2017.05.03
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グローバル社会、どんな力を育むべき?

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験を基に、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。第96回目のテーマは「昨今、グローバル人材の育成が叫ばれています。家庭でできるグローバル教育はありますか?」です。

子どもの可能性を最大限に広げるために

グローバル化の進展により、これからは国内外を問わず様々な国の人々が共に学び、共に働くことが珍しくなくなっていくと考えられています。日本人が海外で仕事をする機会が増える一方、優秀な外国人が日本企業に採用されたり、安価な他国の労働力に国内の仕事が委ねられたりするケースも増加していくでしょう。他の国に関心を持たず、国際交流にも消極的な内向き志向でいては、世界ばかりか日本でも通用しなくなってしまうかもしれません。

そんな共生や競争が進む世界で活躍できる「グローバル人材」を育成しようと、昨今、教育現場では英語力、コミュニケーション能力、異文化理解などの向上に向けた取り組みが進められています。子どもの将来の可能性、特に仕事面での選択肢を最大限に広げるために、「家庭でもグローバル教育を」と考える親御さんも少なくないことでしょう。

しかし、そもそも「グローバル人材」とは、どのような知識や能力の持ち主を指すのでしょうか。今月は、これからのグローバル時代を生きる子ども達に求められる知識や能力、それを家庭で身につけさせるにはどうすればよいのかを考えます。

英語力はもちろん、プラスαの能力も必要

アグネスの教育アドバイス「グローバル社会、どんな力を育むべき?」イラスト

グローバル人材に求められる能力として、まず「英語力」は欠かせないものでしょう。インターネット上の情報も、学問やビジネスの世界における言語も、今や国際的な共通語である英語が中心となっています。英語で“聴き、話し、読み、書く”力を身につければ、外国人とのコミュニケーションで有利なのはもちろん、広く深く知識を得るという意味でも大きなメリットが得られると思います。

「多様性を受け入れる力」も英語力と同じくらい重要だと言えるでしょう。他者の人権を尊重し、差別意識を持たず、国籍や人種、民族、宗教などの異なる多様な人々と互いにリスペクトし合えることは、多文化共生の時代を生きる上で基本となる要素だと思います。

また、「どのような環境にも臆せず飛び込んで楽しめる適応力」も大切だと考えます。勇気を持って海外に出て行き、見知らぬ土地の文化や習慣に馴染んで、そこでの暮らしや人々との交流を楽しめること。これは大きな強みになるはずです。

さらに、「専門的な知識・技能とITスキル」も必要だと感じます。専門分野を持ち、その知識や技能を磨いておけば、競争の激しいグローバル社会でも活躍の場を得やすくなるでしょう。これからは今以上に多くの分野でコンピューターが活用されるようになると言われていますから、テクノロジーの変化についていけるだけのITスキルも身につけておきたいものです。

知識だけではなく、体験を通して楽しく学ばせる

家庭で「英語力」を養うには、できるだけ早い時期から、子どもにそれと気づかせないように学習させるのが理想的です。そのためには、子どもの好きなことを英語で楽しませてあげるとよいでしょう。歌が好きな子には英語の歌を覚えさせる、野球が好きな子には英語でMLB中継を見せる、という風に、子どもを英語に親しませ、耳を慣れさせる機会を日常的に作ってあげてください。

「多様性を受け入れる力」の育成も、小さなうちから働きかけることが大切になるでしょう。「世界中の皆が平等でかけがえのない存在であること」「日本が素晴らしい国であるように、他の国もまた素晴らしいこと」を子どもに繰り返し語り聞かせることが重要だと思います。また、自国と他国、両方の文化への興味や理解が深められるよう、体験を通して学ばせることも有効でしょう。我が家では日本、欧米、中国など色々な国や地域の伝統行事を行ってきました。お正月、旧正月、豆まき、バレンタインデー、ひな祭り、エイプリルフール、イースター、端午の節句、母の日、父の日、中秋の名月、ハロウィン、感謝祭、クリスマス……それぞれの行事にまつわる飾り物や料理を用意し、その意味を子ども達に説明しながら楽しむようにしたのです。外国人と触れ合う機会を持つより取り入れやすいですから、できる範囲で実践してみてはいかがでしょうか。

小さなうちから英語に親しむことと、各国の伝統行事を体験することは「どのような環境にも臆せず飛び込んで楽しめる適応力」を磨くことにもつながるでしょう。英語ができれば外国人とのコミュニケーションが容易になり、世界中の情報が得られますから、海外で学んだり働いたりする意欲が湧きやすいと思います。また、色々な国の伝統や文化を体で知っていることは、外国人に共感し、心の扉を開く鍵になるはずです。

「専門的な知識・技能とITスキル」を家庭で身につけさせるのは難しくても、学ぶべきことを見つけるためのサポートなら可能です。先々、子どもが専門とする分野を見つけられるよう視野を広げる手助けをして、興味を示したことには積極的にトライさせてあげてください。また、今注目のITスキルといえば2020年から小学校で必修化されるプログラミングですが、新しいテクノロジーや時代の流れに対応したスキルは何か、親が敏感にキャッチすることも大切でしょう。

このところ欧米では反グローバリズムの台頭が見られますが、日本の子ども達には外の世界に目を向け、たくましく未来を切り拓いていってほしいもの。学校だけで十分と考えず、ぜひ家庭でもグローバル教育に取り組んでいただければと思います。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:吉田教子/イラスト:あべゆきえ

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