教員の本棚から 〜『探究が進む学校のつくり方』のどこに付箋を付けたのか〜
探究学習を学校全体で育てるために、今こそ職員室の文化を見直してほしい......そんな思いを込めて本書を紹介します。
失敗を恐れず生徒と共に問い続けるマインドセット、指導から対話へのスタンスの転換、強みを借り合う教員チームの構築、外部との越境連携。この書評は、日頃の連載を支える筆者の思考の背景をお伝えするものでもあります。
この夏に一冊手に取り、実践をブラッシュアップするきっかけになれば幸いです。
花園中学高等学校 社会科教諭 伏木 陽介
夏の読書に選びたい探究学習の一冊
夏休みを迎え、2学期あるいは今後に向けて組織としていかに探究を進めるかと思索を巡らせる季節になりました。
教員にとって夏は、研修や勉強会を通じて多くの学びや実践のヒントを得る好期です。私自身、日頃からさまざまな教育的題材について情報発信を行っていますが、その思考の土台を支えてくれるのは、周囲の方々による優れた著作です。
夏休みは、そうした教育関連書籍とじっくり向き合う貴重な機会でもあります。
そんな中で今回ご紹介したいのが、酒井淳平先生・梨子田喬先生編著『探究が進む学校のつくり方』(明治図書)です。
本書は個人の実践論にとどまらず、学校というチーム、とりわけ職員室をどう変革していくかに正面から向き合った一冊です。私の手元にある本もページが付箋だらけになりました。
今回は、私が特に強く共感した言葉をたどりながら、本書を貫く一つの大きな流れを紹介します。
探究学習で空振りを恐れない姿勢
最初に強く線を引いたのは、31ページの一節です。
探究指導において最も避けるべき失敗は、「どうせ無理だから」と空振りを恐れ、無難かつ表面的な成果にまとめてしまうことだという指摘でした。
締め切りを厳守させる、計画通りに進めさせるといった教員側の生真面目さこそが、皮肉にも探究の質を下げる要因になり得るというものです。
思い返せば、私が7月に行った「探究活動におけるチーム作り」という主題での講演でも、教員が持つ従来の指導観を克服する必要性という観点から、同様の指摘をしました。
教員固有の先入観——「自分が正解を知る指導者でなければならない」「知らない領域の指導は怖い」という認識自体が変容を必要とするマインドセットです。私は、一緒に悩んでいくスタンスの必要性を主張しました。
生徒の諦めと教員の恐れ、その双方のマインドセットを変える必要があるを、本書は強く認識させてくれます。
生徒に主語を返す探究学習の伴走
さらに読み進めてひかれたのが、33ページから35ページにかけての記述です。
教員は「教える―教わる」という従来の指導スタンスを脱し、生徒に対して対等でフラットな関係性のもと「指導ではなく支援」「助言ではなく対話」で臨むべきだという提案がなされています。
ただ、支援や対話といっても、想定していない生徒の発言にどのような形で対応していけば良いのか。特に専門性を持ち合わせていないとその気持ちはさらに強いものになるかと思います。
その対策の一つとして、例えば生成AIなども組み合わせる方法があります。生徒たちに生成AIと壁打ちしてもらい、その結果を教師・生徒で共に閲覧しながら、話題を膨らませていく。
そのような形で、伴走の型を増やしていくのも一策かもしれません。
教員が生徒に力を「付けさせる」のではなく、生徒が自ら力を「付けていく」環境をどう整えるか。この視点の転換こそが、本書全体を貫く芯だと、ここでも感じます。
私自身、探究の伴走を行う際は、あらかじめ設定された指導目標から一度自由になり、生徒と同じ速度感で寄り添う一歩先を行く先輩でありたいと改めて強く思わされました。
あらゆる教育活動は、探究的
36ページの「探究活動でターゲットにしている力を養う機会を学校生活の様々な場面にちりばめる」にも大きな付箋を貼りました。
探究を「総合的な探究の時間」という狭い枠組みだけで捉えるのではなく、普段の授業や部活動、学校行事の中にも同様の力が身につく場面を意図的に設定し、学校の教育活動全体で育んでいく。それがやがて学校文化の一部になるという一節です。
このアプローチの力は、私自身の前任校である、さいたま市の開智中学・高等学校での経験からも痛感しています。
