2024.01.29
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多様性について アメリカの「学校」から考える(Vol.2)

コロナ禍で担任した子は、日本の学校に通いながらアメリカの学校にも在籍して授業に参加していました。
なぜそんなことができるのか?
そこには多様性を大事にする考え方と、オンラインを活用した教育内容と方法の工夫がありました。
アメリカのオンライン仮想学校の授業を通して、多様性について考えると、学校の新しい学びのカタチが見えてきました。
それは横並びの「平等」ではなく、
誰もが、いつでも、どこでも自分らしく学べる「平等」の考え方からきていると思うようになりました。

鹿児島市立小山田小学校 教頭 山口 小百合

山あいの小さな学校で ~運命の出会い~

2年前、私は山あいにある全校児童11名の極小規模校(2年,3・4年複式、5・6年複式の3学級)に勤務していました。
私は教頭職と兼務で、2年生2名の担任でした。
奇遇にも、二人ともそれぞれ外国から一時帰国してきている間に、日本の学校に通う子どもたちでした。
しかも、どちらの保護者も情報技術のエキスパートだったのです。

折しも、コロナパンデミックの中、GIGAスクール構想が急加速で進められていました。
学校現場では、1人1台端末の配付、高速大容量ネットワーク整備、全児童と全職員に県域アカウント配付(MicrosoftとGoogleの使用可)、校務支援システムへの移行、ICT支援員の定期来校、学校ポータルサイトの整備、プログラミング教材の共同購入など、環境がどんどん整えられていきました。

しかし、物が整っても、導入期の学校現場は混乱していて、そう簡単には進みませんでした。
今振り返ると、学校にも地域にもコロナ罹患者はいなくて必要感が薄く、業務改善や授業改善につながるという考えはまだ浸透しておらず、押し付けだと批判もありました。
また、当時はWeb会議やクラウド活用は、学校現場ではまだ一般的ではなく、知らない人とつなぐのは危険、他県の講師に学ぶ理由は?クラウド化に誰がお金を出して誰が整備するのか?教師が使えないのに指導などできないなど、戸惑いの声も多かったのです。

そんな状況で、この二人の保護者には、海外の最新の教育動向を教えてもらったり、授業で子どもたちをサポートしてもらったり、タブレット端末の操作やプログラミング、情報モラルについての保護者向け教室で講師をしてもらったりしました。

奇しくも、私はICTを活用した授業づくりに高い関心をもっていました。
二人の保護者の協力を得て、山あいの小さな学校にいながら、今までやったことのないような新しい授業にどんどんチャレンジしていきました。
美術館や博物館などの文化施設や工場見学などに行けない反面、実は離島や中山間部の小規模校の方が、子ども一人一人の機器が充実しているように感じます。
さらに、自然や伝統文化などの豊かな教育資源をもとに、川遊びや地引網、ボンタン収穫、炭焼きなど、地域のサポートでダイナミックな体験をしながら、ICTを活用した特色ある活動を展開していくことができました。

2家族との出会いは、まさに運命の出会いでした。

私は、特に「遠隔教育」について研究したいと思っていました。
離島が多い鹿児島県の地域格差を軽減する糸口だと考えていたからです。
コロナ禍以前から、種子島で、近隣校や屋久島、奈良県、新潟県などの小学校とつながって遠隔合同授業の実践研究を行ってきていたのです。

そして、「ただオンラインで結ぶだけのイベント」に終わらない「主体的・対話的で深い学び」を具現化する遠隔授業を目指すようになり、次のような問いをもっていました。

“オンラインツールを活用して、もっと学習者主体の個別に最適化された学びや、「多様性」が尊重され、生かされる学びとは、具体的にどのような授業か?”

