2022.10.05
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家庭のあり方の進化

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。恋人同士だったカップルが結婚して、子どもを産んで、親となり、夫婦の関係も子どもの成長とともに変化していきます。今回は「家庭のあり方の進化」をテーマに考えました。

子どもが生まれたら「お父さん」「お母さん」?

日本では子どもが生まれるとお互いを「パパ」「ママ」と呼び合い、子どもを中心に川の字で寝るなど、「お父さん」「お母さん」としての役割を優先する家庭が多いと思います。

ただ女性は家庭があれば割と満たされるのですが、男性は妻が赤ちゃんを優先することによって「放っておかれた」「寂しい」「妻が変わってしまった」と感じる場合があります。実際の調査でも、妊娠するまでの平均期間である結婚してから1~3年の間に浮気をする男性が多いという調査結果もあるそうです。では、女性が育児を優先していることが悪いことなのでしょうか?

出産後の女性は気分が落ち込むマタニティーブルーになりがちです。ちょっとしたことで泣いてしまったり、自信を無くしてしまったりするような状態での育児はとても大変です。赤ちゃんを育てることは毎日が勉強で、恋人同士のころのように身なりに気をつかったり、夫に優しくしたりする余裕はないかもしれません。

女性は妊娠中や授乳をしているあいだは排卵がなく、性行為をしても妊娠しません。母親の身体に変わっているのです。一方で、男性は父親になっても身体や状況は全く変わらないことも、夫婦間の意識のギャップが生まれる原因かもしれません。

夫婦の言い争いが与える子どもへの悪影響

もちろん夫婦は仲良くするほうが、子どもを育てる環境としてはベストです。お父さんとお母さんがケンカをしているという状況は、子どもの成長に深刻なダメージを与えます。お母さんがいつもお父さんにガミガミと言っている、お父さんが亭主関白でお母さんがおびえているなど、夫婦間に明確な力関係があることも良くありません。

子どもの目の前でケンカをしていると、子どもからは警戒するホルモンが分泌され、脳の血管が収縮し、脳の成長に必要な栄養が行き届かなくなります。まだ何も分からない生まれたばかりの赤ちゃんでも、夫婦のケンカを見せることは良くないと言われています。たとえDV(ドメスティックバイオレンス)などの暴力が無くても、言い争いや無視などストレスが多い家庭で育った子どもは脳が委縮しているという研究結果もあります。

家庭内で圧力を感じながら育った子どもは、前向きに世の中を見ることができなくなります。子どもの脳と心が成長する大切な時期に、おびえさせたり怖い思いをさせたりすることはできるだけ避けてほしいです。子どもたちのことを思えば、夫婦が仲良くいるために最大限の努力をすべきでしょう。

欧米では、ベビーシッターに子どもを預けて夫婦で出掛ける「デートナイト」という習慣があります。日本でも外国のように夫婦が「お父さん」「お母さん」ではなく、恋人同士のように過ごしたほうが良いという意見も聞くことがあります。
子ども抜きで男女の時間を楽しむことは一見夫婦円満の秘訣のようにも見えます。しかし、実際には日本の離婚率は1.7%である一方、アメリカでは2.5%と、アメリカの離婚率は日本を上回っています(「2021-世界の統計」総務省統計局)。夫婦でデートすることが必ずしも関係がうまくいくことに繋がっているわけではないのです。ただし、離婚しない事が家庭円満の証拠では  ないとも言えます。

心が温かくなる家庭を築く努力を

どのような家庭や夫婦関係を作りたいのかということは、人によって価値観が違うのでお互いに話し合うしかありません。話し合った結果、夫婦が同じ価値観で「二人だけの時間がほしい」「たまには一緒にお酒を飲みに行きたい」という願いがあるのだったら、実現は可能です。夫婦で出掛けてお酒を飲むのは数時間あればできることですから、それほど難しい話ではありません。夫婦の時間に限らず、「友だちと食事がしたい」「おしゃれして出掛けたい」など、どうしても譲れない希望があれば優先順位を決めて実行することもいいと思います。お父さん、お母さんになったからといって、全てを我慢しなければいけないわけではないのです。

もし、お父さんが「子どもに奥さんを取られた」と寂しさを感じるなら、蚊帳の外にいないで一緒に子育てをしましょう。夫婦が同じ目標に向かって一致団結して成長していくという満足感が得られると思います。
子どもにかかりっきりで夫婦で過ごす時間もないというのは、子育ての間のわずかな時期です。ですから、産後に夫婦だけで過ごす時間がとれないのはそれほど大きな問題ではないと思います。

お互いに愛情のある夫婦だったら大丈夫です。たとえ、自分の結婚した人が「お母さん」「お父さん」になり、外見や態度が少し変わっても相手へのありがたさや愛しさといった、新しい愛情が生まれてくるはずだと思います。

家族の在り方が時代と共に変わってきました。3組が結婚したら1組は離婚してしまうといわれる時代です。大人がどんな状況であっても子どもたちに悪影響与えない事を最優先にしてほしいです。長男が3歳の時に私が「どんな家族がいい家族?」と聞いた時に、「良い家族は思い出すと心が温かくなるの」と答えました。その言葉に感動しました。子どもにその「心が温かくなる」家族を築いて上げましょう。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

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