2019.12.04
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"モノで釣る"モチベーションは良い?悪い?

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。今回のテーマは「"モノで釣る"モチベーションは良い?悪い?」です。子どもになにかをさせたり頑張ってほしいときにぐずったり気が向かず嫌がる姿を見て、つい「○○できたら」とお菓子やモノなどご褒美をあげたくなってしまう親心を子どもの教育という視点で考えてみましょう。

モノで釣ることは、差別的な考え方につながります。

「○○買ってあげるから頑張ろう!」と”モノ”を報酬として子どもの行動を誘導することは、子育てでやってはいけないことの一つです。何かをするときに見返りを求めてしまう教育方法は絶対にやって欲しくないです。「モノがもらえなければ“しない”」と子供に誤った価値観を教えてしまいます。「物を与えてくれる人は偉い人、与えてくれない人は無視していい人」という基準で人を判断する習慣は差別的な考えにつながる可能性があります。物やお金を持ってない人を見下したり、自分が物やお金を持っていることを自慢したり、持ってなければコンプレックスに感じたり、物やお金で人間を測ってしまうきっかけになってしまうかもしれません。

本当は何かを取り組むときの”楽しさ”こそ最良のご褒美なのに、何かもらえなければやる気が出なくなり、学ぶ楽しさを実感できない人間になってしまいます。世の中に出れば働いた対価がお金で支払われますが、実は無報酬・無条件でしていることもたくさんあります。周りの人にやさしくする、困っている人に手を差し伸べる、それは人の温かさであり、世の中をうまく回している愛です。


ご褒美をあげたいなら、面白いことを。

たしかに、子供のモチベーションを上げるために、ご褒美をあげたいときはあります。そんなときには物質的な“モノ”ではなく、心を豊かにする魅力的な“体験”をご褒美にしてみてはいかがですか?

以前、講演会で「モノで釣っちゃいけない」と話をしたときのことです。来場者の中に「アグネス さんの言うことには賛成です。でも今まで子どもが100点をとった時、必ずお金を渡していました。今更、変えられますか?」というお母さんがいらっしゃいました。今後お金を渡さなくなったら子どもが勉強しなくなってしまうのではないかと不安だそうです。私は「子どもが絶対にやってみたいと思える楽しい”コト”をお金の代わりにしたら、モノでは得られない素敵なご褒美になりますよ」とお伝えしました。

例えば、一緒に星を見にいくとか、公園で親が隠しておいた「宝探し」をするとか、寝ているパパにお化粧するとか、子どもはきっと面白がって喜ぶと思いますよ。親の愛情も伝わるしご褒美を”モノ”かた”コト”に切り替えることで、親子の絆も深まります。我が家の場合は面白いことをたくさん提案しました。子どもが父親の胸毛を抜いたり、ママが子供の顔のマッサージをしたり、想像力を使えば、ご褒美になることはたくさんあります。

面白いことをする体験は、子どもにとって感動的な出来事です。親子で一緒にやればコミュニケーションにもなりますし、密度の濃い愛情を感じることもできます。人の脳は常に刺激を求めています。お金でモノを与えられて刺激を得ることには一時的な充足感はあっても、心を満足させるものではありません。心に残る、愛を感じる体験をご褒美に、その子のやる気を引き出してあげましょう。

幸せは誰かに与えられるものではありません。

ずっとモノやお金でしか満たされていなかった子どもはお金に支配されてしまいます。お金がないと、幸せにならないと思ってしまいます。でも本当に大切なものはお金では買えません。お金があっても幸せになれない人もたくさんいます。

もし今までついついモノで釣ってしまうことが多く、子どもにもそれが当たり前と思われているなら、「いつもモノで釣ってしまっていたかもしれない。パパは忙しいからお金を渡して、それが愛情のつもりでいた。でも反省してる」などと素直に伝えてみてください。「これからは時間を使って遊ぼう、学ぼう、思い出を作ろう!」と抱きしめてあげてください。物に依存し支配されてしまう子どもになってしまう前に、時間をかけてお子さんとの接し方を見直してみましょう。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成・文・写真・イラスト:学びの場.com編集部

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