2020.11.04
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

子どもを愛せなくてつらいあなたへ

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。子どもが生まれたら愛情いっぱいに育てるつもりだったのに、どうしてもイライラしてしまう。我が子がかわいいと思えなくて、母親失格だと苦しんでいるあなた。理想の母親像にとらわれて、どうか自分を責めないでください。

母親なら無償の愛があって当然なの?

まず誤解をしてはいけないのは子どもを産んだら、すぐに母性や父性が湧いてくるものではないということ。親子の愛情っていうのは、必ずしも絶対的なものではないんです。恋愛と同じように一目ぼれするカップルもいれば、付き合っていくうちに段々と愛情が生まれるケースもあります。親子だって付き合わなければ、なかなか愛情は生まれないのが事実です。

動物の親子を見れば、分かります。引き離された動物の親子には、愛情が生まれないんですね。育てていく段階で、愛情が生まれて、子どもを守りたいと思う。人間も同じです。私たちの社会では、「親だから子どもを愛するのは当然だ」「愛情がないなんて信じられない」「冷たい母親だ」とか言うんですけど、それは違います。産んだらすぐ愛情があるんじゃなくて、育てたから愛情が生まれ、強くなるんですね。

もちろん妊娠中から、生まれてくる赤ちゃんが愛しくてしょうがない、生まれた瞬間から愛情がたっぷり出てしまうという人もいます。たぶん私がそういうタイプ(笑)。子どもが大好きで、何を見ても愛しいという親バカでした。でも、これは言葉通り「親バカ」なんです。特別だと思ってください。

理想の母親像にとらわれて自分を責めないで

子どもにすぐに愛情を持てない自分を責める必要はありません。育てていくうちに愛情や思いやりは自然に生まれてきます。「もっと愛さないといけない」と自分を責めているうちに、むしろ子どもの存在が負担になってくることのほうが心配です。「子どもを愛せない自分が悪い」「この子さえいなければ悩まなくて済むのに」「この子のせいだ」「母親失格だ」と、全部後ろ向きな気持ちになってしまうんです。

子どもと付き合っていくうちに徐々に愛情は生まれてくるんだと信じてください。大好きという感情ではないかもしれないけど、家族としての愛情は必ず芽生えてきます。

大切に育てていけば、必ず子どもは応えてくれます。きちんと世話をして要求に応じていれば、子どもは親に愛情を返してくれます。私も6人兄弟で育っていますが、母親は男兄弟を大切にしていましたね。古いタイプですから、私たち姉妹より男の子が大事なんです。それは態度を見ていれば分かりましたけど、それでも私たち姉妹を一生懸命育ててくれて、学校に行かせて、いつでも励ましてくれたこと、母親の愛情を感じました。とても感謝していますし、母親のことが大好きです。

だから、毎日、抱きしめて、キスして、一日中一緒にいたいっていう気持ちがなくても、子どもを大事にしたいという気持ちがあれば大丈夫。我が子を無事に育てて、幸せな人生をおくってもらいたいという気持ちさえあれば、それは親の責任を果たしていると私は思います。

親の最大の責任は子どもを安全に幸せに育てること

それでも、どうしても子どもを好きになれないし、世話もしたくないという場合もあります。これは虐待につながる恐れがあります。もし、子どもを傷つけたいという衝動的な思いがあるようでしたら、専門的な機関に相談してください。たとえ子どもを手放す結果になったとしても、親の最大の責任は子どもが安全に幸せに育つことです。

昔はお見合いで結婚している夫婦もたくさんいました。結婚して一緒に過ごすうちに、愛が生まれた幸せな家庭がたくさんあります。「好き」と「愛する」は必ずしも同じではないのです。子育ては好きではないけど、子どもを愛している母親はたくさんいます。「好きになれない」ということを深く考えないことも大事です。

人生100年時代において、子育てはせいぜい十数年。人生のほんの一部です。理想の母親像にとらわれず、できるだけ子どものいいところを見て大事に育てていきましょう。そして、忘れてはいけないのは自分をほめることです。世間の理想的な母親像を求めるのではなく、前向きに毎日できるだけ楽しく、思いやりいっぱいの子育てを目指せば十分です。

【参考:学びの場.com】愛情遮断症候群について

養育者から十分な愛情を得られないことに起因して、子供の成長等に影響が出る場合があります。これらは一般的に「愛情遮断症候群」と呼ばれ、医療機関などで検査・診断を受けることができます。(下記、日本学校保健会WEBページ参照)

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

ご意見・ご要望・気になることなど、お寄せください!

「アグネスの教育アドバイス」では、取り上げて欲しいテーマ、教育指導や子育てで気になることなど、読者の声を随時募集しております。下記リンクよりご投稿ください。
※いただいたご意見・ご要望は、企画やテーマ選びの参考にさせていただきます。
※個々のお悩みやご相談に学びの場.comや筆者から直接回答をお返しすることはありません。

pagetop