2年児童Aさんを通して、この答えを知ることになるとは、夢にも思いませんでした。

学校の新しいカタチを知る ~アメリカ公立小学校のオンライン仮想学校~

Aさんは、コロナ禍で長く帰国できず、日本の学校に通いながら、カリフォルニア州の統一学区(教育行政)が運営するオンラインスクールに在籍していました。
授業料無料の公立学校で、カリフォルニア州の当該地区のすべてのK-12(幼稚園から高校卒業まで)の子どもが登録できます。

学校のホームページでは、
「多様性」、「柔軟性」、「自主学習」、「テクノロジー」、「ブレンディッド・ラーニング」
を謳っていました。

テクノロジーを駆使して、従来の対面型の学校教育とオンライン教育の要素を組み合わせた学習環境を提供しています。
元々はホームスクーリング用のカリキュラムをコロナ禍に適応させたもので、コロナ禍で利用者が増加したとのことです。
統一学区のカリキュラムを基準にして、質と量において対面型と同等の指導の保障に努め、様々な工夫をしています。

特に際立っているのは、
学習者のニーズに合わせ柔軟に選択できる学校ということです。
多様なニーズに合わせて、次の学習形態を学習者自身が柔軟に選択できます。
① 対面とオンラインのハイブリッド
② 全部オンライン授業
③ 時間に拘束されないオンライン授業
Aさんは、学習者のペースで、いつでもどこでも学習することができる③を選んで、日本からの参加を可能にしていました。

このオンライン仮想学校は、Schoologyというプラットフォームを基盤として展開されます。クラス担任から1週間ごとに課題が出され、毎週提出完了して出席となります。

担任は、学習計画表と内容、方法等について説明した文書や動画データやURLをアップします。
それを参考にして、学習者はオンラインライブラリーやIXL等の教育用コンテンツやアプリやサイトなど,様々なオンラインツールを活用して学習します。

1単位時間で完結ではなくて、各自の都合に合わせた時間に学んだ成果物を提出するので、いつでも、どこでも取り組むことができます。学校と家庭のシームレスな学びが特徴です。

課題提出で、教師の評価後、単位取得となります。

Formによるテスト、リアルタイムで質疑応答、レポートやポスター、プレゼンテーション等の成果物など、オンライン授業の評価についても工夫されています。

随時、保護者が学習ログや評価結果やその理由などについて確認できるようになっています。

個別指導を大切にしていて、毎週、リアルタイムで担任との対話の機会が設けられています。

また、毎週 1、2 日の4 時間ほど、オンラインで教師がファシリテーターとなって、各地の仲間との協働的な学びの機会が設けてあり、各自が調査したことの発表、意見交流、本の紹介、Kahoot!(教育用ゲーム)大会でレクリエーションなどが行われます。

このような授業が可能になるには、小学生は保護者の定期的な参加が不可欠であり、必要に応じて学校が児童や保護者をサポートします。また、課題や家庭での操作についての説明のための保護者サポートもあります。
子どもとともに、保護者のスキルアップ、学校との共通理解も図られる仕組みです。

このように、オンラインスクールでは、外国にいても、一人一人のニーズに合わせた多様な学習の展開を実現しているのでした。
この米国の先行実践から、学習者主体の学びの具体を得ることができました。
また、多様性を尊重して、生かしていくための、考え方や内容や方法が、これからの学びに示唆を与えてくれているように思います。
次回Vol.3で、各教科の具体的な学びについて書いていきます。

山口 小百合(やまぐち さゆり)

鹿児島市立小山田小学校 教頭


鹿児島県内公立小学校で、地域素材・人材を活かした体験的な授業づくりや複式学習、遠隔授業の実践を積んできました。 
鹿児島大学教育学部附属小学校では、家庭科を中心に全教科における思考方法・技能の育成をテーマに研究に取り組み、現在も続いています。
教職大学院では、学校運営や学級経営、教員研修、授業分析、ICT活用などについて学び、小規模校の教育の質の維持向上を考えています。
教頭になり、アメリカのバーチャル学校のリモート授業や地域と連携した特色ある教育活動を楽しみながら、情報化推進などで奮闘しています。
女性のからだのこと、子育てしながらの悩みなど、失敗談も含めて飾らずにつれづれを語っていけたらと思います。

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