2019.05.08
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子どもが不登校になったら、どう向き合えばいい?

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。今回のテーマは「子どもが不登校になったら、どう向き合えばいい?」です。

「不登校」は問題ではありません。

私は、不登校そのものは、問題ではないと思っています。それは学校に行くか行かないか、ではなく学習するかしないかが大切だと考えているからです。昔は、将来漁師になるなら海に出て学び、農業をするのであれば畑を耕す…というように学校はなく、必要でもなかったので、みんな家で学んでいました。しかし現在は社会が複雑になったので、ある程度勉強しなければ自立した生活を送ることが難しく、普通の生活を送り社会で貢献するためには、たくさんの知識が必要です。その膨大な知識をみんな一緒に教えてくれるというのが学校のシステムなのです。

ですから、学校へ行くことは確かに義務教育ではありますが、あくまで人が作ったルールです。学校での学び方が合わない子もいます。学校も時代に沿って成長しているとは限りませんし、学校へ行かない選択をすることは、もしかすると時代の先を歩いている子なのかもしれません。それにアジアやアフリカには、学校へ行かなくても、ビジネスに成功している人や立派に家族を支えている人が大勢います。学校へ行くことが全てではないのです。その子にあった人生を励ましながら応援することが大切だと思います。

幸せな人生を送るために、学ぶ習慣を忘れないように。

もし子どもが「学校に行きたくない」と言い出したら、まず理由を確認しましょう。学校が嫌いなのか、先生が嫌いなのか、同級生が嫌いなのか、理由によっては学校を変えたり、引っ越すことで不登校を回避できるかもしれません。もし、学習そのものが嫌いなのであれば、先生の教え方が嫌なのか、集団で学ぶといった学校のシステムが合わないのか、もしかしたら知能的に何らかの障害があるのかなど、原因を探すことが大事です。

そしてその背景を理解し、それでも学校に行かないのであれば、保護者も一緒に勉強して、子どもが学ぶ習慣を忘れないようにしてあげましょう。学習することがなければ、字も書けない、数字も読めない、電車にも乗れない…行きたいところにも行けず、数字がわからないと騙されてしまいます。満足した人生を送れなくなってしまう可能性もありますから、学ぶことを止めないで下さい。そこに重点をおけば、何をすればいいのかわかってきます。

保護者が勉強をサポートすると言っても、国語や算数といった学問的な教え方でなくて大丈夫です。勉強が嫌いなら、まずはその子の好きなこと、興味のあることを見つけて、そこから学習の幅を広げ必要な知識を身につけていきましょう。例えば、本人が「ファッションが好きだ」と言うなら実際に服を作ってみる。服を作るには文字や数字が読めないと作ることができませんから、学ぶ意欲がわくきっかけになります。

こうして学習習慣を身につけておくことで、子どもがいつでも学校に戻れる準備をします。これは子どもにとっての保険のようなもので、人生のプランはたくさんあった方がいいです。子どもの可能性を潰さないために色々な方法を模索しましょう。大変かもしれませんが、一緒に過ごせる時間が増えたと思えばとても貴重な時間なので、気持ちを切り替えてみてください。

また、不登校児の兄弟姉妹がいたら、子どもによってはそんな兄弟のことを「恥ずかしい」と思うこともあるかもしれません。けれど、不登校でも自分の好きなことを通して意欲的に学んでいる様子を見れば、兄弟姉妹をリスペクトできます。そうすれば、学校で友達にからかわれても「お兄ちゃんは不登校だけど、家でファッションの勉強をしていて、すごく楽しそうだよ」と言えるでしょう。不登校の子どもが学ぶ意欲を失っていないことは、その子の人生にとっても、他の兄弟姉妹にとっても大切なことです。

「なんで勉強しないといけないの?」をきちんと話し合いましょう。

不登校は悪いことではないとお話しましたが、学校に行く意味をきちんと子どもと話すことは大切です。今の学校の体制は万全とは言えないですし、子どもたち全員が楽しいと思えるように指導をすることは難しいので、学んでいる本人は「なんで勉強しないといけないの?」と思うかもしれません。自分が将来困らないため、可能性を潰さないために勉強していることを、学校に入学する前から話しておきましょう。

また、学校は人生を豊かにするための“必要な知識”を得るために行く場所とお話しましたが、現在は知りたいことはコンピュータやスマホですぐに調べられるので、たくさんの“量”を覚える必要もなくなってきました。自分の人生を豊かにするという目的は変わりませんが、学校は知識をたくさん詰め込む場所ではなく、知識の探し方やつなげ方を学ぶ場所としての比重が大きくなりました。自分の興味のあることをより深めて、専門性を高め、知識を生かすための手段を学習する、そのために学校での学びがあります。また、学校には教える訓練を受けた先生が集まっていますし、友達もできますから学習の場として最善の場所だと思います。

本人が学校へ通っても、不登校を選択しても、大切なのは勉強する意味を理解し、学ぶ意欲を失わないことです。何のために勉強するのかを学校に通う前から常に子どもと話し合い、子どもの学ぶ意欲を保てるようサポートしましょう。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成・文・写真・イラスト:学びの場.com編集部

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