2019.06.05
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発達障害の子どもとの向き合い方

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。今回は「発達障害の子どもとの向き合い方」についてお話します。昨今話題にされることが多いテーマですが、皆さんはどのように向き合っているでしょうか?

一般的な成長スピードと違うのは“特別な子”だから。

発達障害の症状は、認知面、情緒面、行動面などの発達に問題がある場合に、生活の様々な場面で表れますね。例えば、文字が読めなかったり、物事に対する理解が遅れていたり、自閉症のような症状であったり、とても幅広いですね。私はよく発達障害の子どもを持つ保護者の方に「普通にしようとしないでいい」と伝えています。発達障害の子どもは、同年齢の子より成長するペースが遅かったり、得意なことが違う“特別な子”なのです。

人にとっての最終目標は、自立して、愛する人を見つけて家庭を作ったり、そうでなくても充実した毎日を送って幸せになること。みんなと同じような人生を送ることが目標ではないですし、周りのペースに合わせると、子どもも大人も疲れてしまいます。特別な子なのですから、その子には絶対に得意なことがあるはずです。それをしていると楽しい、生き生きしているものを探しましょう。

子どもをよく観察し、長所を伸ばしましょう。

発達障害の症状に限らず、その子を苦しめてしまうのは大人たちの態度です。本人は生まれたままの自分なのに、大人は枠にはめようとしがちです。子どもは誰もが意味があって生まれてきます。その子の良いところや、生きがいなどを見つけてあげることは障害の有無にかかわらず、親のすべきことだと思います。

私の友人にも障害を持った高校生のお母さんがいます。その子は重度障害なのですが、とても絵が上手です。画家になるほど上手というわけではないのですが、絵を描いているときのその子はとても嬉しそうにしているのです。私のすすめで、その親子は子どもに絵を教える教室やボランティアに一緒に参加して、その子の絵はとても進歩しました。それに小さい子に対してとても優しいという長所も発見できました。大人と話すのはまだ得意ではありませんが、子どもと話すことはできるようになったし、それが本人の自信につながったようです。

人が幸せになるためには、何かが一つできれば十分ではないでしょうか。できることが一つでも見つけられれば、働いて社会に貢献することができると思います。

今の時代は、少しでも周りと同じように勉強ができないと“障害”にしてしまう風潮があると思います。けれど、子どもの成長スピードはみんな違って、一人ひとり特別なもの。昨日より今日、今日よりも明日、少しずつ成長できればそれでいいのです。子どもをよく観察して、得意なこと、好きなことを伸ばせるようサポートしましょう。

発達障害の子もそうでない子も同じ教室で学ぶことで理解が深まる。

私が以前訪ねた香港の学校では、発達障害の子もそうでない子も同じ教室で学ばせていました。場合によってはじっとしていられず暴れてしまうこともあるので、アシスタントをいれて一対一でサポートします。普段は一人でじっとしていられない子どもなのですが、生物の授業になると積極的に発言をしていました。虫についてとても詳しく、この時間はクラス中のスターです。こうして一緒に授業を受けることで、障害のない子どもたちも、人の個性は多様であることを学び、生まれながらに色々な人がいるのだと理解ができます。この学校の子どもたちはみんな心が優しく助け合っていて、私も感心してしまいました。

その学校では意図的に障害をもった子どもを受け入れています。アシスタントに支払う費用は親も一部出さなければいけませんが、普通の学校に通わせたい保護者がいて、学校側も他の生徒の教育にもなると考えて受け入れていました。当初は保護者や教師から対応の仕方がわからないとか、授業が遅れるのではないかと反対の声があったようですが、今はすっかり変わったようです。

香港でもこの学校のケースはとても稀で、日本と同様に依然として障害のある子どもだけを集めて授業をすればいいという考えがあります。ですがこのように、障害のある子もそうでない子も、一緒の空間で学ぶことで人の多様性を学び、優しい心を備えた人になれるのだと思います。

その子が何でも相談できる人を作ってあげましょう。

障害を抱えている子の親にとって気がかりなことは、親が一生その子を守りきれないこと。いつか親が先に亡くなり子どもは自分で自立した生活を送らなければいけません。人間誰しも一人では生きていけないので、兄弟や親しい友人を作ることは大切です。

私の知り合いのお母さんは、障害をもった我が子を理解してくれる友達を作るために3回も転入学を繰り返しました。先生からも同級生からもいじめられていたからです。それでもお母さんは近所の子どもともたくさん遊ばせてあげて、子どもが高校生になった今は、互いを理解し合える良い友達ができたようです。

まだまだ日本の社会では発達障害に対する偏見が絶えず、生活するのに厳しいこともあると思います。すべての人に理解してもらうのではなく、何でも相談できる人が1人、2人いれば良いのです。親以外にも、何かあれば電話を掛けられる人がいるなど、安心できるネットワークを作ってあげましょう。もしものときに必ず理解してくれる人がいることは大事です。

子どもの人生を豊かにするのか悲劇にするのかは、大人が子どもとどう向き合うかに掛かっています。ご自身の子どもに何らかの障害があったとしても、ネガティブに考えずその子は特別な子だと考えてください。そして自分の身の回りに障害を持った子がいたら、その子の長所を見つけ伸ばしましょう。人はみんな個性があって、社会は多様性に満ち溢れています。どんな命も大切に、人生を楽しみましょう。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

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構成・文・写真・イラスト:学びの場.com編集部

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