そこでは体育祭や文化祭「開智発表会」においても、担当教員は探究的なプロセスを重視ししていました。生徒がアクションを起こし、失敗を重ねながらも、次代へとノウハウを発展的に引き継ぐ仕組みが定着していました。
部活動でも同様に、生徒自らが練習メニューや活動方針を工夫するプロセスを大切にしていました。
「勝つこと」「強くなること」といった部活動に期待される部分との両立など、特有の難しさはあります。それでも、こうした教育活動全体の相乗効果を意識することこそが、探究を有機的に機能させる鍵となるのだと認識させられる章です。
教員同士で弱みと強みを補い合う
本書では、探究活動における教員チームの取り組みの重要性も指摘されています。さらに、「チームで成果を出すための補助線」として、自分の弱みを認識しながら、他の教員の強みを借りる組織文化の重要性が説かれています。
本書では、校内で探究学習を進める組織づくりの観点として、以下の4つを提起しています。
・「個人のマスタリー」個々のメンバーが自己成長を追求できる環境の構築
・「メンタルモデル」メンバーが持つ前提や価値観、信念を共有し、議論を通じて新しい視点を得ること
・「共同ビジョン」組織全体が共有するビジョンを設定し、その実現に向けて取り組むこと
・「チーム学習」チーム全体が学び合い、相互に影響し合いながら共同で成長していくこと
ピーター・センゲの『学習する学校』の理論にも通底するこの考えは、探究の指導にとどまらず、学校経営や組織づくり全体に通じる重要なマインドセットだと感じています。
そして、その前提となるのは、各教員が自身の強みを生かし、互いの個性を理解・許容し合う関係性です。
私はかつて、この関係性を「アンサンブル」に例えて話したことがあります。
知識を授けるインストラクター、対話を導くファシリテーター、外部とつなぐジェネレーター、寄り添うメンター。教員一人が、すべての役割を完璧にこなす必要はありません。
それぞれの得意を伸ばし、互いに補完し合う集団を目指せばよいのです。本書の言う「強みを借り合う」姿勢は、まさにこの理想を具現化するための道しるべと言えます。
ただ、この関係性をいかに職員室環境の中で醸成していくか。
そのために私自身が小さな取り組みとして行ってきたのが、現任校で所属するコースが発行する「コース通信」で、教員の意外な一面にスポットを当てる取り組みです。
基幹となるコース通信に、教員の趣味や、それぞれの教員が認識している等身大の姿をできるだけ共有していきます。
もちろんコース通信の目的は、第一にはそこに所属する生徒や保護者のためにあるものです。同時に読者層として教員も意識するよう気を配っています。
また、すでに私の連載で提示している哲学対話(哲学カフェ)の手法も効果があるかと思っています。
相手の意見を互いに否定せず、深考や沈黙も含めてその価値を重視する哲学対話には、心理的安全性の担保とともに、教員それぞれが大切にしている価値を、互いに感じる契機になります。
そうした機会を設けることで、アンサンブルが可能になる素地を創出していくことが大切なのではと感じています。
学校文化を変える外部との越境連携

「現場」の温度感を知ること、繋がりは教員の自走に繋がる
本書ではさらに、「学校の文化を変えるには、学校の中にいる教員が普段とは違う世界に触れる機会を持ち、外と繋がっていることが重要」であると指摘します。
教員だけでなく生徒もまた、越境によって大きく成長するということです。コラムでも、学校と外部をつなぐ「ハブとしての教員」や、越境を主導する教員を増やすことの重要性が語られています。
私自身、現場では生徒の成果発表会に、外部の企業や大学、教育関係者を積極的に招く試みをしてきました。
また教員自身も、マイプロジェクトアワードや高校生国際シンポジウムといった外部の舞台に足を運び、単なる引率者ではなく一人の参加者として熱量の高い高校生や実業家と議論を交わす機会をつくってきました。
日常の学校生活では見られない教え子の躍動する姿や、第一線で活躍する大人たちとのやり取りに触れることで、教員側の教育観もまた激しく更新されます。
本書が説く外とつながることの重要性は、職員室の閉塞感を打破するための特効薬です。
職員室文化を見直すための夏の一冊
個人のマインドセットから、生徒との関係性、チームの相互補完性、そして学校文化と外部とのつながりへ。
