2022.06.01
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出産を体験しない男性にとって、"父親"の自覚はいつ生まれますか?

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。育児を積極的に楽しむ男性を「イクメン」とよぶ言葉も一般的になりましたが、まだまだ育児は母親が主体で、父親は「お手伝い」と考える男性も多いようです。今回は「出産を体験しない男性にとって、"父親"の自覚はいつ生まれますか?」をテーマに考えました。

未知のことには関わりたくない気持ちも

子育てに関わらないパパがいるとしたら、もしかして赤ちゃんや育児についての知識が不十分なのかもしれません。自分の知らないことだから、積極的にやろうとしないのです。自信があったら、パパも喜んで育児に関わると思います。想定できないからやりたくないし、やらなければ失敗して恥ずかしい思いをすることもありません。だから、もしパパにも子育てに関わって欲しいのなら、一番良い方法は赤ちゃんについての予備知識を身に付けてもらうことです。

お母さんは妊娠中に助産師さんに教えてもらったり、自分の母親や友達と情報を交換したりして予備知識を手に入れる機会が多くあります。たいていの育児本や妊娠、出産本も女性向けに書かれています。母親は知識が無いと赤ちゃんが生まれたときに困ってしまうと分かっているので、一生懸命に覚えようとします。

でも、時々その知識を優越感として「あなたには分からないでしょ」といった態度でお父さんと接してしまうと、お父さんは関わりにくくなってしまいます。お父さんは失敗したくないし、奥さんに慌てている姿を見せたくありません。だから、夫に対しても赤ちゃんについての知識を積極的に共有して、一緒に乗り越えていこうとすることが大切です。お互いに新米のパパママですから、知らないことがあって当たり前です!

むしろパパの方が赤ちゃんについて詳しいという状況をつくってもいいですね。プライドの高い男性だったら、奥さんに教えてもらうのは嫌かもしれません。だから、ママが何でも教えるのではなく、自分で本を読んでもらうのはどうでしょうか。「私は妊娠しているだけで大変。本を読める状態じゃないから、あなたが読んでくれる?後で助けてね。一緒に頑張ろうね」みたいな感じで、自然に誘ってみるのもいい案です。

私の『0歳教育』という育児本も、意外なことに男性から好評でした。読んだ男性からは「赤ちゃんの胃というのはクルミくらいの大きさですね。だからすぐに吐いてしまうのか」「0歳は脳の基盤ができる大切な時期なんですね」など、知らなかったことへの驚きの感想をもらいました。

パパに知識があれば、張り切って実践してみようと思うかもしれません。ママが「赤ちゃんが泣いてばかり」「全然寝ないわ。どうしよう」と焦っているときに、「赤ちゃんは泣くのがコミュニケーションですよ」「赤ちゃんは大体16~20時間は寝ています。私たちが寝てほしいときに寝ないだけです。小刻みで寝ているから大丈夫」などと披露できる知識があれば、パパも育児にも関わりやすいでしょう。

親の愛情は、子育てに関わることで芽生えます

お父さん、お母さんになった実感というのは、子どもがかわいいと感じたときに生まれます。これは親だからとか産んだから感じるものではなくて、育てたから感じるものです。赤ちゃんが笑ってくれたとか、初めて歩いたとかの経験が積み重なって、愛おしさを感じて、この子のためになんでもやってあげたいという気持ちが生まれてくるのです。

だから、パパにもそのチャンスをたくさん与えることが大切です。パパを信頼して、赤ちゃんを預けてみましょう。ママの「お手伝い」ではなくて、赤ちゃんと二人っきりで過ごすのです。初めは1時間でもいいと思います。預けた後、パパが「やっぱりママがいないとダメです。ずっと泣いていました」と言うかもしれません。でも、私なら「すごい!生きている!私がいるときだって泣きますよ。赤ちゃんが息をしていれば大丈夫。次はもっとうまくいきます」って励まします。赤ちゃんが無事ならそれで十分です。

最初に預けるときは、赤ちゃんにとって、良いタイミングを選びましょう。オムツを交換して、ミルクも作って、赤ちゃんがぐずりそうにない状況にしてあげます。抱っこひもや赤ちゃんを背負うベビーキャリアなどもパパ専用のものを用意するといいですね。一回、成功して、「ほらね。赤ちゃんはパパの匂いが好きなのよ」などと言ってもらえれば、パパも自信がつきます。実際に、男性は手も大きくて身体もがっちりしていますから、赤ちゃんも安心して眠れるのです。

赤ちゃんを裸で抱っこする“ベイビーウエアリング”

男性は育児が分からないから、自分が手を出したら邪魔になるとか、余計に泣かせてしまって奥さんに責められるかもしれないと思って関わらないようになってしまうのです。だから、パパにダメ出ししたり、上から意見を言ったりすることは無しにしましょう。間違えたらお互い様です。ママだって失敗することがありますよね

産後の女性は疲れて気が張っていますから、避けてしまう男性もいます。自分の知らない世界で、母と子がひとつになって、「僕は蚊帳の外」みたいな寂しさや不安もあるかもしれません。おっぱいを絞って哺乳瓶に入れて「パパもあげてごらん」といって誘ったりして、参加しやすい雰囲気をつくることもいいでしょう。私のおすすめは「ベイビーウエアリング」です。「赤ちゃんを着る」つまり、赤ちゃんを身に付けるように抱っこする方法です。親がシャツを脱いで、裸の赤ちゃんを抱っこして、その上から服を羽織るという、裸と裸のお付き合いです。赤ちゃんにとっては温かくて気持ちいいらしいし、抱っこする側にもすごい一体感があって愛情が深まります。

男性が育児をすることを「手伝ってくれてありがとう」と大げさに感謝するのは、ママにもストレスかもしれません。二人の子どもですから、子育てするのは当たり前です。でも、お互いにほめあえるような関係だと和やかに育児ができそうです。「助かるわ」「上手」「かっこいい」「もう一回やって見せて!」と、パパになった彼の新しい魅力を発見して、惚れ直すような気持ちで一緒に子育てができるといいですね。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

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