2025.05.24
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「先生、うちの子が...」その電話、私ならこう受ける(前編)

朝イチの欠席連絡。
子どもの様子に不安を感じた保護者からの相談に、ベテラン教師はどう動く!?
報告は迅速に、保護者への即レスはマスト!
対応の進め方を保護者と共有して安心感を。初期対応が大切です。

目黒区立不動小学校 主幹教諭 小清水 孝

午前8時10分、欠席連絡アリ

以下は、よくある場面をもとにした仮のケースです。

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とある日のことです。児童の登校5分前。
校務用タブレットに、Aさんの保護者から欠席連絡が入ります。
「うちの子がBさんにいじめられています。いじめは以前から続いています。Aの名前を使って『Aウィルス』と言ってくるそうです。事実であればご指導いただき、Bさんの保護者にも伝えてほしいです」
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教職経験10年以上の方であれば、同様の経験があるのではないでしょうか。1年間に複数件あることも、決して特別なことではありません。
まず、何から着手すればよいのでしょうか。セオリーはあるのでしょうか。
読者の皆さんなら、どのような手順で動きますか?

私は過去に、児童数が都内最大規模の小学校に勤務していました。在籍児童1300人以上の超大規模校です。主幹教諭として5年連続生活指導主任を務めました。児童数が増えれば、それに比例して対応すべき事案も増えますが、管理職の数が増えるわけではありません。
管理職がすべての事案に深く関わることは、現実的には難しく、生活指導主任がいじめなどの繊細な対応を任される場面も多くなります。そこで数多くの経験を積み、成長の機会をいただきました。
これだけで1冊の本が書けそうな気がしますが、大まかにまとめると対応には10の段階があると考えます。

「みんなやっている」は幻想

【第1段階】 学年主任、生活指導主任、管理職に報告する

これができなければ、教員として、いや、社会人としてかなり厳しいと言わざるを得ません。
「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)でしょ。そんなのみんなやっているよ」と思われるでしょうか。現場では,本当にホウレンソウが十分に機能しているでしょうか。
次のような例が、本当にないと言えるでしょうか?

・報告が学年主任で止まり、管理職まで伝わっていない
・学年主任や生活指導主任を飛ばして、直接管理職へ報告する
・何かしらの対応をした後に管理職へ事後報告する
・保護者との関係がこじれてから、ようやく管理職に報告・丸投げする

保護者からの連絡は、できるだけ早急に主任と管理職に報告すべきです。

既読スルーは禁断行為

【第2段階】 保護者に返信または電話をする

一人一台端末の普及により、欠席連絡や相談は電話ではなく、端末経由で届くようになりました。冒頭の事例は、タブレットに連絡が入ることを想定しています。

このような連絡を受けた際に、やってはいけない事例があります。保護者からの連絡に何も返さないまま児童に話を聞き、放課後にようやく保護者へ返信することです。「朝のご連絡の件ですが、子どもたちに話を聞いたところ...」と、夕方になってから保護者に連絡する例はないでしょうか。

これでは保護者の不信感は増すばかりです。なぜ、相談に対してすぐにレスポンスしないのでしょうか。担任から反応がないことに、保護者は一日やきもきしているはずです。
たとえ何も分からない状態であっても、「心配をおかけして申し訳ありません。学年主任や生活指導主任、管理職と相談の上、連絡させていただきます」くらいは伝えるべきでしょう。既読スルーは禁断行為です。

トラブルを防ぐカギは、事前の共有

【第3段階】 子どもへの話の聞き方について共有する

子どもたちに話を聞く「前」に、どのように進めるかを保護者と共有しておきます。
私は次のように伝えることが多いです。

「過去の経験から、子どもの話す内容にはズレがあるかもしれません」
「必要に応じて、複数の児童に確認する場合もあります。すぐに報告するのは難しいかもしれません。できるだけ丁寧に状況を把握させていただきますので、ご報告までに(休校日を含まず)3日間ほどかかるかと思います」
「校長室など静かな場所で、落ち着いて話を聞きたいと思います」
「学校の方針で、教員が2名体制で子どもの話を聞くことを基本としています。今回もその体制で対応します」
「学年の教員や学校長と共有した上で、改めてご報告します。8時から16時までの間で、ご都合の良いお時間はありますか?」

私が日常的に実践している工夫が詰まっています。
ポイントは主に4つです。

①子どもに話を聞く期間
②話を聞く場所
③話を聞く際の体制
④保護者への報告のタイミング

これまで何度も経験した、学校への信頼が揺らぎがちな場面です。
次項で詳しく解説します。

①子どもに話を聞く期間

「過去の経験から、子どもの話す内容にはズレがあるかもしれません」

私の経験では、「ズレない方が奇跡」です。まだ10歳前後の子どもたちにとって、自分の体験を正確に言葉にすることは簡単ではありません。悪意なく記憶を上書きする子も数多くいます。しかし、保護者は、学校が丁寧に話を聞けば事実は明らかになると思っています。保護者の思いは十分に理解できるのですが、現場の肌感とはギャップがあります。

そこで「過去の経験から」と伝えます。
「こうしたことは学校では特別なことじゃないのね」
「ズレることはよくあること」
と、保護者に感じていただくことも大切です。
何となく伝われば十分です。強調する必要はありません。

「必要に応じて、複数の児童に確認する場合もあります。すぐに報告するのは難しいかもしれません。できるだけ丁寧に状況を把握させていただきますので、ご報告までに(休校日を含まず)3日間ほどかかるかと思います」

