2020.10.28
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なぜ探究に取り組むのか?~立命館宇治の場合~

前回、探究に取り組む際に最も大事なことは「あなたはなぜ探究に取り組むのですか?」「あなたの学校ではなぜ探究に取り組むのですか?」という問いだと書きました。HOWではなくWHY。これはHOWに流され、手段が目的化しやすい学校だからこそ、大切にするべき問いだと思います。私が勤務する立命館宇治中学校・高等学校では2018年度よりカリキュラムを改革し、その中で総合的な探究の時間に取り組んでいます。今回は前回の問いの本校なりの答えについて書きたいと思います。

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

カリキュラム委員会で共有できた思い

2017年1月、次のカリキュラムを考えるカリキュラム委員会が発足しました。メンバーは中堅教員7人。こうした委員会は各教科のコマ数(授業時間数)の議論に終始しがちです。しかしカリキュラム委員会では「生徒の現状」と「育てたい生徒像」から議論がスタートしました。今振り返るとこの出発点は大切だったように思います。

委員のメンバーは教科も学年も、経歴もばらばらでしたが、生徒実態についての思いは共通していました。それは「素直で受け身な生徒」という実態でした。生徒たちは言われたことは素直にやるが、その反面、自分から取り組む力が弱くなっているのではないかということを委員のみんなが感じていました。一方、育てたい生徒が「自ら学び自ら動ける生徒」という点も共通していました。ここで共有した生徒の理想と現実がカリキュラム設計の大きな柱となります。素直な生徒たちだからより多くの量を与えれば言われた通り動くかもしれない。しかし、それではますます受け身になり、自分たちの育てたい生徒像と逆行してしまう。いろいろなことを議論した結果たどり着いた結論が「自ら行動し何かを生み出せる生徒を育てる。そのためのマインドやスキルの核となる時間(コア探究)を各学年に設定し、コア探究を中心としたカリキュラムを作る」ということでした。学習指導要領を見たときに、本校でいうコア探究は2022年度から実施の「総合的な探究の時間」の取り組みにあたるのではないだろうか。この気づきが研究開発指定校やWWL(ワールド・ワイド・ラーニング)につながります。

ここまでの議論はあくまでもカリキュラム委員会7人の中での議論でした。他の先生方は現状をどう思っているのだろうか。このような疑問から、全教員へのアンケートを実施しました。質問項目は「今の生徒の現状」「育てたい生徒像」の2点です。アンケートは各教科の会議で実施をお願いしましたが、先生方の思いは同じでした。記述の詳細は省略しますが、今の生徒実態が「THE受け身」ということ、育てたい生徒は「自ら学び自ら行動する生徒」ということ、これは教員みんなの共通の思いでした。このアンケートの結果を見て、カリキュラムの構築は進みます。

探究で生徒をお客様から生産者へ

カリキュラム委員会のメンバーは理念を共有し、それぞれの役割を担い作業を進めました。カリキュラムの大枠を設計する教員、中学校の取り組みを考える教員、国際的な取り組みを形にする教員などいろいろな役割に分かれました。私は高校のコア探究を設計する役割になりました。自分自身キャリア教育の授業を作り実践した経験もあり、またちょうどそのときに高1から担任として持ち上がった生徒が卒業する時期だったこともあり、コア探究の設計は自分の取り組みたいことでもありました。小委員会も組織され、すでに本校にあるキャリア教育授業の財産も組みこみながら、3年間5単位のカリキュラムを設計しました。

カリキュラム委員会で作ったものは、当時の管理職に認めてもらい、2018年度から正式に実施となりました。以下が対外的に広報したものです。

立命館宇治教育の特色

お客様状態の生徒を、コア探究を中心として生産者に育て自ら何かを生み出せるようにする。それはおそらく今まで本校の目指してきたものと大きくは異ならないものでした。ただ1点違うとすれば、コア探究の位置づけです。

カリキュラム委員会の中で、実は教員の実情についても議論しました。生徒と同じことが教員にも起こっているのではないかというのが共通認識でした。多忙化し、横のつながりが弱くなってきている学校現場で、私たち教員も頑張ってるけどしんどいのではないか。コア探究を中心に生徒を育てるならば、私たち教員もコアを中心にしっかりつながり、ともに成長しながらカリキュラムに取り組んでいく方が良い。この思いを形にするため、学年というチームを大切にするということから、あえてコア探究の指導は学年主導という形にし、今に至っています。実は教員をつなぐという視点は、高校にはすごく重要なのではないかと思っています。そしてカリキュラムは現在進行形で進んでいます。

理念の共有と振り返りが常に大切!(でも難しい……)

この原稿を書いているのが2020年10月、2018年度から始まったカリキュラムの完成が近づいています。そんな時期だからこそ、改めてこの間のことを振り返りたいと思います。

実はカリキュラム委員会で行ったことはカリキュラムマネジメントそのものであった。それが今強く思うことです。私たち教員は教科のプロということもあり、カリキュラムを決める際には教科の思いが語られ、教科の授業時間数の議論になりがちです。しかしカリキュラム委員会では「育てたい生徒像」を柱に置いたことでそうはなりませんでした。また、本校にとって今回のカリキュラム改革は授業時間を減らす難しいものでした。そんな中でコア探究(総合)は2単位増加しています。もちろんこのことへの異論はあるでしょう。しかしこれからの教育を考えたときに、本気で生徒の資質能力を学校全体で育てるならば、これは必要なことだと思います。

元堀川高校校長の荒瀬克己氏は、令和2年9月24日に文科省が開催した教育課程部会で「教員は不安・心配から量(多くの授業時間数)を求める」ということをふまえつつ、大切なことは量でなく「各学校において教育の内容等を組織的かつ計画的に組み立てた教育課程」(教育課程部会第120回 配付資料 資料2 荒瀬副部会長発表資料)であり、これこそがこれからの学校の在り方を考える上で重要なことだと指摘されています。本校が新学習指導要領実施より4年早くこの方向性で動けたことは重要なことだと思います。中学校でも高校でも各学年で総合を核としたカリキュラムが動き始めている。この事実を大切にして、より良いものにすることがこれから重要だと思います。

しかし課題も多いのが正直なところです。たしかにコロナ禍、働き方改革など想定外のことが起き、予定通り進められなかったということはあります。しかしもっと大きな課題があります。それはカリキュラム理念の共有と振り返りです。新しいカリキュラムだからこそ、「カリキュラムの目的・理念」を繰り返し共有し、生徒の実態についても常にみんなで確認しながら進めていくことが重要です。しかし忙しい毎日の中で、カリキュラム理念の共有も実践しての振り返りも不十分だと強く感じています。その結果個人や学年など特定の人やチームの頑張りにとどまっているのではないかと思うときもあります。中・高それぞれがいろいろな取り組みをし、その成果や課題が見えてきている今だからこそ、理念を共有し、実践を振り返ることが重要だと思っています。

お読みいただきありがとうございました。今回は本校の取り組みがメインになりました。次回はもう少し視野を広げ、高大連携や中高連携など学校間連携について書きたいと思います。引き続きよろしくお願いします。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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