2017.04.05
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「大人は子どもより偉いの?」と聞かれたら?

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験を基に、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。第95回目のテーマは「子どもから『大人は子どもより偉いの?』と聞かれ、納得のいく答えを返せませんでした。親や教師は子どもの上に立って指導すべきなのでしょうか?」です。

言うことを聞いてほしい大人、納得できない子ども

「親や教師は子どもの上に立って指導すべきなのでしょうか?」
……小学 5 年生の我が子を叱っている時、「大人は子どもより偉いの?」「なぜ、親や先生の言うことを聞かなくてはいけないの?」と聞かれ、納得のいく答えを返せなかったという親御さんから、こんな相談が寄せられました。

親や教師にとって、子どもは守り、育てるべきもの。保護者や教育者としての責任を果たすために、大人は子どもの上に立って指導しようとします。しかし、「大人は偉いのだから、子どもは黙って言うことを聞くものだ」と一方的に押さえつけられれば、前述のお子さんのように反発する子もいるでしょう。口には出さなくても、同じような疑問を抱いている子どもは少なくないのではないかと思います。

今月は、子どもを育て導くために、親や教師はどのようなスタンスで接すればよいのかを考えます。

立場や肩書きだけでは、子どものリスペクトは得られない

アグネスの教育アドバイス「『大人は子どもより偉いの?』と聞かれたら?」イラスト

私は、親や教師が子どもの上に立つという姿勢で指導に当たるべきだとは思いません。まず、それに値するだけの人間性を示さなければ、人の上には立てないと考えるからです。親であれ教師であれ、子どもの尊敬や愛情を自ら獲得し、その上で意見するのでなければ、子どもは心から納得することはないでしょう。

大人が親という立場や教師という肩書きだけで子どもの上に立ち、一方的に意に沿わせようとすること。それは、大人に頼らなければ生きていけない弱い立場にある子どもに対し、権力を振りかざすことにならないでしょうか。たとえ幼い子どもであっても、人格を持った一人の人間。その存在を認め、尊重すべきだと思います。

まずは大人が、愛され、尊敬される人間になる努力を

では親や教師は、どのように子どもと接すればよいのでしょうか。

親が子を叱るのであれば、それを上回る愛情を日頃から子どもに伝えていることが前提となるでしょう。子どもを作ったのは親なのですから、親が子を養うのは当然のこと。その上で子どもにたっぷりと愛情を注ぎ、良い人間に成長してほしいという強い信念を持って初めて、子どもを叱る資格が得られると考えてください。それができていれば、子どもは親を愛し、尊敬し、その言葉に耳を傾けてくれるはず。冒頭にあるような疑問を子どもが感じることもないでしょう。

教師の場合は、子どもが自発的についてくるような、魅力的で信頼できるリーダーになる努力が必要だと思います。「良いことをたくさん教えてくれる」「自分達を大切にしてくれる」と感じれば、子どもは自然と教師の言葉に耳を貸すようになるのでは? お世話になった監督を胴上げして称えるスポーツ選手のように、子ども達は無意識のうちに教師を上に押し上げてくれるのだと思います。

私は日本や香港の大学で客員教授を務めていますが、著名人であることや教育学の博士号を持っているというだけで、学生のリスペクトが得られるわけではありません。「こんな面白くてためになる講義は受けたことがない」と思ってもらえるように、いつも自分の知識や経験を総動員して内容を考え、講義に臨んでいます。ぜひ先生方も、自分からしか学べないもの、自分と一緒でしか楽しめない時間を子ども達に与えられているか、改めて自身に問いかけてみてください。

また、親や教師が子どもから教えられることもたくさんあるはずです。子どもと同じ目線に立ち、共に学び、成長しようとする姿勢も大切だと思います。

忙しい毎日の中、子どもとのコミュニケーションが思うに任せないこともあるかもしれません。しかし、親の精一杯の努力、教師の全身全霊の頑張りは、子どもに必ず伝わるものです。パーフェクトにできなくても、「子どもを守り、一人の人間として尊重する」という心構えを忘れずに接していれば大丈夫。子どもはきっと応えてくれると思います。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:吉田教子/イラスト:あべゆきえ

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