2017.03.01
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

思春期の子どもの悩み、どう聞き出す?

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験を基に、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。第94回目のテーマは「思春期の子どもの悩みを聞き出すには、どうすればよいのでしょうか?」です。

親を頼らないのは成長の証

「中学 2 年生の娘が何か悩みを抱えているらしく、毎日塞ぎ込んでいます。心配して聞き出そうとしても『別に』と言うばかりで、小学生の頃のように素直に打ち明けてくれません」……ある親御さんから、こんな相談が寄せられました。

思春期は、子どもが親への依存から抜け出して自立しようとする時期。親や教師といった大人より、価値観を共有できる同年代の仲間との関係に比重を置くようになるものです。体も大人へと変化し、異性への関心も膨らんでいきます。思春期の心身の成長には個人差が大きく、他者との違いに敏感になるため、ことさら容姿を気にしたり、自分の存在価値に迷いや不安を感じたりすることもあるでしょう。こうして、子どもは外の世界で色々なことを感じ、悩み、学びながら大人へのステップを登っていきます。この時期の子どもが親を頼らないのは、成長の証とも言えるでしょう。

とはいえ、いじめや性犯罪など深刻なトラブルに巻き込まれているのであれば、子どもの心や体に傷を残すようなことにもなりかねません。何とかして我が子の心の内を知りたいと思う親心は、よくわかります。思春期の子どもの悩みを聞き出すにはどうすればよいか、親子関係の築き方も含めて考えてみます。

心を開いてほしいなら、まず自分から

子どもに心を開いてもらいたいなら、まずは親の方から心を開くことが大切だと思います。「昔、こんなことで悩んでいたの」「今、悩んでいること聞いてくれる?」と、自分が思春期の頃に抱いていた悩みや現在感じている悩みを、子どもに打ち明けてみてください。そして、思春期に起こる心身の変化や、その意味を説明し、最後に、どんな時も親は味方であることを伝えましょう。「今は外で人と関わり、色々なことを体験して、どんどん自分を鍛えなさい。ただ、社会には様々な人がいて、誘惑も多く、思わぬトラブルに巻き込まれることもある。だから、何かあったら、いつでも相談してね」と。

その際、男の子なら釣り、女の子ならショッピングなど子どもの趣味や興味のあることに誘い、家の外で話をするのも有効だと思います。反発して話を聞いてくれないのであれば、手紙を書くのもよいでしょう。

そうして子どもから悩みを聞き出せたら一安心ですが、親が子どもの問題に介入することには注意が必要だと感じます。思春期の子を持つある親御さんが、子どもから友人 A、Bとのトラブルに悩んでいることを聞き出し、それをA、Bの親に相談したところ、子どもたちに発覚。かえって事態が悪化した、という話を聞いたことがあります。子どもが「秘密にしてね」と言った場合はもちろん、子ども同士で解決できる問題であれば、親は干渉を控えるべきではないでしょうか。

また、子どもの悩みを解決する答えを親が持っているとは限りません。そんな時は一緒に考え、悩んであげてください。きっと子どもの気持ちは楽になるはずです。

愛情たっぷりに見守るのも親の役目

アグネスの教育アドバイス「思春期の子どもの悩み、どう聞き出す?」イラスト

一方、親が働きかけても子どもが相談に来てくれない場合もあるでしょう。ここは心配な気持ちをぐっとこらえ、焦らず見守ってあげましょう。

見守ることは、腫れ物に触るように放っておくことではありません。揺るぎない親の愛情を示すことは、幼少期だけでなく思春期の子どもにも大切だと思います。「話をしたい」「笑顔でいてほしい」という気持ちを、あの手この手で表してみてください。試験中の夜食に好物を用意する、ノートや張り紙でメッセージを残す、おもしろい新聞記事を切り抜いておく、興味のありそうな本や映画の情報を伝える……私は3人の息子達に、こんなサプライズを用意していました。ささやかなことですが、子ども達の心には届いていたようです。

親から無条件に愛されることで、子どもは自分が価値ある人間だと感じ、自己肯定感が高くなると言われています。親への信頼感が育まれ、思春期にも悩みを打ち明けやすくなるでしょう。親を悲しませたくないという気持ちから、自然ときちんとした言動をとるようにもなるはずです。逆に、親から放っておかれ、十分な愛情を得られていないと、自尊心が低くなったり、コンプレックスを抱えてしまったりして、自己肯定感が損なわれる可能性があります。特に思春期にはトラブルに見舞われたり、非行に走ったりしやすくなる恐れもあるでしょう。

思春期の子どもとスキンシップをとるのは難しくても、気持ちで抱きしめることはできるはず。反抗されても笑顔を絶やさず、たっぷりと愛情を注いであげてください。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:吉田教子/イラスト:あべゆきえ

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望・気になることなど、お寄せください!

「アグネスの教育アドバイス」では、取り上げて欲しいテーマ、教育指導や子育てで気になることなど、読者の声を随時募集しております。下記リンクよりご投稿ください。
※いただいたご意見・ご要望は、企画やテーマ選びの参考にさせていただきます。
※個々のお悩みやご相談に学びの場.comや筆者から直接回答をお返しすることはありません。

pagetop