手放していくことは子育てでもっとも厳しいことです。しかし、それをやらなければ子どもは自立することができません。
子どもが自立できないということは、写し鏡のように親が子どもから自立できていないということです。お互いに依存することは、子離れが辛くなる原因ともなります。

私の場合、息子たちが15歳でアメリカに行ってしまったので、寂しい気持ちはありました。しかし、子どもがいなくなった喪失感やこれからどうすればいいのだろうという焦りはありませんでした。
もちろん、子どもに会いたい気持ちはあります。それは誰にでもある感情だし、それだけ絆が強いということなので抑える必要ありません。でも、子どもにしがみついて、留学についていったり、毎日電話したり、束縛することは避けた方がいいと思います。子どもの自立のためには過剰に寂しがることはやめましょう。 

大人になることには厳しさも伴います。いつかは親の庇護から離れて、生きていかなければいけません。最初は、子どもも戸惑うかもしれません。それでも、一度、送り出したら子どもが失敗しそうになっても、親は手を出さないことです。子どもを信じることはとても怖いけど、信じなければいけません。親が信じてあげないと、子どもは親に対する気持ちがネガティブになってしまいます。離れていても子どもを信頼することができるように、いつか独り立ちするための支度をしてあげることが大切です。

私たちも旅行に出かけるときは、事前にいろいろと持ち物を用意します。同じように子どもが人生の旅に出るのですから、準備が必要です。どうすれば人に信頼されるのか、いい選択ができるのかを教えておかなければいけません。お金の使い方や料理、緊急のときの対処法なども知っておいたほうが良いでしょう。ひとりで生きていくための生活力や心の強さ、頭の速さ、自己肯定感、人間関係の作り方、自分の意見の伝え方などを小さいときから教えてあげることが子どものための旅仕度となります。

神様がくれた短い幸せな時間に感謝して、自分の人生に戻る準備を。

熱心に子育てしていた人ほど喪失感が大きいようですが、子どもの人生は子どものもので、あなたの人生ではありません。子育てが終わったら、自分の人生に戻らなければいけません。急に目標がなくなってしまったように感じるかもしれませんが、実際には子育てに忙しくて果たせなかった自分の夢が一つか二つは必ずあるはずです。その夢に近付くようにしてみてはどうでしょうか。
子どもが自立してから慌てないように、子どもが高校生のうちに、自分の子離れを準備するのがおすすめです。もう一度、職場に戻りたいのならどうすればいいのかを考えたり、自分の価値を上げるための勉強をしたり、選択肢を増やすために資格の勉強をしたり、旅行をするための貯金をしたり、夢を叶えるための準備をスタートするのです。
子育てが終っても人生は長いのですから、果たせなかった夢ややりたかったことを目指していくべきだと思います。

子どもが自立していくことには寂しさもあります。でも、過剰に悲しむような愛情は子どもの負担になります。私たちは子どもの荷物になってはいけません。子どもに羽ばたいてほしいのなら、私たちが重しになってしまったら逆効果です。
子育ては子離れの連続です。子どもと一緒にいられるのは神様がくれた、ほんの短い間の幸せな時間なのです。自立するときがきたら子どもを手放して、子どものためにも自分の人生を歩いていかなければいけません。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

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