挑戦しよう! お米の収穫、調べよう! お米のいろいろ 【食と栽培】[小3・総合]
食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第115回目の単元は「挑戦しよう! お米の収穫、調べよう! お米のいろいろ」です。
米作りの様子
今回の授業は、特定非営利活動法人こども環境活動支援協会(LEAF)が管理する甲山の広大な田畑をお借りし、同協会指導員の指導と援助のもと、まずは米作りに取り組むことから始めました。
米作りの前に、実際に活動をする甲山について指導員の方に詳しく教えていただきました。子ども達は甲山の四季、住んでいる生き物、育てている農作物を知ったり、米クイズに答えたりすることで、これからの活動を楽しみに思う気持ちが高まったようです。また、米作りの最終目標として自分達で収穫した米を使ってカレーパーティーを行うことを提案すると、子ども達の活動への意欲はさらに高まりました。
甲山では主に、田植え(5月)・草ひき(7月)・稲刈り(10月)の体験活動を行いました。田植えの際は、初めて田んぼに入る子も多く、
「うわぁ! ぬるぬるしている!」
「気持ち悪い!」
などの声が上がり、これまでに味わったことのない感覚を体験したようです。また、稲刈りでは、初めて使う鎌を怖がりながらも怪我なく上手に使うことができました。ザクザクという心地よい音に耳を澄ませながら、黙々と活動していました。諸感覚を使って活動することで、農作業の大変さだけでなく、楽しさも同時に知ることができたようです。
稲穂から米をとる方法を考える
甲山で収穫した稲穂を学校に持ち帰り、白米に変えるまでの活動を学校で行いました。その際も指導員や専門家の方とメールでやりとりをして指導と助言をいただきました。
まず子ども達は、持ち帰った稲穂を今後どのように白米にしていくのかを考えました。乾燥して色が変わった甲山の稲穂を見て、そこから籾米を取るためには何をしないといけないか、班ごとに予想しました。実際に稲穂を触りながら考えることで、意見が深まるように場を設定しました。子ども達からは、
◆手でちぎる
◆手でくっついている部分(籾米)をとる
◆一粒一粒とる
◆力強くしごく
という意見が出ました。特に、稲穂をしっかりつかんで引っ張り、籾米を一気にとる動作を、始めは
「何て言ったらいいかわからないけれど、こうすること!」
と動作のみで発表していたのですが、その動作が「しごく」という言葉で表されることを知り、新たな言語の習得へとつながりました。
子ども達は、
「手作業では、手が痛くなりそう」
「時間がかかりそう」
と予想をして、
「一度で大量に籾米をとるために、何か道具を使うのはどうか?」
と、道具の必要性に気づき始めました。
千歯こきと足踏み脱穀機を体験する
文化財収蔵庫から専門家に来ていただき、千歯こきと足踏み脱穀機を使う体験をしました。専門家の方から、道具の使い方や道具ができるまでの流れを聞くことで、道具についてより深く知ることができるようにしました。
道具を体験する際は、最初に二つの道具を布で隠し、特徴ある部分を少しずつ見せていき、道具の構造に注目させました。
活動を振り返る
米発表会・カレーパーティー
米作り月表・お米メーター
子ども達が体験を通して「わかったこと」「疑問に思ったこと」「感想」は月表にして掲示していきました。月表にすると、体験したことを月ごとに言葉や絵でまとめてあるので、活動の記録となり振り返りがしやすかったです。
また、活動するごとに籾米が白米へと変身していく「お米メーター」を作り、活動後に活用していくことで、達成感を味わうことができました。
活動後、子ども達の「脱穀・籾すり・唐箕・精米」についての感想です。
「お米の米粒をとる道具ややり方は一つだけではないことがわかりました。すごいスピードで足踏み脱穀機は回っているのに、お米は割れたりしないのかなぁ」。
「千歯こきと足踏み脱穀機は米を一粒一粒とるのに役立つものだとわかりました。稲穂から米をとることを脱穀ということもわかりました。米についている皮は、どうやってとるのか調べたいです」。
「籾すりはソフトボールとすり鉢を使ってお米の皮をとりました。手が疲れてとても大変でした。カレーパーティーに向けて、籾すりをがんばるぞ!」。
「唐箕は三つの出口があって、『良い米』『悪い米』『わら』が出てくるすごい道具でした。ハンドルを回すと風が起きて、わらを吹き飛ばして、すごいなぁと思いました。こんなすごい道具を作った昔の人はすごいと思いました」。
「一升瓶と竹の棒を使っての精米はとても大変でした。とれた糠は肥料にしたりお漬け物を漬けたりする時に使われることがわかりました。精米はとても時間がかかるので、最後は精米機という機械を使って白米にしたけれど、機械を使うと一瞬で白米になってびっくりしました」。
保護者の方からも感想をいただきました。
「田植えなどの普段できないような体験ができたことは、とても子ども達にとって良い経験になったと思います。食事でごはん(米)を食べる時にお米作りのことを色々話してくれて、食べる量も増えました」。
「食べ物に対する考え方が変わったように思います。米は当たり前に毎日食べているけれど、それを作るにはどれだけ大変なのかということを体験し、今まで以上に有難くいただいているようです」。
「お米(ごはん)をおかわりするようになったり、『いただきます』に続いて『お母さんありがとう』という言葉をよく言ってくれたりするようになりました。昨年までと比べて台所で料理を手伝いたいと調理や食に対する興味も増してきたように思います」。
子ども達は、1年間かけて自らの手でお米を収穫することで、日々食べているお米のおいしさや有り難さをより一層感じることができたと思います。そして、農業の大変さを知り、生産に関わってくれている人々への感謝の気持ちを持つこともできたようです。
今回の実践は、普段何の気なしに使っている、「いただきます」「ごちそうさま」の言葉を改めて考え直す良い機会になり、給食の残食を減らそうと努力する子が増えました。また、学校だけでなく家でも、料理に興味を持ち手伝いをしたり、お家の人に「作ってくれてありがとう」と感謝の言葉を言えたりする子が増えました。
さらに、発展した学習として、お米についてインターネットや書籍を使って調べ、お世話になった人々に発表会を開くことで、より学習が深まり、達成感や協同で解決する喜びを感じることもできたようです。
授業の展開例
- 白米と玄米の食べ比べをしよう。
- お米について体験したことや調べたことを下の学年の友達に発表しよう
嘉原 智子(よしはら さとこ)
兵庫県尼崎市立成文小学校 教諭
食育研究発表会を本校で開くことをきっかけに食育について学びました。学校では、国語科、理科、社会科など各教科と関連づけて食育を考える『ちょこっと食育』に取り組んでいます。また、総合的な学習の時間や特別活動の時間に年間を通して食物を育てる体験活動にも取り組み、子ども達の“食”に対する意識の変化や、生産者側の思いや願いに目が向くことをねらいとして、日々授業に取り組んでいます。
藤本勇二(ふじもと ゆうじ)
武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。
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