2021.10.15
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働き方改革できない人(学校)はカリキュラムマネジメントもできない!

今期も執筆させていただくことになりました。今期は探究・キャリア教育や数学だけでなく、2022年度から始まる新学習指導要領についても書きたいと思っています。今期もよろしくお願いします。

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

一見矛盾するものを求められる学校現場

新学習指導要領でカリキュラムマネジメントの重要性が言われています。一方で働き方改革も言われていて、業務量削減、外部の方に学校に入ってもらうことなどが検討されています。現場はコロナ禍で間違いなく教員の仕事は増え、さらに観点別評価の導入や総合的な探究の時間の実施など、明らかに新しい仕事がオンされる状況です。

働き方改革を言う一方で、カリキュラムマネジメントで教科を超えた取り組みなどが求められ、矛盾したことを言っていると思う人もいるかもしれません。

そんな状況でいろんな人や学校を見ていて、実はカリキュラムマネジメントと働き方改革には密接な関連があるのではないか、もっと言えば、働き方改革ができる人や組織が、カリキュラムマネジメントを実現できるのではないかとさえ思います。みなさんはどう思われますか?

働き方改革推進委員会で、その業務を削減するか議論しているすぐ横で、カリキュラムマネジメント委員会が行われ、より時間割を複雑にする提案を議論したり、より労力ばかりかかる評価方法を議論したりするというケースも聞きます。またこうした会議ばかり増えて忙しくなる、役職者が増えて現場に仕事ばかりおろす、そんな話も聞きます。話を聞いているだけなら笑い話で済むのですが、自分の学校がそうなったらどうしようと思うと笑ってもいられません。仕事の効率化はもしかしたら学校にとっては苦手なことなのかもしれません。

カリキュラムマネジメントと働き方改革をつなぐある先生の言葉

個人などが特定できないようにかなりあいまいな表現になりますが、ある先生が次のように言われていました。「Aという教科とBという教科は○○という点では内容が共通している。だから○○についてAとBとでしっかり分担して教えれば、その分授業時間が浮く。その浮いた時間をAとBの合教科的な取り組みにすることができる」

また別の先生は次のように言われていました。「会議で決めるのをいいことに、責任を(自分でなく)すべて会議に委ねたり、自分が会議に出ている意味を理解できていない人がいることが、会議の効率を下げる。だれが何のためにどの会議に出て、何を決めるのかを明確にして会議をすれば、会議に必要な時間は減り、効率は上がる」

実はこれらの言葉にこそカリキュラムマネジメントや働き方改革の本質・共通点があるように思います。カリキュラムマネジメントは、学校の教育目標の実現に向けて、教育課程(カリキュラム)を編成・実施・評価し、改善を図る一連のサイクルを計画的・組織的に推進していくことです。ここには学校の教育目標という最上位の目標に向けた、カリキュラムの精選や効率化ということが本来含まれているのです。そしてその成否は会議での議論ではなく、現場レベルでどれだけ最上位の目標に向けた合理化を自ら行おうというマインドを共有できるかで決まるのです。そしてそのようなことができる人や組織は、働き方改革もでき、短い時間で濃い内容の仕事をできるようになるのです。合理的に仕事を進められる人は、仕事の優先順位をつけること、どうすれば合理的に進められるかを考えること、会議も短い時間で意味あるものにすること、こうしたことができる人です。これは最上位の目標達成に向けて、合理的に教育活動を進めることと本質的に同じです。

聞いた話ですが、複数のコースがある学校で、数学Ⅰを教える際に、ある先生は担当コースが違い授業時間も違うからと全く違う準備をされ、別の先生は違う中でどうやって一緒にするかを工夫し、なるべく一度の準備が複数のコースでいかせる形で準備されたようです。授業準備に必要な時間に大きな差があったことは言うまでもないでしょう。また模試の監督業務を学生アルバイトなども活用しながら校内で実施するのはよくあることですが、その際試験監督以外に本部など、他にも要員が必要です。その際、ある教科の先生が担当すると監督以外に5、6人の要員が必要になり、別の教科の先生が担当すると2人でまわせることがあるという例も聞きました。これは業務を効率化ができるかどうかという点で、人件費が発生する民間企業では大きな問題になるのでしょうが、働かせ放題が通用しやすい学校では、あまり注目されないポイントです。実はこのようなちょっとした非効率は学校にはいっぱいあるのかもしれません。

カリキュラムマネジメントを進める際に、普段から仕事に優先順位もつけず、必要以上の人数で集まって会議ばかりして、仕事が多いと嘆いてばかりいる人が中心となれば、おそらく多くの委員会を作り、多くの人を無理やり参加させ、会議にばかり時間をかけ、実際の運用のことは考えずに物事を決定するのではないでしょうか。その結果働き方改革と矛盾してしまうでしょう。カリキュラムマネジメントと働き方改革の根底に共通するものを認識する。今必要なのはこのことだと思います。

カリキュラムマネジメントと働き方改革を共に進める方法を考えるのが大事!

就職したある教え子が上司に「お前の仕事の時間はこれだけと決まっている。その中でどうするかを考えることが大事。やった方がいいこと・やらねばならないことを、自分の使える時間の中でしっかり判断して仕事を進めることが大事」と言われたそうです。実はこの発想は教員にこそ大事なのかもしれません。

もちろん教員の仕事は勤務時間で終わりませんし、突発的な対応も多いです。教員数一つとっても、今の学校は勤務時間内で仕事を終わらせる環境としては不十分な現実はあるでしょう。しかし、一方で「本当に無駄なことをしていないだろうか」という問い、今できる合理化を自分の力で進めていくことは重要だと思います。

実際にカリキュラムマネジメントや働き方改革を共に推進している学校はあります。たとえば広島県立府中高等学校では、今から5年以上前に、今でいう観点別評価のような取り組みをされ、同時に働き方改革も実現しています。その背景にある仕事の量の数値化など、これからの学校が見習うべきことがたくさんあります。

最後に、おそらく少数の共感者と多数の反論があるだろうと思いつつ、ふと思ったことを書きます。異なる事象に共通するものを見いだしたり、定型の作業を公式としたり、これらは数学的思考に他なりません。働き方改革もカリキュラムマネジメントも数学的発想が重要なのかもしれません。意外と数学にもっと力を入れることが大事なことかもしれないと思ったりします。実は新学習指導要領の議論でも、学習の過程をしっかりと提示したのは数学でした。これからは数学の時代なのかもしれません。

お読みいただきありがとうございました。今期もよろしくお願いします。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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