2022.09.07
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夏休み明けに「学校に行きたくない」と言われたら

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。長い夏休みが終わり、学校が再開する時期は、子どもが学校に行くことを嫌がり、不登校になりやすいタイミングと言われています。今回は「夏休み明けに『学校に行きたくない』と言われたら」をテーマに考えました。

夏休み明けは子どもの自殺も増加する要注意な時期です

夏休み明けは不登校が増えると言われています。実は自殺する子どもが多いことも心配です。学校に行くのが嫌な子どもは、長期休みが終わって、学校に行かないといけないことがゆううつです。「学校が始まればまたいじめられるかもしれない」「もう耐えられない」「死ぬしかない」と思い詰めてしまうことがあります。小中高生の月別自殺者数のデータをみると、夏休み明けの前後に自殺する子が増加しているようです。最悪の事態を避けるためにも、もし子どもが「学校に行きたくない」と言ったときには、軽く受け流さずにとことん話をする必要があります。

ときには「お腹が痛い」「頭痛がする」といって学校を休もうとする子もいます。これは仮病ではなく、学校に行きたくなくて本当に痛くなってしまうのです。下痢をしたり、熱が出たりと、精神的なことで身体に不調がでてくる子どももいます。子どもが不調を訴えるときには、怠けているのではなく何か理由があると思ったほうがいいです。

もし、私が子どもに「学校に行きたくない」と言われたら、その日は学校を休ませるでしょう。可能なら自分も仕事を休んで、子どもとじっくり話をします。なぜ学校を休みたいのか、子どもがきちんと話をしてくれるまでは諦めません。いじめられていたり、先生が厳しすぎたり、子どもによって休みたい理由は違うと思います。友だちとのトラブルや、女の子だったら生理などの身体の変化といった、誰にも言えずに悩んでいることがあるかもしれません。お腹や頭が痛いなら病院にも連れていきます。

親が本気で心配すれば、怠けたい気持ちがあった子どもは「ママが真剣になってる、これは大ごとになったな」と考え、軽く休みたいとは言えなくなります。本当に悩んでいた子どもは、親がここまで心配してくれて、一生懸命に聞いてくれるということは心強いと思います。

学び続けることだけはやめないで

学校は「義務教育だから通う」「みんなが行くから行く」という場所ではありません。学校は一つの枠組みです。学ぶ事は学校でなくてもできます。子どもは学校をやめても、学ぶことをやめなければ問題ありません。ですから学校に行かないということは、絶望的な事ではなく、学び続けることを全力で応援すれば、子どもは学び続けられます。子どもが「学校に行きたくない」と言い出した時、いくつか選択肢があります。今の学校に通い続けるのか、別の学校に転校するのか、それとも自宅で学ぶのか、子どもに最適な教育環境を考えてあげないといけません。

ただ世の中は枠組みががっちり組まれていて、その枠組みから外れるのには勇気が要ります。枠組みからはみ出してしまうと次のステップに進めないことがあります。卒業証書や内申点をもらえないと、希望の学校に進学できないこともあります。家の中で一人で学ぶことが寂しくなる場合もあります。学校に行けば、次のステップへの切符ももらえます。だからホームスクールを選ぶ前に、子どもとよく相談しないといけません。子どもが今の学校で直面している問題は解決できるのかどうか? 問題さえ解決すれば学校に行きたいと思っているかもしれません。

解決できない場合は、引っ越しするなど、学校に通えるための方法を考えることも大切です。通信制の学校や校舎をもたないオンラインの学校など、現在では選択肢も増えています。親が調べて提示してあげることも良いでしょう。

「学校に行きたくない」は子どもからのSOS

いじめられていることが分かった場合、家庭の教育方針によっては励まして登校させたり、「いじめに負けず、強くならないといけない」と教えたりするかもしれません。しかし、困難を乗り越えて強くなれる子もいれば、それに潰されてしまう子もいます。自分の子どもはどちらのタイプなのか慎重に見極めないといけません。

いじめは本当につらく、学校にいる間は逃げ場もありません。唯一逃げることができるのが、「行かない」という選択肢だけなのです。それが「絶対にダメ」と言われてしまうと、子どもは絶望してしまいます。子どものために逃げ道を作り、親が力になってあげないといけません。何かが起きてから後悔するということは絶対にしたくありません。

子どもは自分が弱く見られることを嫌がり、いじめられて恥ずかしいという気持ちもあり、親には話したくありません。必死に隠すので、多くの親は「いじめられていたことを知らなかった」と言います。だから、子どもが少しでもシグナルを出したときは見逃さず、向き合ってください。「たいしたことない」と軽く捉えずに「どうしたの?」「ママに話してほしい」と真剣に関心を持って、心の中の一言を聞き出すことが大事です。

いじめを解決することは難しくても、寄り添ってくれる人がいると思えることは大事です。「自分はひとりじゃない」「私の気持ちをわかってくれる人がいる」ということは、子どもにとって一番の支えになります。

夏休みが終わり、学校が始まる時期は、子どもの異変に気が付くことができるタイミングです。「学校に行きたくない」という言葉は、子どもから親へのSOSです。子どもの行動にはいろいろな意味が込められています。「学校に行きたくない」と言われたら、「よく話してくれたね、何があったの?」と、「親を信頼してくれてありがとう」という気持ちで受け止めたいです。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

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