2022.02.02
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希望の高校に落ちてしまったらどうしよう

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。春を前に、本格的な受験シーズンが始まっています。全国的に公立高校の一般入試は2月、3月で実施されています。中学校までは義務教育のため、高校入試で初めての受験を経験するご家庭も多いかもしれません。「希望の高校に落ちてしまったらどうしよう」、入試を控えそんな不安な気持ちについて考えました。

夢に向かって挑戦し、頑張ったことをほめてあげたい

憧れている高校があることはすごく良いことです。でも、子どもの行きたい高校が親の希望や本人の実力と一致しているとは限りません。つい「少しレベルを下げたら」と言いたくなってしまいますが、子どもの挑戦したい気持ちは尊重した方がいいと思います。高校を選ぶときに「どこでもいい」「なんでもいい」という子が一番困ります。目標があるのはむしろ良いことです。どうしてもその高校を目指したいけど成績が足りないのだったら、一生懸命勉強すればいいのです。

ただ、本気で勉強しても受からない場合があります。受験には運も関係します。たまたま不得意な問題が出たかもしれないし、その年だけ受験生が多いかもしれない。合格するかしないかは、実力だけの問題ではないのです。だから、たとえ不合格だったとしても、「失敗した」とは思わないでほしいのです。

困難な道を選んで努力したのですから、「よく頑張りましたね」「挑戦する姿は素晴らしかったよ」と真っ先に子どもをほめてあげたいですね。

第一志望ではなかったとしても悪い結果ではありません

第一志望ではなかった高校に進むことになった場合、私だったら「とりあえず行ってみようよ!どうしてもダメだったら、また考えよう」と励ますと思います。子どもが「通いたくないな」と言ったとしても、他の誰かにとっては、その学校は第一志望の学校かもしれません。大喜びで入学してくる子もいるし、先生たちもいい学校にしようと頑張っているはずです。せっかく別の高校に入学するチャンスを与えられたのですから、先生やクラスメートに敬意を払って、前向きな気持ちでオープンマインドで通ってみることが大切です。

そして、どうして第一志望の高校に行きたかったのかを聞くのもいいですね。「有名だから」「大学への進学率が高いから」「英語の特別なプログラムがあるから」……、何か理由があるはずです。その高校にこだわる理由がわかれば解決策もあると思います。自分にとって何が大切なのかを考えるきっかけにもなります。

もし、「有名だから」という理由だったら、これから通うことになる学校の名声を自分で高めることを目標にしてはどうでしょう。実は、私の長男が選んだアメリカの高校は、トップの進学校ではありませんでした。正直に言うと、私は「もっと有名な高校に行ってほしいな」という気持ちも少しありました。結局、長男は自分で決めた高校に進学し、スタンフォード大学まで行ったので、彼が正解でした。しかも、他の生徒も目指すようになって、今ではスタンフォードへの合格者も増えているそうです。日本人留学生が増えたのも長男がきっかけかもしれません。学校の評判も自分次第で変えることは可能です。大学に行きたいのだったら、進学校に通わなくても塾へ行ったり、自分で努力したりすれば叶えることはできます。英語を勉強したいなら、英会話教室や短期留学に行ってもいいですよね。

そのように励ましても、子どもは「夢が終わっちゃった」と思っているかもしれません。人間にとって一番辛いのは、希望の無い状態。だけど、人間は生きている限り選択肢はたくさんあり、自由なのです。どうしても自分に合わなかったら、転校してもいいし、留学することもできます。高校受験が人生を決めるわけではないのです。これから先も無数の可能性があることを示して、子どもには希望を持たせてあげてください。

君はどこにいても君として実力を発揮できます

絶対に子どもに、「かわいそう」「残念だったね」「努力が足りなかったね」と話してはいけないと思います。親の価値観が子どもの価値観に影響しますから、子どもも残念な気持ちになってしまいます。どこにも入学できないようなら大変ですけど、第二、第三志望の高校に行けるなら「落ちて」ないのです。大成功です。もしかしたら、滑り止めのつもりだった高校を大好きになるかもしれないし、一生の友達や先生に出会えるかもしれません。第一志望の高校に行かないということは、決して悪い結果ではないのです。自分に起きる出来事はどんなことでも意味があります。「君はどこにいても君として実力を発揮できます」と背中を押して、起きたことはすべて良い結果として取り組んでいきましょう。

子どもの受験には、見守る方も熱くなってしまいます。子どものために最善を尽くしたいのが保護者ですから、一緒になってのめり込んでもいいのですが、第一志望に行けなくても「落ちてしまった」と残念がらないことです。良い高校に入ったからといって幸せになることが約束されるわけではありません。子育ての目標は子どもが幸せになることです。希望を叶えるために一緒に挑戦して、どんな結果であっても「悔いのないようにやりましたね」と言えるようであればいいのです。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

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