小学校英語でのICTの落とし穴
新学習指導要領の本格実施と時を同じくして,文科省からGIGAスクール構想が打ち出されています。学校教育のICT化がこれまで以上に加速する大きな政策であると言えるでしょう。ICTの活用がさまざまな教育現場で行われていて,その必要性には誰もが首を縦に振るのですが,ICTを使う場合の落とし穴を想定しておかないと,かえって使ったことが逆効果になることが多々あります。小学校英語の授業でICTを活用する時には,どのような落とし穴があるのでしょうか。
静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭 常名 剛司
こんなことなら,もっと早く一人一台の学習用端末があれば!
新型コロナウィルスの影響で全国の学校で休校措置が広がっています。こんなことなら「もっと早く一人一台の学習用端末があればなー。遠隔授業とか,個別学習ができたのに!」と思った方は,私だけではなかったはず。私は,普段の授業の中で,教師である自分自身もタブレット端末を使っているし,学習者である子どもたちにもどんどん使わせています。ICTの活用が多くの利点を生み出すのは御承知のとおりですが,ところどころに落とし穴があるのもまた事実です。
小学校英語でのICT活用の具体事例
私が小学校英語の授業で,実際にICTを活用しているのは以下のような場面です。ちなみに,現時点で本校には児童用の70台程度のiPadがあります。
【教師が使う】
- 洋楽やフォニックスソングの動画を見せながら歌を歌わせる(iPad+大型テレビ)。
- Teacher TalkやSmall Talkのデモンストレーションの時に,写真やプレゼンを見せながら話す(iPad+大型テレビ)。
- iPadのカメラアプリを実物投影機のように使って,教材を提示する(iPad+大型テレビ)。
- We Canなどのデジタル教材を使って,動画を見たり,クイズをしたりする(Surface Go+大型テレビ)。←ここだけSurface Goなのは,We Canなどの文科省のデジタル教材がiPadに対応していないためです。
【学習者が使う】
- iPadに保存した画像を友達と見ながら英語で話をさせる(iPad)。
- 自分のヒーローの紹介などのプレゼンの資料を作って,発表させる(iPad+大型テレビ)。
- 英語劇などで,自分が話したい表現や発音を調べさせる(iPad)。
他にもありますが,以上のような例があります。普段,タブレット端末などのICTを活用していて,「しまった!」と思うような経験はだれにでもありますよね!?活用の際にどこが落とし穴になるのでしょうか。
【落とし穴その1】ICTの不具合で授業が滞る!
よくありますが,用意した動画やプレゼンが映らないとか,準備に時間が掛かって授業時間が逼迫してしまうことです。特にタブレット端末と大型テレビの接続では,HDMIケーブルの接続不良やapple TVを使ったiPadから大型テレビにコードレスで画像を飛ばす時などに,準備に手間取ることがあります。私の場合は,普段はiPadを使っていますが,少しだけWe Canの動画を使う場合に,iPadとSurface Goを付け替えたり,その操作をしたりするのに意外と時間が掛かることがあります。
【落とし穴その2】タブレットで調べて英訳した言葉は使えない!
英語劇やポスター作りなどで,子どもたちは,「言いたいこと(使いたい言葉)をiPadで調べていいですか?」とよく聞いてきます。インターネットの検索サイトで「調べたい言葉(スペース)英語」と打ち込むとGoogle翻訳などを使った検索結果が出てきます。試しに「僕は犬が好きです(スペース)英語」と打ち込むと,きちんと「I like dogs.」とdogが複数形になったものが出てきます。
ある程度,長い文章でも「これならいいかな」と思うような英語表現で出てくることが多く,その精度の高さに驚くことも多いです。しかし,出てきた英語表現を子どもが自分のものにできるかというとそうではありません。
子どもは言いたいことを日本語で考えた時には,その発達段階に合わせた自分の英語力と比較して高度な日本語で表現しようとするので,その高度な日本語に合わせた英語表現を覚えようとしても,自分の英語力とは格段に開きが出てしまうことが多く,なかなか覚えられなかったり,ポスターに書き写したものの,書いてあるだけで読めもしないし,意味も分からなかったりすることがほとんどです。
もともとすごく簡単な表現を少しずつ授業の中で定着させていくのですから,一度,タブレット端末で調べただけの表現を簡単に使えるようになるはずがないのです。
落とし穴に落ちないために
①使用するICT機器は1つまで
いくつもの学習用端末の併用や実物投影機の同時使用はオススメしません。1つの学習用端末だけにしたいですね。道具を使うようで,道具に振り回されていては本末転倒ですが,少しずつICT機器を使い続けることで,ICT機器の利便性や教師のICT活用技能の向上につながっていきます。
②これまでに使った表現から考えさせる
防災劇の実践で,グループごとに留学生に発表する防災劇を作っている時に,
子どもから「先生。劇の始めに『今から,私たちのグループの防災劇の発表をします』と言いたいんですが,英語でなんて言ったらいいの?」と聞かれたので,私はこう答えました。
私「難しいことを言いたいんだね。そんなの『今から始めるよ!』って言えばいいんじゃないの?」「いつも授業を始める時には何て言ってるかな?」
子ども「え~?!あっ!Let’s start!だ!」
私「そうだね。それでいいんじゃないの。Let’s start!で」
子ども「いいね!Let’s start! Let’s start!……」
その後,その子は嬉々として「Let’s start! Let’s start!」を連呼していました。その子の頭の中に,これまでに授業の始めの時にしか使わない言葉だった「Let’s start!」が何かを始める時に使う言葉として,見方・考え方が広がり,その表現が汎用性を獲得した瞬間でした。このようにして,安易にタブレット端末での英訳に頼らずに,子どもがこれまでに身に付けた表現を汎用的に使わせることが大切です。タブレット端末での英語表現調べには注意が必要です。
それでもICTを使ってみよう!
私がアフリカに住んでいた20年程前。私ですら持っていなかった携帯電話を使っていたアフリカの人がたくさんいたことには衝撃を受けました。上海に住んでいた10年程度前。中国の現地の公立校でも毎時間,教師がパソコンとプロジェクターを使って授業をしていました。教育の情報化の部分では日本は,他国に比べて遅れている部分があるのかもしれません。新しい時代に合わせて,教育現場も少しずつ変わっていかないといけないと感じています。
次回も英語にまつわる身近な話題を提供していきたいと思います。よろしくお願いします。

常名 剛司(じょうな つよし)
静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭
小学校英語教育の研究を担当しています。自律的に取り組む本物の文脈の中で,子どもの資質・能力を育む小学校英語教育のあり方について考えていきます。
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