2017.01.04
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ステップファミリーの家族の絆、どう築く?

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験を基に、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。第92回目のテーマは「子連れ再婚家庭のステップファミリー、どうすれば幸せな関係を築けるでしょうか?」です。

最優先すべきは子どもの気持ち

最近、子連れ再婚家庭を指す「ステップファミリー」という言葉を、よく耳にするようになりました。厚生労働省の調査によると、「一方または両方が再婚」の婚姻件数は、1990年の13万2252件から2010年には17万9259件へと増加(以上、出典:厚生労働省「人口動態統計年報 主要統計表」(PDF))。それに伴い、子連れでの再婚も増加傾向にあると言われています。

ステップファミリーとひと口に言っても、シングルマザーと連れ子のいない男性、シングルファーザーと初婚の女性、両方が子連れのカップルなど、家族構成は様々です。また、離婚や死別など再婚に至るまでの過程や事情も異なります。

このように複雑な成り立ちのステップファミリーが家族としてやっていく上で、親が最も気になるのは子どもへの影響だと思います。

子どもは両親の離婚や父親・母親との死別によって、すでに心に大きなダメージを受けていると考えられます。離婚によって子どもが暴力から逃れられたような場合でも、環境の変化に伴い、何らかの影響があることは否めないでしょう。そこへ、今度は新しい父親・母親として見知らぬ男性や女性がやってくる。子どもの心は 「もうお母さんのこと忘れたの?」「二度とお父さんに会えなくなるかもしれない」「私のことはどうでもいいの?」という怒りや不安、寂しさでいっぱいになると想像できます。思春期の子どもであれば、親の「男」や「女」の部分に気づいて嫌悪感や反抗心を抱くことも考えられます。

こうした精神的ストレスは子どもの心の傷をさらに深刻化させ、親子関係をも悪化させてしまいかねません。親の離婚を経験した子どもに指摘されている、自閉や不登校、抑うつ状態に陥ったり、無断外泊、不純異性交遊に走ったりするケースが、再婚によって起こらないとも限らないのです。

愛する人と再婚して新たな幸せを掴みたい、そう望むのは自然なことですが、子どもにとっては一大事。「子どもの気持ちを最優先に考える」というスタンスが、親には求められると思います。

家族皆で率直に話し合う場を

アグネスの教育アドバイス「ステップファミリーの家族の絆、どう築く?」イラスト

再婚のタイミングはケースバイケースですが、幼稚園から小学校低学年頃までの子どもの場合は、比較的早く受け入れてもらえることもあると思います。小学校高学年以上の子どもであれば、思春期を過ぎるまで待ってあげるのが望ましいでしょう。

ただし、どのようなケースでも、子どもへのダメージを最小限に抑えるための配慮は欠かさないでください。理想は、子どもの承諾を得てから結婚や同居を進めること。再婚前に親権を持つ親、再婚相手、子どもの三者全員が集まる場を設け、納得のいくまで話し合うことが大切になるでしょう。

その際は、子どもに「大変な思いをさせてごめんね」と謝罪や労りの言葉をかけた上で、「でも、お母さんは人を愛することを信じたい。結婚せず別々に暮らす道もあるけれど、新しいお父さんが家族の一員になることで、より良い毎日が送れる気がするの。どう思う?」と、親の方から自分の素直な気持ちを話し、問いかけてみてください。双方に子どもがいる場合であれば、「新しいきょうだいができたら嫌? それとも嬉しい?」と聞いてみましょう。幼い子どもであっても蚊帳の外には置かず、「君の承諾なしには結論を出したくない」という意思を伝える努力をしていただければと思います。家では子どもの逃げ場が多くて話し合いが難しいというのであれば、小旅行などに出かけて行うのもよいでしょう。

こうした話し合いは再婚後に行っても有効と言えます。親子のわだかまりや、新たに子どもをもうけたい、といったデリケートな問題など、何でもオープンに話し合うことで少しずつ家族の距離を縮めていけるのではないかと思います。

また、子どもの心の安定を図るためには、生みの親との関係も重要になるでしょう。欧米諸国では離婚後、子どもは父親と母親の間を平等に行き来させるのが一般的だそうです。再婚後も元の夫と妻が家族ぐるみで付き合っているケースが多く、「いつでもお父さん・お母さんに会える」という安心感が子どもによい影響を与えていると聞きます。一方、日本では親権者でない親と子どもの面会交流の機会は限定的で、親同士の感情により実現に至らないケースも少なくないそうです。簡単なことではないと思いますが、子どもに危害が及ぶようなことがないのであれば、実の親と会う機会を設けてみてはいかがでしょうか。それにより、新しい家族にもよい影響がもたらされると思います。

「受け入れてもらうこと」ではなく「愛すること」を目標に

再婚にあたっては、「子どもに受け入れてもらう」ことを期待するのではなく、「実の親のように子どもを愛する」という覚悟を持つことも必要だと考えます。すでに再婚し、親子の関係に悩んでいるのであればなおさら、その覚悟を胸に子どもに接してほしいと思います。

「子どものためなら自分の命も差し出せる」というほどの深い愛情を血のつながらない子どもに注ぐのは、決して簡単なことではないでしょう。しかしそれは、子どもが馴染みのない大人を本当の親のように受け入れることが難しいのと同じこと。子どもの気持ちはコントロールできなくても、親である自分の気持ちを変えることはできるのですから、それに向けて努力をする方が、ずっと前向きではないでしょうか。

実の親に匹敵する愛情を持ち得たとしても、子どもが受け入れてくれるとは限りません。しかし、我が子を丸ごと受け止めようとする親の心は、子どもにもきっと伝わるはずです。

ステップファミリーの親子関係は多くの場合、片思いのラブストーリーのようなもの。望んでもうまくいかない日々に、心が折れそうになることもあるかもしれません。しかし、せっかく縁あって出会ったのです。ポジティブな気持ちを忘れず、時間をかけて家族の絆を築き上げていってください。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成:吉田教子/イラスト:あべゆきえ

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