2022.07.06
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

思考力を育てるためにできる親の声掛けとは?

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。今回は「学びの基礎となるような思考力をつけるために、人に興味を持つこと、物事に対して疑ってみることを育てるような親の声掛けはありますか?」のご質問にお答えします。

「どうして?」という好奇心が大切です

2021年からスタートした大学入学共通テストでは、「思考力」が問われる問題が出題され、考える力が重視されるようになりました。単なる知識や技能の詰め込みではない、「考える力」については私も度々、インタビューや著書でも語ってきました。計算や暗記だったら絶対にAIの方が早いですから、今は教育のターニングポイントが来ていると思います。

思考力を育てるためには、好奇心がすごく大事です! 好奇心があれば、自然と思考力も高まっていきます。どんなことについても「これはなに?」「どうして?」という好奇心を感じる子は、自ら学ぶようになります。学んで答えを得たときに、「なるほど!」「そうだったのか」というアハ体験で快感を得ます。

その興奮した気持ちを求めることが「好学」につながります。学ぶことが好きになって、知識を得るたびに興奮して、学ぶたびにうれしいと思い、考えることが習慣付くのです。そういう子どもは得る知識も多いし、知識に共通するところを見つけて、大きな一つの学問につなげることができるようになります。では、好奇心を育てるためにはどうしたらよいのでしょうか?

子どもの質問に「ちょっと待って」「忙しい」は禁句です

子どもは2歳くらいになると年がら年中、質問ばかりしている時期がきます。この時の親の反応が重要です。我が家では「ちょっと待って」「忙しい」は禁句でした。「あとでね」と受け流されてしまうと、子どもは「私の質問は大事じゃないんだな」「面倒くさいことなのか」と思ってしまいます。

私はどんなにつまらない質問でも、忙しくて手が離せなくても、まずは「よく聞いてくれました」「質問してくれて、ママはうれしいです」と褒めていました。私に分からないことを聞かれたときは「ママも分からないから一緒に考えてみよう!」と答えると、息子たちも「じゃあ答えを探してみようよ」と楽しそうに考え始めます。そうやって質問したことを大人に喜んでもらえると、いつでも好奇心を持って、きょろきょろと周りを観察し、物事や人に興味を持つ子どもに育ちます。

子どもからあまり質問をしてこない場合でも、親からたずねることはできます。私は、息子たちに対して「君はどう思う?」という質問もよくしていました。例えばみんなで話しているとき、子どもには全く関係のない話題でも「君はどう思う?」と聞くのです。最初はすぐに答えられないと思います。でもいつもやっていると、周りの話もよく聞くようになるし、もしかしたら質問されるかもしれないと思って自分の意見を考えるようになります。自然に周りの話を聞いて理解して、自分の意見を持つというプロセスが鍛えられます。

子どもも大人の会話に参加してOK

違う価値観や意見に触れることも大切です。私は仕事や自分の友達との食事など大人の集まりにも、息子たちを連れて行っていました。そこでも、必ず「君はどう思う?」と息子の意見を聞くのです。すぐに答えられないときは、「後でまた聞くね」と考える時間を与えます。そして、帰り道に「さっきのことはどう思う?」ともう一度聞きます。次の日でも「そういえば昨日の件だけど」と、意見が出るまで繰り返し聞きます。質問に答えない限りママはあきらめないんだと、息子たちは思ったことでしょう(笑)。

日本では大人は大人同士で会話して、子どもは別の場所で遊ぶという場面が多いですが、それでは子どもの聞く力は子ども同士のレベルにしかなりません。大人の会話に参加して、自分の意見を考える機会をつくることもぜひやってみてください。

今では息子たちが私より博識になり、会話していると「ママには思いつかなかった。すごいですね」と感心することがあります。そうやって次男を褒めたら、今度は長男が違う意見を言って、それを聞いた三男がまた意見を言ってと、次々新しい考えが出てきます。褒めることって大人になっても効果的です。

最近、「マインドフル」という言葉が流行っています。周りすべてに関心を持つという意味ですが、これも思考力に近い考え方です。例えば、ご飯を食べるとき、子どもに「どう?気づいた?」「今日はお酢を変えてみたのよ」と聞いてみます。「どうしてこの歯ブラシを買ったと思う?」など何でもいいです。どんなことでも考える種になります。普段なにも考えないでやっていることを考えさせてみること、面白い知識に出逢います。学ぶ楽しさを実感できます。これも思考力を鍛えるために大切です。

思考力は家庭の中で十分に育てられます。勉強をしたから身につくものではなく、親の毎日の関わり方が大切です。質問を受ける、質問をする、その繰り返しです。子どもが質問してきたら、「いいですね」と大いに褒めてくださいね。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

ご意見・ご要望・気になることなど、お寄せください!

「アグネスの教育アドバイス」では、取り上げて欲しいテーマ、教育指導や子育てで気になることなど、読者の声を随時募集しております。下記リンクよりご投稿ください。
※いただいたご意見・ご要望は、企画やテーマ選びの参考にさせていただきます。
※個々のお悩みやご相談に学びの場.comや筆者から直接回答をお返しすることはありません。

pagetop