2021.11.24
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生徒が一歩踏み出すチョコプロの取り組み

前回は大きな探究学習を実現したいからこそ、はじめの一歩が大切ということについて書きました。今回はそれを受けての取り組み「チョコプロ」について書きたいと思います。

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

チョコプロとの出会い

立命館宇治高校では2018年度より探究とキャリア教育をカリキュラムの柱(コア)と位置付けた教育課程を実施してきました。私はコア探究(総合的な探究の時間)のカリキュラム開発の責任者でしたが、本校は大学に進学する生徒がほとんどなので、アカデミックなコアとして、自分の興味・関心を出発としたテーマを論文という形でまとめることは大事だろうと考えていました。同時に論文としてまとめるだけでなく、学校を出て自ら社会に向けて行動することはもっと大事で、それこそがよりよい高大接続にもつながると考えていました。つまりマイプロジェクトを進める生徒が増えてほしいと思っていたのです。

こうしたことからコア探究では2年次に地域課題をテーマとした取り組みを行い、マイプロジェクトアワードを生徒に紹介し、他校の高校生や大学生、大人たちのプロジェクトに出会う機会も数多く設定しました。その取り組みは悪くなく、生徒のキャリア意識向上などもアンケート結果から明らかになったのですが、興味を持っていることを「プロジェクトを動かす」という形で進めることは生徒にとってハードルが高いことも明らかになりました。プロジェクトの数が増えたことは事実だけど、多くの生徒にはまだまだ敷居が高くアクションに至らない生徒が多かったです。そんな状況を見て、「アクションしてプロジェクトをまわすことをカリキュラム化できないだろうか」という問いを持つようになりました。

そんなとき、認定NPO法人カタリバ主催の勉強会で、岩手県立大槌高等学校の「チョコプロ」という取り組みに出会いました。「チョコプロ=ちょこっとマイプロジェクト」。生徒が自分でテーマを決めて1週間プロジェクトを動かし、その振り返りから次の1週間のプロジェクトのテーマを、改めて設定し再び動かすというものです。大槌高校ではチョコプロを実際にカリキュラム化されていることも知りました。「この取り組みを本校に導入したい」と考えて大槌高校に連絡し、チョコプロの取り組みを聞かせていただく時間を設定してもらいました。その後本校でもチョコプロを導入し今に至っています。

大槌高校の取り組み

大槌高校では、2018年度入学生より「三陸みらい探究」という3年間の探究学習が進められています。2年次は「テーマを探究する」というテーマで、マイプロジェクトを作ることが目標になっています。

大槌高校では高2の8月に、まずはプロジェクト練習編として、「誰かを喜ばせること」を条件に、自分で決めたテーマを1週間アクションするということを行います。テーマの例としては「忙しい家族のために、1週間弁当を作る」「家を快適にするため、新しい家具を日曜大工で作る」「外国ルーツの親戚と会話するため、中国語を勉強する」などがあります。その後「お年寄りを喜ばせようプロジェクト」として高齢者施設での民謡披露・料理提供や、「想像力は命を救うプロジェクト」として小学生対象の「物語づくりワークショップ」などに発展したものもあります。最終的に大槌高校から2名の生徒がマイプロジェクトアワード全国大会に出場しました。

プロジェクトに取り組む過程で生徒も大きく変わります。たとえばある生徒は、決して目立つ存在でなく、卒業後は地元の公務員(消防士)志望でした。プロジェクトで彼の夢は変わります。民俗学を学び街の郷土芸能の発展に貢献したいという思いから、県内への大学進学希望に変わり、さらに決して目立つ存在ではなかった彼が、今では議論の場で中心的存在となり、後輩にとってあこがれの存在にもなっています。この背景には大人の関わりもあります。彼の周りには、生徒だけでは気づきにくい熱量を持っているポイントを、丁寧に引き出して認めてくれる大人(教員含む)がいました。プロジェクトを通して社会と関わることで高校生は大きく変わることがわかる例です。
他にもプロジェクトを実施することで、「自分が社会を変えるなんてできない」という思いが、「本気でやれば、少しかもしれないけど社会を変えていくことができる」という思いに変わった生徒は少なくありません。

大槌高校のチョコプロは、どの学校でもすぐに取り組める形になっていたということも、私たちにとっては大きなことでした。何より1週間とはいえ、プロジェクトを実際に動かしてみるという経験が生徒には大きいだろうと考えました。大槌高校の取り組みを聞かせていただき、さっそく本校のコア探究のカリキュラムに導入することにしました。

本校でチョコプロを実践する

2020年度、2021年度と本校では高校2年生でチョコプロを実施してます。2021年度は7コマで単元を作成しました。7時間の内容は、

①チョコプロの説明とMy willリスト作成
②企画書の作成と共有
③1回目のプロジェクトの発表とふりかえり
④2回目の企画書作成と共有
⑤2回目の発表とふりかえり、代表選出
⑥クラス内発表
⑦学年発表

です。本校の高校2年生は探究の時間が毎週1時間なので、授業中に決めたプロジェクトを1週間動かしたら次の授業が来ることになり、いい形で進められています。

チョコプロをやってみて、実際に行動してみることはもちろんですが、クラスメイトからのフィードバックや振り返りを含めてプロジェクトをまわす体験が大きいと感じています。生徒たちは「1週間かけて苦手な虫を克服し、周りに困っている人がいる時に、自分が自ら触って外まで誘導することに挑戦した」「毎日放課後に、担当ではなくても、自分から進んで教室の掃除を行いました」「1日100回、ありがとうを言う!」「1週間姉の服装を考える」などのプロジェクトを行いました。
チョコプロ実施初年度に高校2年生だった生徒たちが高校3年になった今年度(2021年度)、プロジェクトが大幅に増えました。その要因の一つにチョコプロの実施があったと思っています。

「一歩踏み出すことが大切」、よく聞く言葉です。自ら動いて何かを得た生徒や大人は必ず同じことを言うようにも思います。この言葉には共感しかないですが、だからこそ探究では「はじめの一歩を踏み出すことへのハードルを下げること」が重要だと感じています。プロジェクトを自ら動かしている生徒たちに励まされながら、自分も負けずに、これからも探究のカリキュラムを動かしていこうと思っています。

今回あまり書きませんでしたが、高校の探究、特に総合的な探究の時間に実施する探究では、自分の決めたテーマに取り組むということが実は何より重要だと思っています。次回はこのことについて書きたいと思います。お読みいただきありがとうございました。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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