2018.05.02
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空気を読める子・読めない子、どうする?

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験を基に、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。第108回目のテーマは「娘に『空気を読みなさい』と教えてきたら、クラスメート達が行っているイジメに娘も加担したと聞きました。どうすべきでしょう?」です。

「空気を読む」のは良いこと? 悪いこと?

人の気持ちのわかる、皆に好かれる子になってほしい。そんな思いから、あるお母さんは小学6年生の娘さんに常日頃「空気を読みなさい」と教えてきました。ところが、その娘さんが周りの子達の空気を読んだ結果、ある女子児童へのイジメに加担してしまったそうです。

一般に「空気を読む」というと、今話題の「忖度」のように、自分の心に反して周囲に同調する、相手の意向を察して便宜を図るといったネガティブな意味で用いられることが多いようです。この場合、その場は丸く収まったとしてもモヤモヤと割り切れない思いが残るでしょうし、結果的に相手のためにならないこともあるでしょう。特にイジメに加担したようなケースでは、後々まで自責の念に苦しむことにもなりかねません。

とはいえ、人間は一人では生きていけない生き物。空気を読み、集団の和を乱さないように行動できなければ、少なからず人間関係で苦労することになってしまうでしょう。

では、より良い人間関係を築くために望ましい空気を読む力とは、どのようなものなのでしょうか。また、それを育むために親や教師は子どもにどう対応すればよいのでしょうか。今回はそれを考えてみます。

思いやりの心を忘れず、自分の信念を貫ける子に

本来、空気を読む行為は他人への思いやりから始まるものだと思います。東日本大震災の時に日本人が見せた他人を思いやる秩序ある振る舞いは、その最たるものと言えるでしょう。一方、相手との力関係や利害関係などに応じて意見を押し殺したり、ひるがえしたりすることは自分を守るための行為と言えるでしょう。

思いやりを示すためには、相手の言葉や表情、態度などをよく観察して、その立場や状況を想像し、自分がすべきことを判断する力が求められるでしょう。TPOをわきまえた言葉遣いや態度、服装などのマナーを守ることも大切になると思います。それと同時に、波風を立てることを恐れず、自分の信念に従って行動する力も必要とされるでしょう。

これらをバランスよく身につけることができれば、より良い人間関係を築くことができるはずです。

アグネスの教育アドバイス「「空気を読める子・読めない子、どうする?」イラスト

空気を読むには経験が必要

例えば、イジメに気づいた時、周囲に同調せず、「それは間違ったことだ」と声を上げるのは立派な行為です。しかし、止めに入ったことで自らが次のターゲットになる恐れもあり、それでは根本的な解決に至ったとは言えないでしょう。こうした場合には、一人で行動を起こすのではなく、教師や親に相談し、大人の手を借りて対処すべきだと思います。

こうした望ましい空気を読む力を育むには、経験を通して覚えさせることが一番だと思います。私は3人の息子が小さな頃から、大人同士の会話に積極的に参加させるようにしてきました。大人達の振る舞い方を観察させるだけでなく、時々「今の話どう思う?」などと質問して、子どもにも意見を求めるように努めました。そうして経験を積むうちに、息子達は場の空気を的確に読み取り、相手を思いやって言いたいことを抑えるべきか、あえて意見を主張すべきかを判断できるようになっていったと思います。子どもの手本となる親や教師は、他人に必要以上にへりくだった態度をとったり、悪口に同調したりしていないか、自らの言動を見直すことも心がけてください。

子どもがある程度自分をコントロールできる年齢になったら、公共の場に連れ出してTPOに応じたマナーを教えていくと良いでしょう。我が家でも「電車やバスで立っているお年寄りがいたら席を譲る」「スーパーでは公園みたいに走り回らない」「レストランでは小さな声で話し、ナイフとフォークを使って音を立てずに食べる」といったことを、言葉で説明しながら実際に体験させました。それを繰り返すことで、子どもはその場にふさわしい、周囲に不快感を与えない振る舞い方を学んでいくはずです。

集団の中で何を優先すべきか。時に大人でも判断に迷うものですが、空気を読むことは思いやりが出発点であるべき。そのことを忘れず、子どもを導いていってあげてください。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:吉田教子/イラスト:あべゆきえ

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