2022.01.05
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子どもを性犯罪の被害から守るために、親ができることは

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。子どもが被害者となる性犯罪は年々増加しており、特にSNS利用による児童ポルノや児童買春などの被害も目立ちます。今回は「子どもを性犯罪の被害から守るために、親ができることは」についてお話します。

「我が子は大丈夫」「男の子だから安心」ってほんとう?

残念なことですが、子どもを性的な目的で狙う人は存在しています。子どもを対象とした性犯罪のニュースは後を絶ちません。インターネットの普及も小児性犯罪の増加に関係しているように思います。昔なら小さな子どもを性的対象とするような異常な嗜好を持っている人はいたとしても、仲間がいない事で行動にでなかったと思います。でも、今ならネットを通して同じ性的嗜好の仲間とつながることができます。中には子どもを誘い出す手口を教えあったり、児童ポルノの画像を交換したりするようなサイトもあります。仲間がいる事で大胆になったり、犯罪意識がなくなったりして、子どもたちを狙う手口はどんどん巧妙になっています。私たち保護者は気を付けなければいけません。

ニュースを見ていても、学校の先生や保育士、警察官など絶対に信頼できるはずの人たちが児童への性犯罪で逮捕されています。実は習い事のコーチや近所の人など子どもたちにとって身近な存在による犯行も多いんです。知らない人について行かないように約束するだけでは心配です。「うちの子はまだ子どもっぽいから大丈夫」「男の子だから平気」ということもありません。犯罪者の中には思春期になる前の幼い子どもや男の子ばかり狙うような人もいます。友達と一緒に登下校しても、一人になった一瞬のすきを狙われることもあります。なるべく一人では行動させないこと、そして小さな頃から自分の身を守るような行動を習慣づけることが大切です。

「自分の身体は触らせない」「大人の身体を触らない」

まだ小さな子どもの場合はあまり怖い話はせずに、簡単な約束をすると良いでしょう。「自分の身体は触らせない」「大人の身体を触らない」「写真を撮らせない」「人がいるところで洋服は脱がない」「人の車に乗る前には必ずママかパパに聞いてね」、子どもでも分かりやすい単純なルールを繰り返し覚えさせてください。それから「もしそういったことがあったら、必ず話すこと」を約束します。「お兄さんやお姉さん、おじいさん、おばあさんでも、どんな人でも身体にふれたら必ず教えてね」と、とにかくあったことすべてを親に話すことを日常的な習慣にします。
「今日、ほめられて頭をなでてもらったよ」「かわいいねって抱っこしてくれたよ」「公園で遊んでいたら写真を撮ってもらったよ」……、犯罪に関係ないことでもいいんです。普段から、親に話すことを当たり前にしておくことが重要です。
もし、「虫が付いているよって、スカートをめくられた」などの驚くような報告があったとしても、「どうして約束を破ったの!」と子どもを責めてはいけません。「どこで?その人に会ってみたいから今度連れて行ってほしいな」とさりげなく聞いて対応したいですね。子どものせいではありませんから、子どもには罪悪感を持たせないようにしてください。

子どもが理解できる年齢になったら、話す内容は深刻さを増していってもいいかもしれません。子どもを狙う人がいることや、犯罪者が子どもに近づく手口など予め知っていたほうが警戒できます。たとえば「お菓子をあげるから一緒においで」という声掛けはよくあるケースです。子どもにとっては魅力的な誘いですから「欲しいものがあったら、ママに言ってね。人からもらう必要はありません」と話します。
他にも「写真を撮ったことを他人に言ったらもうママに会えなくなるよ」「ばれたら君のパパが警察に捕まっちゃうよ」などと脅す人がいることをそのまま子どもに話すのが必要です。「そう言われても信じない、どんなことも話してほしいの。パパとママに会えないとか、君が警察に捕まるとかは絶対ない。悪い人の嘘ですよ」と教えてください。

中高生になると、今度はSNSで騙されて自撮り画像を送ってしまったり、児童買春の対象になってしまったりする危険性もあります。「裸や下着だけの写真は誰にも送ってはいけない」と、ネット上でそれを広められてしまうことを教えてあげてください。そして「もし騙されてしまって、被害にあったときはママとパパに教えてね。一緒に解決方法を探そう」と、どんなことがあってもママとパパは味方と言うメッセージは伝えておきたいです。

保護者と周囲の大人たちが協力して子どもを守りましょう

私は海外を訪問して、性的搾取された子どもたちに会うこともあります。そんなときはいつも「自分の意志でやっていないことは、全く君の尊厳を傷つけない。私の目から見たら、生まれたての赤ちゃんと同じくらいあなたは美しくてきれい。後ろめたいと思わなくていい、生まれ変わったと思えばいいのよ」と話しています。性的な被害を受けた子どもは心に大きな傷を負ってしまい、いつまでも残ってしまうんです。「人生がだめになってしまった」「自分の身体は汚れてしまった」と自分を責めてしまう。本当に許せないことです。
だから子どもが巻き込まれてしまったとしたら「君がどんなことをされても全く問題ない。変わらぬ人生を歩んでいける」と、すべてを受け止めてほしいんです。たとえ子どもが悪意のある大人に騙されてしまったとしても、その子のせいではありません。子どもは被害者ですから何も悪くないんです。

アメリカでは性犯罪歴のある人たちのリストをネット上で公開しています。これはアメリカの人たちが子どもを性犯罪の被害から守るために努力して実現したこと。日本でも、子どもにわいせつな行為をした教員への処罰が厳正化されました。犯罪者にもチャンスを与える社会であることは大切ですが、小児性犯罪者の再犯率はとても高く、8割が繰り返すとも言われています。私たち大人が子どもを守るために頑張らなければいけません。どんなに気を付けていても、親の目が届かない場所もありますから、学校や保育園、習い事のスクールなどではぜひ関係者同士がお互いにしっかりとチェックして異変に気付くようにしてほしいと思います。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

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