本書は一貫して、特定の誰かが正解を握り、内側だけで完結する硬直した構造をほどいていくことを説いています。
新学期が始まる前のこの時期、探究の年間計画を練るだけでなく、それを支えるチーム体制や職員室文化を見直す契機として、探究担当者はもちろん、学年主任や管理職の立場にある先生方にもぜひ手に取っていただきたい一冊です。
「さらに」の一冊を 〜探究実践を深めるための関連書籍〜
ここまで『探究が進む学校のつくり方』を中心に職員室の文化変革について考えてきました。この思想を現場で具体的に実践するにあたり、あわせて紐解きたい書籍がいくつかあります。
まず、生徒に伴走し、具体的なリサーチを導く上で極めて示唆に富むのが、佐藤郁哉先生の『リサーチ・クエスチョンとは何か』です。
探究の成否を分ける問いの立て方について、本質的なアプローチを学ぶ契機となりました。
また、教育の目的そのものを広い視野で見つめ直すための至言に満ちているのが、野本響子先生の『子どもが教育を選ぶ時代へ』です。特に感銘を受けたのは、本書で紹介されているラビンドラナート・タゴールの一句です。
「自分が受けた教育を子どもに押し付けてはならない。彼(彼女)はあなたとは別の時代に生まれたのだから」
この言葉は、教員が自らの指導方法を絶対視することの危険性と、自己でのブラッシュアップと脱皮を続けることの大切さを教えてくれます。教員を長く続けるほど、大切になる言葉だと思います。
さらに、多くの実践者が教育のパラダイムシフトを提示する『SCHOOL SHIFT』シリーズ(現在、第3巻)も外せません。
同書では、斎藤亮司先生をはじめとする著者陣によって、教師が従来の知識の伝達者から脱却し、ファシリテーターやジェネレーターとして多様な「かたち」で生徒に関わる姿が詳細に描かれています。私自身、多くの元気と示唆を得ています。
また、データ的な裏付けも含めて、多面的に探究の諸問題を捉えているのが探究学習研究会編著『「探究学習」とは言うけれど』です。
探究のどのような点に、教員や生徒が大変さや意義を感じているか。またどのように評価や伴走の問題に対応しているか。さまざまな統計データとケーススタディーから、探究学習の解像度を上げていくうえで、大変参考になる一冊でした。
そして、今回紹介した書籍の続編とも言うべき、酒井淳平先生の『誤解だらけの探究学習 「手応えがない」ときの25のヒント』が今月、刊行されました。
こちらに関しては、また次回、「どこに付箋を付けたのか」を実践に絡めて、紹介していけたらと思います。
読書の夏、自らの座標を確かめる
この夏、これらの書籍を通じて獲得した新たな知見や視座を、机上の空論で終わらせるつもりはありません。
新学期からの職員室、あるいは生徒たちとの対話の中に有機的に還元し、実践の場でさらなる認識のアップデートを重ねていきたいと考えています。
関連リンク
参考資料
- 酒井淳平・梨子田喬『高等学校 探究が進む学校のつくり方 探究学習を学校全体で支えるために』明治図書、2024
- 酒井淳平『誤解だらけの探究学習 「手応えがない」ときの25のヒント』明治図書,2026
- 宮田純也編著『SCHOOL SHIFT あなたが未来の「教育」を体現する』明治図書,2023
- 佐藤郁哉 『リサーチ・クエスチョンとは何か?』ちくま新書,2024
- 野本響子『子どもが教育を選ぶ時代へ』集英社新書,2022
- 探究学習研究会編著『「探究学習」とはいうけれど 学びの「今」に向き合う』(晃洋書房,2024)
- ピーター M センゲ 著『学習する学校――子ども・教員・親・地域で未来の学びを創造する』英知出版、2014

伏木 陽介(ふせぎ ようすけ)
花園中学高等学校 社会科教諭/中高一貫(ディスカバリー)コース統括・ICT担当、東西探究交流会代表
長年にわたり、探究学習のプログラム策定や実践に携わってきました。
学校や授業の改革には何が必要かを考え、現場でのチーム作りや実践を重ねております。
また、大学などの「学術知」を中高の教科指導とどう結びつけるかを追求し、共通テストの分析やICTとの接続等の教材開発に取り組んでおります。
こうした経験を活かし、未来の学びの創造に貢献したいと考えています。
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