2020.10.08
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なぜ探究なのか? ~今大事なのはHOWでなくWHY~

京都の酒井淳平と申します。およそ3年ぶりに復帰することができうれしく思います。
私は現在高校3年生の学年主任をしながら、研究主任として本校の総合的な探究の時間(校内呼称"コア探究")のカリキュラム作りや授業実践の責任者をしています。この取り組みは文科省指定の事業として(WWL)取り組んでいます。今期は「探究」について書くことが多くなると思います。お読みいただき、感想などいただけたらうれしいです。

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

探究ブームの中で

これは、いつか見た景色かもしれない。最近の探究ブームともいえる状況の中で、そんなふうに感じる時があります。

2020年度はコロナ禍に大学入試改革が重なり、さらに小学校で順次新学習指導要領が実施される激動の年です。そんな中で「本校はこの学年から探究を開始しました」、「探究をしなければいけない。やり方を教えてください」などということを聞くことは少なくありません。たしかに探究は新学習指導要領で大切なキーワードの一つです。それでも「探究をすることが目的になっている」ようにさえ思える現状には違和感があります。

なぜ探究なのか?

そもそも今なぜ探究が重視されるのでしょうか?今から4年以上前に株式会社ベネッセコーポレーションが『未来を拓く探究』という冊子を発行しました。その冊子には今の状況を予見していたかのような内容が多く含まれています。『未来を拓く探究』によると、探究が重要な理由は大きく「時代の変化」「入試の変化」「新学習指導要領」の3つです。これらが複合的にからみあい、探究ブームのようになっているのが今ではないでしょうか。

ここに書かれている3つの理由は4年たってますますその重要性を増しています。コロナ禍で社会が大きく変わる中で、答えが一つでない問題を解決する力が今こそ求められています。大学入試は変わり、新テストがいよいよ始まります。また新学習指導要領の実施も間近に迫り、総合的な探究の時間の実施が必須になります。こうしたことを否定するつもりは全くありません。しかし、キャリア教育にかかわってきた私から見ると、今の状況はいつか見た景色に見えます。

キャリア教育≒探究?

今から10年ほど前キャリア教育の重要性が言われ、キャリア教育がブームのようになりました。ちょうど私はそのときにキャリア教育部長としてキャリア教育を推進する立場でした。当時キャリア教育は一気に広がりましたが、同時に以下のようなことも起こりました。

・「キャリア教育の取り組みをしろと言われました」という先生が増加した。

・「インターンシップや講演会などのイベントをすることがキャリア教育」という誤解が広がった。

・「キャリア教育は特定の教科でするものではない」と語られるなど、様々なレベルのキャリア教育が同じ言葉を使ってごちゃまぜに語られた。

・「キャリア教育は評価が課題」といわれた。

・キャリア教育の実施で忙しくなるという感覚もあってか、キャリア教育担当者の多くが「キャリア教育をしてる暇はない」などといわれ、反対される経験をした。

上記の「キャリア教育」という言葉を「探究」に変えてください。まさに今起こっていることではないでしょうか。探究ブームがかつてのキャリア教育ブームに似ている、今の状況がいつか見た景色に見えるのはこうしたことからです。

一方で忘れてはいけないことがあります。10年たってキャリア教育は広がりました。キャリア教育が学校を変える起爆剤になったところも少なくありません。そして10年前の状況を振り返るとキャリア教育がこれからの教育を考える大切な視点だったことも間違いありません。探究も同じでしょう。10年たてばより広がり、探究を起爆剤に改革に成功する学校も多く登場することでしょう。あとから振り返った時にこのようにふりかえることができるような気がしてなりません。

こうした状況だからこそ今大切なのは「HOW(何をするか)」でなく、「WHY(なぜ探究をするのか)」なのです。

麹町中学校前校長の工藤勇一氏は学校の改革が進まない理由として「上位の目的を達成するという目標が忘れ去られ、何を目的にして行っているかさえ不明な形骸化した教育活動が増えてしまう」ことをあげ、「手段が目的化する」ことを指摘されています。探究も同じです。なぜ探究を実施するのかという問いの答えは育てたい生徒像という上位の目的に根差したものであることが重要です。しかしここを忘れ、探究をすることが目的になってしまうと、形骸化した教育活動だけが増えてしまいかねません。

手段が目的化しないためにも、「あなたはなぜ探究に取り組むのですか?」「あなたの学校ではなぜ探究に取り組むのですか?」という問いが重要です。HOWではなくWHY。これはHOWに流されやすい学校だからこそ、大切にするべき問いだと思います。

お読みいただきありがとうございました。ここまで書くと「立命館宇治はなぜ探究に取り組むのですか?」という疑問が出てくると思います。この点については次回書きたいと思います。引き続きよろしくお願いします。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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