もし、期間を明示していなかった場合は、1日ですべての話を聞くことができなかったとしても、放課後に保護者に電話連絡することになります。そして、電話がなかなか繋がらず、保護者名簿を何度も出し入れすることもあります。鍵をかけて保管している場合、時間は余計にかかります。一呼吸入れて、電話をして、また繋がらず。時間と心を消耗します。
やっと繋がっても、「今日は全ての確認ができなかったので、もう1日ほどお時間をいただきたい」と伝えることになります。保護者としては「何をやっているんだろう、対応が遅い」と不安に感じることもあるでしょう。

しかも、中途半端な状況にも関わらず、保護者からは現段階で分かっていることの報告を求められます。その場合、内容にばらつきがあるまま伝えることとなり、保護者の誤解や不信感につながることもあります。
「すべての話を聞いてから報告します」と言うことも可能ですが、何かを隠ぺいしているような印象を与えるかもしれません。

②話を聞く場所

「校長室など静かな場所で、落ち着いて話を聞きたいと思います」

これも事前に伝えておいたほうが安心してもらえるでしょう。
以前、「校長室では緊張してうまく話せなかった」「なぜ密室で話をするのか」といったご意見をいただいたことがあります。
こうした経験から、落ち着いて話ができる環境を選んでいることを保護者に説明しています。

③話を聞く際の体制

「学校の方針で、教員が2名体制で子どもの話を聞くことを基本としています。今回もその体制で対応します」

これも事前に保護者と認識をすり合わせておくことが大切です。
担任1人で話を聞くことはリスクを伴います。実際に、対応後に誤解が生じ、心身に大きなダメージを受けた教員もいます。

子どもにもそれぞれの事情や感情があり、時には自分を守るために事実を隠すこともあります。それも自然なこととして受け止めたうえで、客観的に把握するためにも複数の教員で対応する体制が必要です。

しかし、子どもには圧力と捉えられてしまうこともあります。
「複数の教員に囲まれて緊張してしまった」「大人が複数いて上手く相談できなかった」といった指摘をいただいたことがあります。

こうした行き違いを避けるためにも、ペア体制の意図を説明し、理解を得ることが大切だと考えています。この方法はリスクを分散するだけでなく、若手教員が先輩から対応を学ぶ機会にもなります。

④保護者への報告のタイミング

「学年の教員や学校長と共有した上で、改めてご報告します。8時から16時までの間で、ご都合の良いお時間はありますか?」

報告する時間については、事前に約束しておくことが大切です。先にも述べましたが、何度も電話をかけなおすことで、時間的・心理的な負担が積み重なります。明日も授業が控えており、子どもたちが待っています。限られた時間の中で、対応する必要があります。
報告はできるだけ一度で、丁寧に確実に伝えることが大切です。

勤務時間内にやり取りを終えるためには、こちらから可能な時間を明示し、その中で保護者に選んでいただきます。
その際、「16時45分」ではなく、「16時まで」と伝えることもポイントです。
おそらく電話での連絡には10~15分かかります。面談となれば30分かかることもあります。さらにその後、学年主任や生活指導主任、管理職への報告が10分程度かかるはずです。これらを含めて勤務時間内に終えることを意識しています。

いじめ対応は、教員としての責任のある職務です。趣味やボランティアではありません。勤務時間外に行うことで逆に「業務」としての重要度が曖昧になってしまうこともあります。子どもを守る教師の重要な仕事です。勤務時間内に対応することは、職業人としての覚悟なのです。

信頼を築くための残り7ステップ

文字数の関係で本号はここまでとさせていただきます。子どもへの「聞く」段階は、まだ始まっていません。しかし、数多くの事例を経験した身として本音を申し上げますと、対応がうまくいかなくなる原因は、実は準備段階にあることが少なくないのです。

本テーマを扱った際の、教育サークルの仲間のコメントを紹介します。

C先生(教職3年)は、「保護者へ連絡するタイミングや場所、時間、体制など、保護者も同じイメージがあるというのは、完全に思い込みが過ぎていました」と、初期対応の重要性を振り返りました。

D先生(教職7年)は、「仕事として行うために、時間の設定をするというのは,合理的かつ説得力のある考え方だと思いました。たしかに、時間をかければかけるほど、遅くなればなるほどこちらも疲弊して、無理やり解決したり濁したりした経験があります」と、報告日時の取り決めの重要性を振り返りました。

E先生(教職11年)は、「こちら側で考えていることを『相手に伝わるように伝えること』が大事なのだと感じました。方針を事前に連携することが、誠意が伝わることと気付かせてもらいました」と、真摯に受け止めていらっしゃいました。

F先生(教職12年)は、「これまで保護者からご理解をいただいておりましたが、たまたま運が良かっただけだと焦りました。手順を踏んで、もっと安心して指導にあたりたいと感じました」と、危機感を募らせました。

本記事と4人の先生方の振り返りから、いじめ対応は奥が深いことを再確認していただければ幸いです。ご紹介した内容は、1年間通して使えます。大学でも,セミナーでも、教わらない技術です。

(後編)に続きます。

小清水 孝(こしみず たかし)

目黒区立不動小学校 主幹教諭


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現場で使える技術、できる実践、リアルな指導法を日々追究しています。
現場の先生方、共に考え、指導法の選択肢を増やしていきましょう! 
NPO教育サークル「GROW5th」代表。

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