2020.10.07
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空想の友達と遊ぶ子どもの心理とは?

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。小さな子どもが目には見えない友達と遊んだり、おしゃべりをしたりすることがあります。空想の友達(イマジナリーフレンド)が生まれる背景や、そこに込められた子どもからのメッセージとは何でしょうか?

子どもが自分の心を慰めるために生み出した存在

空想の友達っていうのは、ある意味では自分で自分の心を慰めるための存在です。赤ちゃんが指をしゃぶって自分を落ち着かせるようなものです。「お母さんがいなくて寂しい」「お腹がすいた」「眠りたい」「泣きたい」など、心細い気持ちになったときに本能的に指をしゃぶると、お母さんのおっぱいを吸っているのと同じような感覚になりますよね。自分で自分を安心させるための行動なんです。

「セキュリティブランケット」と呼ばれる、子どもが肌身離さず持つ毛布も似たような存在です。赤ちゃんを一人で寝かせることが一般的な欧米ではよく見られる現象です。真っ暗な部屋に一人ぼっちでは心細いため、小さな子どもが毛布を抱きしめて眠りにつくんですね。日本や中国などアジア圏では、親が添い寝することが多いため、セキュリティブランケットの話はあまり聞きません。寝るときに寂しさを紛らわせる必要が無いからです。

目には見えない友達も、自分で自分を安心させるために子どもの心が生み出した存在です。幼稚園や保育園には知らない人ばかりで、お父さんもお母さんもいなくて寂しい。一人でいることが不安なので、たとえ空想の友達でもいてくれたほうが心強い。子どもが安心して世の中を渡っていくために必要な存在なんです。

こういう友達がいたらいいなっていう願望から、空想の友達が生まれることもあります。パーフェクトな友達って世の中にいないですよね。お父さんもお母さんも兄弟も24時間一緒にはいられないし、自分の思い通りに動いてはくれない。そうすると実際には存在しない理想の友達を作って、おしゃべりをしたり遊んだりするんです。

空想の友達を通じて自分の気持ちを伝えていることも

やりたいことや願望など、自分では言えないことを空想の友達を通して伝えている場合もあります。周りに話しにくい雰囲気があったり、恥ずかしかったりするときに、コミュニケーションの道具として空想の友達を使うんです。だから、子どもが「空想の友達が泣いているよ」というときは、自分が泣きたい気持ちなのかもしれない。子どもの気持ちを想像しながら、耳を傾けてみてください。

空想の友達を必要としているということは、普通の子どもよりもかまってあげなければいけないというサインでもあります。自分をうまく表現できない、上手に世の中を渡れない不器用さのあらわれなんです。ほほえましい想像だなと放っておかずに、子どもの寂しさの原因を理解して、もっと話を聞いてあげてください。

「アイスを食べたいって言っているよ」と話しているときは、本当は自分が食べたいのかもしれません。そんなときは「そうね、お友達はアイスが食べたいんだね。あなたも食べるかしら?」と、さりげなく会話の中心を子どもに戻してあげるといいでしょう。

成長とともに空想の友達のことは忘れてしまいます

小さな子どもの心理現象ですので、どこかおかしいのかなと悩んだり無理に否定したりする必要はありません。空想の友達は、子どもが安心したり自分を表現したりするための大切な存在です。だから、親が「そんな友達いないわよ」と取り上げてしまうと、子どもは頼れる存在が急にいなくなって慌ててしまいます。

心配しなくても、子どもが成長するとともに空想の友達は消滅してしまいます。不安な気持ちや自分をうまく表現できない状態から生まれた存在なので、子どもが自立して、周りと関わりを持てるようになると空想の友達のことは自然と忘れてしまうようです。子どもの世界が広がって、感情をコントロールできるようになれば、空想の友達は必要なくなるんですね。

だから、小学生くらいになっても空想の友達に依存しているようだったら、少し心配したほうがいいでしょう。学校や家庭での環境を見直さないといけませんね。「助けて」「寂しいよ」っていう、子どもからのメッセージかもしれません。親が愛情をたっぷり与えているつもりでも、必要とする愛情の量や寂しさの原因は子どもによって違います。もしかしたら親にも反省しないといけないことがあるかもしれないし、周りの環境に問題が隠されているかもしれません。

「友達がほしい」「お父さんに遊んでほしい」「お母さんに甘えたい」など、何がその子にとって大切なのかは話を聞かないと分かりません。空想の友達がいる子は、自分で何かを表現したり、自分の気持ちを伝えたりすることが苦手なことが多いです。空想の友達からのメッセージを手掛かりに、子どもに寄り添い、心の底に隠された気持ちをゆっくりと引き出して聞いてあげる。そして寂しさや心細さの原因を突き止めて、解消してあげてください。「そのままのあなたを丸ごと愛しているよ」といってぎゅっと抱きしめるのもいいですね。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

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