2019.08.07
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子どもが料理から学べることとは?

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。今回のテーマは「子どもが料理から学べることとは?」です。子どもと一緒に料理をするのは、時間もかかりますし、結構大変ですが、得られることがたくさんあります。

料理をすることで、「生きる力」を育むことができる。

料理を教える工程には、色々な力を育てるプロセスが盛り込まれています。とはいえ、私も子どもたちに料理を教えてきましたが、本人たちはただ料理を作るだけであって、色々な力を身に付けていることを意識しているわけではありません。ここでは、子ども自身が知らないうちに料理から学び、身に付けていることの中から、4つの力と姿勢を例に挙げてお伝えします。

まず、1つ目は集中力。ある料理を作るために、材料を切ったり、混ぜたり、測ったり……たとえテレビがついていようと、音楽が流れていようと、目の前の課題に集中しなければ料理は完成しません。目の前で形作られていく料理は目的がはっきりしているため、作業に没頭しやすく、集中力を身につけることに適しています。

2つ目は、数に興味を持ったり、数学的思考を養う力です。特にパンやクッキーなど、粉や砂糖を測り、成形しオーブンで焼く“ベーキング”の作業がおすすめです。正確な量や大きさ、温度を組み合わせない限り、美味しいケーキを作ることも、食べることもできませんよね。料理は足し算に引き算、丸や四角に形作る作業など、数学の一番基本としていることを日常的に試すことができ、生きていくうえで数学がなぜ必要なのかを教えてくれます。

3つ目は「失敗すること」を学び、さらに挑戦する姿勢を身につけることです。ケーキがうまく膨らまなかった、お肉が焦げてしまったといった失敗は、どんなに料理が上手な大人でも、初めはよくあることです。子どもが失敗して悔しさを覚える、立ち直る、そしてもう一回挑戦したいという気持ちに至るプロセスを経験できます。たくさんの失敗や挑戦を乗り越えるからこそ、やりがいや達成感を味わうことができるでしょう。

そして4つ目に、自分が作った料理を誰かに食べてもらいたい、喜んでくれる人の顔を見たい、という“シェアの気持ち”が芽生えることです。自分のためだけに料理をするよりも、誰かのために作り、一緒に分かち合う方がやりがいを感じるのです。「一人で喜ぶよりも、みんながいた方が喜びは大きい」-とても単純なことですが、これを日常の中で教えられるのは料理です。

ここに挙げた4つは一部に過ぎず、他にも料理から学べることはたくさんありますが、どれも「生きる力」につながることばかり。まずは簡単な料理からで構いませんので、ぜひ子どもと一緒に台所に立ってみてください。

料理は自分のペースで成長し、表現できる「小さな世界」。

私も息子たちとたくさん料理を作りました。中でも手作り餃子を作ることが多かったのですが、餃子の皮で具を包むときに、皮が破けたり、きれいに包めなかったりと、失敗がひと目でわかりやすいですよね。でも出来上がりは、どれも同じように美味しくできますから、餃子作りからは「形にこだわらず、物事は本質が大事」ということも教えることができました。

特に長男は料理が大好きで、最近では自分の結婚式の料理も全部自分たちで作って振る舞ったくらいです。次男が生まれるまで、長男にとっての遊び相手は私、ママでした。私が料理をしている姿をみて、自然と「僕もやりたい」と手伝うようになったのが、彼が料理をするきっかけになりました。3歳位から、椅子の上に立って、材料を測り、洗ったり切ったり、あるいは子ども向けの料理の本や料理番組を一緒に見て料理をしていました。子ども用の小さなマイ包丁を持っていましたが、自分自身で気をつけていたので、一度も手を切ったことはありませんでしたね。他の息子たちは長男ほど“料理好き”ではありませんが、料理ができるようになることで、料理以外の様々なライフスキルを磨くことにつながり、色々な場面で活かせていると思います。

出来上がった料理は「美味しいね、さすがだね」と褒めてあげると、「もっと作りたい」という気持ちにつながります。次第に凝りだしたり、新しい料理に挑戦したいという意欲も湧いてきます。思い通りになるまで練習できますし、また自分のペースで上達することができます。このように料理は、伝えたいことや表現したいことを、自分なりにコントロールしやすい「小さな世界」です。自分で何かを動かすクリエイティブな力も伸びるでしょう。

“家庭の味”は、親子の絆。

親にとっても子どもに料理を教えたり、自分の料理を食べさせることは、とてもやりがいのあることです。先日次男から「どうしたらヤギの肉は美味しくなりますか?」と私と長男宛にメッセージが入りました。私が返信をすると、競うように長男からメッセージが入って、結局長男のアドバイスが採用されました(笑)。こうやって親子や兄弟で共有して会話ができることって、素敵なことだと思いませんか?子どもはすでに大人ですが、親心として、とてもかわいいなと思うひとときです。

ですが料理好きな長男も、スープの作り方は私に聞いてきます。彼にとってこのスープは “家庭の味”です。親がつくる料理は、子どもにとって忘れられない味になります。生まれてからほぼ毎日食べてきた味は、愛情が伝わりやすく、どんな高級料亭の味にも勝ります。息子たちは高校生から留学し離れて生活していますが、私の料理を食べると「こんなに美味しいの、忘れてた」と言ってくれ、涙を流しそうになります。こういった親としての満足や感動を子どもたちが大人になった今でも感じることはとても幸せです。ぜひ手料理を子どもに食べさせて、家族の絆をより深くしてほしいです。

料理自体はとても単純な毎日の作業ですが、子どもにとっても、親にとっても、とても大事なことがたくさん詰め込まれています。そして、自分が作った料理を誰かとシェアすることで、色々な人と出会い、大切な人と巡り合うこともできます。最近はコンビニやスーパーなどいろいろなところで、安くて美味しい料理を手に入れることができますが、そうやって色々なことを一人で完結してしまうのは残念です。たくさんの人と愛情をシェアできる人になるために、ぜひお子さんに料理を教えてあげてくださいね。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

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構成・文・写真・イラスト:学びの場.com編集部

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