2022.03.02
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コロナ禍で育つ子どもたちの世代間ギャップについて

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。長く続くコロナ禍で、子どもの学校生活もこれまでとは一変しています。楽しい学校生活がコロナ禍によって奪われてしまったと思っている保護者もいるかもしれません。今回は「コロナ禍で育つ子どもたちの世代間ギャップについて」をテーマに考えました。

コロナ禍の終わりを待っているだけではもったいない

新型コロナウイルス感染症が最初に登場したときには、私たちは3カ月もしくは半年くらい我慢すれば元通りの生活が戻ってくると信じていました。それが1年になり、2年になって、今はもう3年目です。もう感染症の終わりを待つのではなく、今の状況を受け入れて、これからどうしていくかと考え方を切り替える時期が来ているように思います。

私もこれまでは、「感染症の流行が早く終わらないかな」と考えていました。でも、終わることを待っているうちは新しいことが始まらず、時間が止まってしまっているような状態です。だから、最近はコロナ禍の終わりを考えないようにすることにしました。特に子どもは毎日、成長しているのですから、以前の生活が戻ることを待っているだけではもったいないです。子どもたちがどうやって時代に適していくのかを考えるようにしたほうがいいと思います。

私たち大人には、理想とする学校生活があります。文化祭や遠足があって、みんなで大声を出して歌ったり、友達とじゃれあって遊んだり、そういったことをさせてあげられないのは保護者から見れば悲しくて仕方ないかもしれません。「お兄さんは修学旅行に行けたのに、あなたは中止でかわいそう」「今の子どもたちは、運動会ができなくて残念」と、子どもに対して申し訳ない気持ちでいっぱいかもしれません。でも、大人が「残念」と思えば、子どもも「残念」と思ってしまいます。親が「かわいそう」と思えば、子どもも「自分はかわいそうだ」と思ってしまいます。だから、まずは親が前向きになりましょう。

「残念」とは思わずに、やりたいことがあったら何か方法を考えましょう

今年の年末年始は、久しぶりに息子たちに会うためにアメリカへ行っていました。滞在中、急速にオミクロン株の感染が広がって、どんどん状況は悪くなってしまいました。私は息子や友人たちと一緒に家族恒例の「パイコンテスト」を開くことを楽しみにしていたのですが、「みんなで集まるのは無理かもしれない」と残念に思っていました。でも、息子たちが「室内では密になるから、屋外でやりましょう」と提案してくれて、公園にパイを並べて友人たちを招くことにしたのです。私ひとりだったら絶対にこの発想はありません。コロナ禍だからできなくて「残念」とは思わずに、どうすればできるのか考えたからこそ生まれた方法です。

当日はみんなでマスクをして公園に集まって、パイを食べるときだけマスクを外しました。私や息子たち、お嫁さんがそれぞれ手作りしたパイを参加者に振る舞って、どのパイがおいしかったか投票してもらって優勝者を決めました。みんなで笑って、楽しい時間を過ごして、招待した友人たちにもとても感謝されました。私が初めに考えていたパーフェクトなパイコンテストとは少し違いましたが、みんなとてもうれしそうで、本当にやってよかったと思いました。

息子たちとは、「ミシュランガイドに選ばれるようなレストランにも行ってみましょう」という約束もしていて、出掛けるのを楽しみにしていました。でも、息子たちが私のことを心配して「ママは日本に帰らなければいけませんから、感染したら大変です」と、外食はしないことになりました。その代わりに、ドライブスルーでファーストフードをテイクアウトしたり、車で2時間もかけて国立公園まで連れて行ったりしてくれたのです。そのおかげでタコスが意外にヘルシーなことを知ったり、疲れそうだと思っていた山歩きがとても楽しかったりして新しい発見がありました。この息子たちとの出来事をきっかけに、私もコロナ禍を「残念」とは思わず、「やりたいことがあったら何か方法を考えよう」「完璧にできなくても、毎日を楽しもう」と考え方を変えることにしたのです。

子育ても同じです。子どもたちがコロナ禍で生まれて成長していることを「残念」と思わず、今できることを一生懸命考えて、子どもと一緒に楽しみながら乗り越えていくことが大切です。

子どもの人生にとって今が暗い時期ではなく、温かい思い出となるように

子育ての基本のひとつは、「比べないこと」です。子どもたちに接するときには、コロナ禍前の子どもたちの生活と比べたり、ギャップを気にしたりしないことです。今の子どもたちは以前の学校生活を知りません。今の子どもには今の経験があります。休校や自宅待機があったとしても、毎日を楽しむことや、やりたいことがあったらどうすればできるかを考えてみるといいですね。

人間は、時代にあわせて変化して、その時のベストを尽くして進化してきました。今はコロナ禍の時代ですから、その状況に合わせてベストを尽くせばいいのです。いつの日にか以前のような生活が戻ってくるかもしれませんが、いつになるのか分かりません。先生も保護者も目標は、子どもの成長を助け、たくさんの愛情で良い思い出を作っていくことです。「あのときはコロナ禍で大変だったけど、楽しかったね」と言ってもらえるように、子どもの人生にとって今が暗い時期ではなく、思い出したときに温かい気持ちになるようにしてあげたいですね。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

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