2020.09.03
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withコロナ時代に小学校英語における対話的で深い学びにつなげるには

対話的に学ぶとは、対話で学ぶということと同義ではありません。今回はこれからも続くであろうwithコロナ時代を見据えて、ソーシャルディスタンスを保ちながらも、対話的で深い学びにつなげるにはどうしたらよいのかを考えました。
今回で2年間の連載の最終回になります。今までお付き合いくださりありがとうございました。

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭 常名 剛司

いまだ終わらない脅威

これから「正解のない世の中」になるとしきりに言われてきましたが、このようなコロナ禍という形で強制的に、かつ即時的にそれがやってくるとは誰も想定していなかったことだと思います。しかも、一度、落ち着きかけた感染拡大に再び火がついたかのような勢いです。まだまだ予断を許さない状況である今、withコロナ時代に対話的に学ぶ方策を考えてみました。

対話的に学ぶとは対話で学ぶということではない

新しい学習指導要領が形作られていく過程で「アクティブラーニング」という言葉が教育界に広く浸透しました。それは能動的でペアやグループでの対話を通した活動で、他と関わりながら学ぶというイメージでした。それが、今日の「主体的、対話的で深い学び」というものに変わっていきました。

その中の「対話的」とはどのようなことを指すのでしょうか?ここでは、「対話的」というと「ペアやグループで子どもに話し合い活動をさせればいいんだよね」と捉えていいのでしょうか。特にこのコロナ禍で「ソーシャルディスタンスを保たなければならないから、ペアやグループでの話し合いなどの対話的な活動ができないじゃん」と思ったはずです。私も初めはそうでした。

しかし、子どもの学びがペアやグループでの話し合い活動をしていさえすれば、深い学びになるかというとそんなことはありません。場面・目的・状況が不明確だったり、子どもの世界から乖離していて、自分ごととして捉えられなかったりした場合には、「活動あって学びなし」という状態に往々にしてなりがちです。特に、コロナ禍で休校期間が長かったために、子どもたちは今まで以上に仲間や人との関わりを欲していたのではないでしょうか。対話的に学ぶということは、形式的に対話をしていればいいということではなく、対話をしたいという思いのある活動のことなのだろうと考えています。

教師と子どもで対話的に学ぶ

対話的に学ぶというのは、対話を通して学ぶというだけではありません。対話などの活動を通して、お互いに相手の思いや考えを知ろうすることが対話的に学ぶということなのだと思います。ですから、子どもと子どもとの対話活動に無理にこだわらずに、教師と学級全員の子どもとのやり取りであっても、教師の一方的な講義ではなく,お互いに相手の思いや考えを知ろうとする学びが成立しているのであれば,やはりそれは対話的な学びであると捉えていいのではないでしょうか。

子どもと子どもの対話活動も学習効果が高いと思いますが、教師と学級全体の子どもとの対話では、教師から質の高い問いを子どもに提示できるので、授業で狙う本質に迫りやすくなります。

言いたかったけれど,言えなかった言葉を見つけるSharing Timeで対話的で深い学びにする!

小学校英語の授業場面で、子どもの深い学びを引き出すにはどのようにすればいいのでしょうか。深い学びとは、個別の知識が結び付いて汎用性を獲得したり、知識の概念化につながったりするような学びだと捉えています。それは、子どもから「言いたかったけれど、言えなかった言葉」を引き出すSharing Timeが鍵になると考えています。コミュニケーション活動の中間評価の場面で、「言いたかったけれど、言えなかった言葉はあったかな?」と問い掛けることで、これまでの既習表現の知識を他の知識と結びつけて、新しい表現や概念を獲得していきます。子どもの既習知識を引き出し、結びつけて、新しい表現を獲得する。それが小学校英語の授業での対話的で深い学びにつなげるコツです。

そして、実はそのような授業場面は、コミュニケーション活動におけるSharing Timeだけではなく、動画を視聴して考えるリスニングの活動場面でも使えます。動画を視聴した後に、「どんな英語が聞こえたかな」と子どもに問います。そして、子どもが発言した「alwaysが聞こえた」「sing a songが聞こえた」「Sundayが聞こえた」などの断片的な英語表現を「◯ always sing a song ◯ Sunday.」のように板書していきます。

そこで「この空いているところにはどんな言葉が入りそうかな。もう1度、聞いてみよう」と問い掛けることで、バラバラだった表現が教師と子どもたちが対話的にやり取りをすることで、1つのセンテンスになっていきます。このように、対話的に学ぶ授業の中で、子どもの既習知識を引き出しながら、知識をつなげて新たな表現や概念を構成していく深い学びを引き出すチャンスは、そこかしこにあると思うのです。

子どもの主体的な学びを大切にする

小3の子どもたちに、コミュニケーション活動の中間評価の場面で、「言いたかったけれど、言えなかった言葉はあるかな?」と聞きました。すると、「ぼくね。Sleeping bagって言えたよ!」と言うではありませんか。授業者の私にとっては、子どもから「言いたかったけれど、言えなかった言葉」を引き出して表現の幅を広げたかったのですが、「あら。そうなの!?よかったね〜」と言うとその子は満足そうな顔をして座ってくれました。

小学校低・中学年くらいの子どもにとっては、英語の授業で「言えなかった言葉」よりも「言えた言葉」を報告したいんですよね。前出の子どもにとっては、きっと英語で言えたことが嬉しかったんですよね。もちろん、活動の本質としては、「お互いに伝えたいことが伝え合えたかどうか」が大切です。次に、どんな言葉を言えたのか。そして、どんな言葉を言いたかったのに、言えなかったのか。子どもの主体性をともなった思いに寄り添い、それらを順に追っていくことで、子どもの思考に合わせた緩やかに深い学びになっていくはずです。

この「学びの場.com」にて2年間も連載するチャンスを頂き大変感謝しています。これからは、もう締め切りに追われることがないかと思うと淋しい限りですが,小学校英語教育界に何らかの貢献ができるように研究を続けていきたいと思います。今後もご指導よろしくお願い致します。2年間ありがとうございました。

常名 剛司(じょうな つよし)

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭
小学校英語教育の研究を担当しています。自律的に取り組む本物の文脈の中で,子どもの資質・能力を育む小学校英語教育のあり方について考えていきます。

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