2022.05.04
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

平和のために私たちができることは

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。ウクライナでの争いは収まることなく、日々激しさを増しています。瓦礫と化した街の様子や避難する家族などの映像に、子どもたちも「どうして戦争するの?」「何か自分たちにできることはないの?」とショックを受けているかもしれません。今回は「平和のために私たちができることは」をテーマに考えました。

いつの時代も無くならない戦争

ウクライナの子どもたちが戦争によって危険な状況にさらされています。突然始まった戦争に驚いている人も多いようですが、実際にはウクライナ以外にも、イエメンやアフリカでも内戦はずっと続いています。ほとんど注目されていないのが残念です。
自分の子どもたちに話すときには「現実には、いろいろな国で同じようなことが起きていますよ」「苦しんでいる人たちが世界には大勢います」と一言付け加えてほしいです。報道されることが少ないから、私たちが知らないだけなのです。

ウクライナを訪問して感じた無力さと平和を守る難しさ

私はユニセフの活動として、2018年にウクライナを訪問しています。今、最も内戦が激しいとされる東部のドンパス地域です。実は私が訪れた時点で、すでに5年間も紛争が続いていました。私が訪れたときは、ドンパスの一部は反政府勢力が支配していた時期でした。銃撃戦と背中合わせという過酷な環境で生活している子どもたちと会ったときは、「なんのための戦いだろう」「どうして争いを止めようとしないのだろう」と無力感でいっぱいになりました。

ウクライナにはとても豊かな大地があり、国の8割以上が農地です。平地が広がり、気候にも恵まれ、肥沃な黒土ではどんな農産物でも育てることができます。報道で知った人も多いと思いますが、ひまわり油や小麦粉、大麦などの輸出大国です。ソビエト時代からの流れで、ハイテク強国でもあり、優秀な技術者も大勢います。避難する人たちの映像を見ていても、子どもたちはやせ細っておらず、身なりも整っていて、いわゆる「難民」のイメージとは違います。争いさえなければ、みんなが安定した暮らしができる国なのです。

国民が求めているものは「勝利」ではなく、「平和」ではないでしょうか。国民の多くが農業に従事して、代々土地を受け継いでいますから、土地を離れたくないという強い思いがあります。たとえミサイルが上空を飛んでいても、自分の土地を守りたい人が大勢います。先祖から受け継いだ土地を大切にする気持ちは、同じ農耕民族である日本人にも通じる国民性かもしれません。国外へ避難した人たちも、攻撃が落ち着けば自分の家に戻り、また土地を耕し始めるでしょう。

世界中の人々が、どちらが勝つのかということに注目するのではなく、どうすればこの争いを終わらせることができるのかということをもっと考えてほしいです。私がウクライナを訪れたときにも戦争状態でしたが、今ほどの被害はありませんでした。今回はここまで争いがエスカレートしてしまい本当に残念に思います。

平和への第一歩は知ることから

親として、子どもたちに最もすすめたいことは「知ること」。ウクライナがどういう状況なのかを、一方的な情報ではなく、いろいろな角度から考えてみてほしいです。今回の軍事侵攻はとてもショックですが、平和について考える機会にもなります。ウクライナとロシアに限らず、世界の現状を考えてみたり、歴史について調べてみたりしてください。難しい話ですから、大人でもよく分からないかもしれません。

私たちが戦争を止めるためにできることはとても少ないですが、まず知ることが第一歩です。普段から知っておくことで、いざというときに正しい行動をとることができます。極端なことを言えば、戦争を起こすことは簡単です。戦争は数人の決断で始められますが、戦争を止めるためにはものすごいエネルギーと沢山の人の思いが必要です。どうやったら争いをなくすことができるか、平和を実現できるかというのは本当に難しいことです。戦争が続かなくてすむように、停戦や平和にみんなの力を注ぎましょう。争いで解決しようとするとエスカレートしていくばかりです。話し合って解決することができたはずです。

平和の大切さや命の貴さについては、唯一の被爆国であり、平和憲法を守る日本人が一番よく分かっていると思います。「平和に暮らせる日本を大事にしようね」「平和を守るためにはどうしたらよいかを考えようね」と子どもたちと話すのも重要な点だと思います。私の気持ちとしては、苦しんでいるすべての子どもたちを救いたいだけです。平和を切に願っています。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

ご意見・ご要望・気になることなど、お寄せください!

「アグネスの教育アドバイス」では、取り上げて欲しいテーマ、教育指導や子育てで気になることなど、読者の声を随時募集しております。下記リンクよりご投稿ください。
※いただいたご意見・ご要望は、企画やテーマ選びの参考にさせていただきます。
※個々のお悩みやご相談に学びの場.comや筆者から直接回答をお返しすることはありません。

pagetop