2021.12.13
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探究活動でもっともこだわるべきマイテーマ・マイプロジェクト

前回の最後に、高校の探究、特に総合的な探究の時間に実施するものでは、自分の決めたテーマに取り組むことが何より重要と書いて終わりました。今回はこのことについて書きたいと思います。

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

タッチパネル形式の探究になっていませんか?

探究活動が盛んになっていく一方で、SDGs(持続可能な開発目標)が話題になっています。グループになってSDGsから探究のテーマを選び、調査して何らかのまとめをして終わり。こんな探究が増えているのではないかという思いを持っています。もちろん探究的な学びの体験として、初期の段階でこのような学習を実施することはあると思います。もちろんその場合は、成果物の質よりも、探究的な学びを体験的に理解し、次につなげることができるかが大事であることは言うまでもありません。

SDGsを地域探究に置き換えても同じことが言えるかもしれませんが、タッチパネルで注文する品を選ぶようにして進める探求(本稿では「タッチパネル形式の探求」と呼びます)には大きな欠点があります。みなさんはそれが何だと思いますか。

高校生の地域探究の伴走をされた方が「高校生は地域の課題を発見し、それなりの提案をしてくれた。でも提案で終わり。自分たちで実行する意思がない」と言われていました。学校は評論家を育てようとしているのか、社会を創る人を育てようとしているのかと聞かれると、おそらく後者でしょうし、新学習指導要領では後者を育てるという趣旨のことが書かれています。しかし、タッチパネル形式の探究では一歩間違うと評論家しか育てないかもしれません。また生徒にとってテーマが自分ごとでないというのも致命的な欠点でしょう。

高校生だからこそマイテーマを考えることが重要

高校に期待されていることはたくさんあるでしょうが、忘れてはいけない大事なことは、生徒が自分の将来を考え、進路を決めるということです。高校も選んで入学しますが、その時点での学力ややりたいクラブ等で選ぶ場合がほとんどでしょう。高校は多様ですが、国語・数学・英語・体育などどの高校に行っても同じようなことを学習するのも事実です。しかし高校卒業後は、大学に進学すること一つをとっても、学部を決めないといけませんし、学部によって学ぶ内容は大きく変わります。専門学校に進学するなら自分の専門を決める必要があり、就職なら会社を決める必要があります。どのような進路に進むにせよ、自分がどのようなことをテーマとして生きていきたいのかを決める必要があるのです。つまりマイテーマ・マイプロジェクトを考えることは高校生にこそ重要なのです。

こう考えたときに、総合的な探究の時間の目標に「自己の在り方生き方を考えながら,よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を育成する」と「自己の在り方・生き方」という言葉が登場している意味がわかります。

もちろん高校ではこれまでも進路指導・キャリア教育は行ってきましたし、生徒が自分のマイテーマを決める支援をしてきました。これまではLHR(ロングホームルーム)など限られた時間で取り組んできましたが、総合的な探究の時間があることによって、実は生徒のマイテーマ探しの支援はより充実するはずなのです。今私たちが考えるべき視点はここにあるのではないでしょうか。SDGsを扱うにしても、地域課題を扱うにしても、そこから生徒がマイテーマを深める、マイテーマに出会うという点を意識しているかどうか、ここは大きなポイントだと思います。

マイテーマは育てていくもの

探究活動を通してマイテーマに出会うというときに、必ずぶつかる壁があります。それは「どうすれば探究活動がマイテーマや進路につながるのか」、そして「生徒がマイテーマを設定することができない」という2つです。こうした悩みを聞くことも多いのですが、その背景には「探究活動とマイテーマをつなげないといけない」「探究を通じて自分が生涯取り組むマイテーマを見つけなければいけない」という思いがあるように思えてなりません。

もちろん、探究活動を通じてマイテーマに出会えればいいとは思います。卒業生に、本校の探究の授業でマイテーマに出会い、大学でもその活動をより発展させている生徒はいます。大学入学時にマイテーマを持っていることが、大学という可能性が大きく広がる環境での成長につながることも事実です。しかし「こうなればいいなあ」と「こうならないといけない」は違います。

またマイテーマと出会うことはそんなに簡単ではありません。いつどこで出会うかわからないし、これだと思って大学に進学してもそのテーマが変わることも少なくありません。自分たち大人もマイテーマは少しずつ変わっていきます。つまりマイテーマはあるとき出会って固定されるものではなく、その都度自分の思いにあわせて設定し、少しずつ育てていくものなのです。もちろん高校での科目選択、高校卒業後の進路など節目では、その時考えられる範囲で自分のテーマを決める必要はあります。でもそれはその時の自分が最大限考えた結果であり、次のステージに行くことで成長すると変化するものなのです。

本校の高校2年生のコア探究は課題設定力を高めることをテーマとしています。高校3年生で1年間かけて取り組むテーマに出会うため、高校2年生の授業では、「好きなことを論文にまとめる」「進路探究をする」「チョコプロを実施する」という3つのことに取り組みます。それぞれの学びでマイテーマを設定し、それらをもとにして次年度のテーマを設定するという取り組みを試行しています。実は授業は現在進行中で、ここからの3学期の授業設計で今悩んでいるのですが、なんとか形にしたいと思っています。

高校だからこそマイテーマを考えることが重要、そして総合的な探究の時間があるからこそ社会とつながりながらマイテーマを考えることができると思っています。みなさんはどう思われますか。

いろいろ書きましたが、自分の将来というワクワクすることを考えるときに、「~せねばならない」という義務感で考えるのはもったいないなあ、という素朴な思いがすべてだと思ったりもします。マイテーマを育てるということは自分自身のこれからの人生のテーマでもありますが、このことを意識した取り組みはこれからも形にしていきたいと思います。

今回はマイテーマというキャリア教育に関わることを記事にしました。そんなこともあり次回はキャリア教育について書きたいと思います。引き続きよろしくお願いします。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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