2018.11.07
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受験シーズンの子どもをどのようにサポートしたらいいの?

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験を基に、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。今回のテーマは「受験シーズンの子どもをどのようにサポートしたらいいの?」です。
これからやってくる受験シーズンですが、その前からぜひ取り組んでいただきたい家族の会話についてもお伝えします。

学校選びでは、親は情報を提供し、結論は子どもに

私が最初に経験した、子どもの大切な受験は、長男の高校受験でした。中学2年生のときに彼は「アメリカの高校に進学したい」と言ってきました。私は「えー⁉15歳で留学って早くない?」と戸惑い、まずは日本の高校もいろいろと調べてみたのですが、彼の中ではアメリカに行きたいという気持ちがとても強かったんです。結局、2年生の夏休みに家族で休みをとり、実際にアメリカに行き、10校ほどの高校を見て回りました。

“スクール・ショッピング”の結果、私が気に入った学校は、全米でも1番偏差値の高い学校とか、大学のように設備が整っている学校でした。
でも、長男が気に入ったのは、とてもユニークな学校で、学習内容の中には、乗馬の授業や、サバイバル・キャンプなども組み込まれていました。私としては「ちゃんと勉強できるの?」という心配もあったのですが、長男はその高校に進学すると見る見るうちにたくましくなり、のびのびと成長していきました。

そして、結果的にスタンフォード大学に入れたのですから、しっかり勉強もできたのだと思います。そこで私が学んだことは、親の希望や基準で学校を選んではダメだということ。第一に優先するのは、子ども自身が本当に行きたい学校かどうかということです。
自分が行きたい学校であれば、困難があっても頑張れるけれど、行きたくなければ頑張れない。それが当然だと思います。
そして、調べた情報や評判だけで判断するのではなく、実際に志望校へ行ってみることがとても大切です。通っている学生や先生はどういう感じなのか、一緒に勉強したくなる環境かどうか。子ども自身が体で感じることが大事です。
親は「とにかく有名な学校に入ってほしい」などと考えがちですが、子どもから見れば3年間毎日通って、生活する場所なので、本人が毎日楽しく勉強できて、そこにいる自分が好き、楽しいと思える学校を選ぶべきです。
長男は、自分で学校を選んだことに、とてもプライドを持っていました。実際に学校を訪れて、学校の雰囲気を体感し、自分自身が心から納得できたからこそ、受験勉強に必死に取り組むことが出来ました。もし彼が好きではない学校に「いれられちゃった」と思って進学していたら、入学後もそこまで勉強を頑張ることができなかったかもしれません。

「選択はいつも子供自身にさせること」それが我が家の子育ての基本方針なので、親である私たちが出来ることは、情報を提供すること。「結論を出すのはあなた自身だから、本当に行きたいかどうか、自分の目で耳で体で確認するんだよ」そうアドバイスして自覚を持たせることが大切です。
その上で子ども自身が出した答えに自分で責任を持たせると共に、陰になり日向になり、どんな時も応援しています。

勉強は教えられなくても、子どもの勉強しやすい環境づくりを

私は、子どもが中学校に入ると、日々の勉強は手伝いませんでした。
ただ、受験の前には、過去の問題集を使って「試験のリズムに慣れる練習」をしました。学校によって選択問題がいくつあるのかを一緒に調べたり、過去の問題で間違ったところを見直したり、引っ掛け問題の傾向を頭に入れたり。特に、受験日の1週間前はそうやって、毎日試験のリズムをつくるようにしました。そのリズムがわかってくると、歌のイントロを聞いただけで歌詞が出て来るみたいに、問題が解けるようになるのです。

高校生になると、私からはほとんど教えられることがなくなりました。
ただ、ものを覚える時の方法が子どもたちは一人一人違ったので、それぞれが集中できるような環境を整えるようにしました。
子どもの集中力の発揮の仕方は、小さい頃からよく観察していれば分かるようになります。次男は部屋のドアを閉めて静かにやるタイプでしたが、三男はテレビを付けながら勉強する方が集中できる。そんな風にみんながみんな同じ方法で集中できるわけではないので、その子に合った環境を与えてあげることが大切です。

家庭教師が必要な子なら家庭教師をつける。朝勉強したい子なら朝起こしてあげる・・・。
図書館に行きたい子や応接間で勉強したいという子もいるかもしれません。その子にあった親のサポートの仕方はそれぞれです。もしサポートの仕方が分からないのであれば、正直に「どういう勉強方法が自分に合っていると思う?」「どんなサポートをしてほしい?」と素直に本人に聞いてみましょう。
中には「とにかく邪魔しないで」という子もいるかもしれませんが、そのときには「すみませんでした」と、そっと扉を閉めたらいいのです(笑)。

勉強する理由を子ども自身が納得できるように、目標を話し合いましょう

どうしても勉強をサボってしまうという子もいると思います。でも勉強は自分でするしかありません。子どもを責めるのではなく、「なぜやる気がだせないのだろう?」と話し合いましょう。
なぜ、受験勉強が必要なのかを心の底から納得させることが大切なのです。

例えば、大学受験であれば、日本の場合、卒業後、就職に有利になるという面があります。でも、それだけの理由では納得できない子も、少なからずいると思います。
だからこそ、その子にとってどんな将来が良いのか、どんな夢や理想を持っているのか、どんな人生を生きたいのか、この機会に、子どもと一緒に本気で話し合うことが必要なのです。

もし、子どもに「パティシエになりたい」という夢があるなら、受験勉強ではなく、ケーキ屋さんに一緒に行って、成功の秘訣を聞いたほうがいいかもしれません。どうしたら子どもの夢を実現できるのかを、とことん探って突き詰めていくのも親の責任のひとつです。
子どもが一生やっていても飽きないものを、一生かけられる生きがいを、一緒になって探し出すことがなによりも大切です。

親が一番心配なのは、子供が勉強してないことではありません。人生の歩み方に意欲がないことなのです。

やる気のないように見える子は、親子間の話し合いが足りていないということです。近くのカフェでお茶を飲みながらでも、どこかで食事をしながらでもいいので、親子で将来のことをじっくり話し合ってみましょう。子どもは目標がはっきりすると、目が生き生きをして生きる力がわいてきます。勉強にしても遊びにしても俄然やる気がでて、毎日が充実してきます。
ただ受験勉強をするのではなく、「なぜ勉強するの必要があるのか」ということを理解すると、子どもは飛躍的に成長し、結果的に成績もよくなっていきます。
将来の目標や勉強の目標があれば、努力することは苦ではなくなります。
親は、誰でも子供に幸せになってほしいと願っています。ですから、まずは親子で心を開いて、とことん話し合うことから始めてみましょう。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成・文・写真・イラスト:学びの場.com編集部

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