牛乳の変身 【食と文化】[小6・家庭科]
食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第九十六回目の単元は「牛乳の変身」です。
牛乳が変身した食べ物は何?
小豆の変身・あんこ、大豆の変身・豆腐、お米の変身・餅の例を挙げて、牛乳の変身に関心を持たせることから授業を始めます。
「では、牛乳が姿を変えると何になるかな?」
と聞くと、
「チーズ」
「バター」
「アイス」
の答えが返ってきます。
次に、紙芝居を示しながら、
「今日は、牛乳の変身について考えます。牛乳が変身したもの、なあんだ? 1問目のヒントを言うよ。パンに良く合います」
と言うと、
「バター」
という声が返ってきます。
「では、2問目、熱くなるとトローっとして料理によく使います」
「3問目、ジャムやハチミツを入れるとおいしいです」
というように進め、正解を発表します(1問:バター、2問:チーズ、3問:ヨーグルト)。
そして、いよいよ牛乳の変身(加工)の方法について、詳しく見ていきます。まず、
「バターって、どうやって作るか知っている?」
と聞きます。子どもたちからは
「振る」
との答え。
「そうですね。先生が調べたら、牛乳を激しくかき回して、乳脂肪という成分を取り出して、ギューっと搾って、水分を抜いて、時間をかけて熟成すると、バターになります。ではチーズは?」
と聞くと、
「発酵!」
と子どもたち。
「その通り。では、チーズには牛乳以外に何が入っていますか?」
と聞くと、子どもたちからは、塩、砂糖、酢、レモン、乳酸菌の意見が出ました。
「乳酸菌や酵母を入れて発酵させ、水分を抜いてゆっくり熟成させるとチーズになります。ヨーグルトはチーズに似ていますが、乳酸菌を入れるだけで、水分は抜かないんだって。その代わり、温度を下げて冷やすことで発酵を途中で止め、飲んだり食べたりすることができるそうです」
子どもたちは、牛乳の変身した食べ物にどんどん関心を持ち始めたようです。
牛乳を変身させると、どんな良いことが起こる?
「うまくできれば発酵。うまくできなかったら?」
すると、
「腐る」
と子どもたち。
「そうです。では熟語で何といいますか? 腐るのは、そう、『腐敗』と言います。腐敗も発酵も、菌の働きという点では同じです。発酵させると良いことがありますね。牛乳を発酵させたり熟成させたりすると、どんな良いことがあるのか、グループで話し合って、三つ出そう」
そう指示して、グループで話し合わせた後、答えを発表させます。子どもたちからは
「栄養が凝縮される」
「牛乳より長持ちする」
「保存が効く」
「色んなものに加工して楽しめる」
「色んな味になって、楽しめる」
「運びやすい」
等の意見が出ました。
「そうですね。牛乳に手を加えると、このような良いことがいっぱいあります。こういった手を加えることを、『知恵』と言います。では、食の知恵について、皆と一緒にもっと考えましょう。牛乳が変身した食べ物、まだまだあるでしょ?」
と問います。すると、
「粉チーズ」
「アイスクリーム」
等の声が上がりました。
牛乳が変身した食べ物について色々知る
「牛乳が変身した食べ物はいっぱいあることがわかりました。では、今からワークシートを配ります。ヒントを頼りに、牛乳が変身した食べ物を考えてみましょう。皆は6年生だから、牛乳じゃなくて『生乳』という言葉を教えますね。搾ったままの牛乳のことを生乳。生乳を加工して、手を加えるとどんなものができるかな?」
子どもたちはワークシートを使って作業をします。それから答え合わせです。
「まず、1番。ケーキ屋さんでよく使うのは?」
と聞きます。
「生クリーム 」
と子どもたち。
「はい、そうです。生クリームについて調べてきたことを読むので聞いてください。どうやって作るかと言うと、これもバター同様、グルグルグルグルかき混ぜるんだって。それも強力に。牛乳を『遠心分離』と言って、すごい勢いでかき混ぜて、乳脂肪だけ取り出したものが生クリームなのだそうです」
このように、答え合わせを進めていきます。以下、答えの食品名と、その説明を記します。
[2番]バター
:パンと一緒に食べるのはバター。よくかき混ぜることを熟語で言うと「撹拌」。英語では「シェイク」と言います。生クリームを撹拌するとバターができるそうです。
[3番]チーズ
:チーズは、発酵させていますね。
[4番]粉ミルク
:粉ミルクの良い所は、持ち運べること。だから、アフリカの飢餓を救うために使われています。粉ミルクは牛乳を乾燥させて作ります。粉にすることで、長期保存ができます。
[5番]練乳
:練乳は、甘くするために砂糖を入れているのではありません。保存が効くように、砂糖入れて煮詰めているのです。
[6番]牛乳
:毎日、給食に出てきますね。
[7番]乳飲料
:イチゴ味やコーヒー味、バナナ味、抹茶味、フルーツオレ等、色々な味を楽しめる点が良いですね。
[8番]ヨーグルト
:皆がよく知っているヨーグルトは牛の乳から作るよね。ところが、世界には羊やヤギ、水牛からも作られるヨーグルトがあるそうです。それから馬の乳、馬乳からできるヨーグルトもあり、主にモンゴルで食されています。
[9番]アイスクリーム
:皆の大好きな食べ物ですね。
「このように、生乳を色々な知恵で変えることで、人間は食べることを楽しんだり、健康になることを願ったりして、作ってきたのではないかと思います。他にもまだ生乳を変えたものがあると思うので、また勉強していきましょうね」
こう話して授業を終えました。
授業の展開例
- 温めた牛乳にお酢を加えるとカッテージチーズを作ることができます。実際に作ってタンパク質の不思議を体験してみましょう。
- 牛乳の変身の他に、米の変身、小麦粉の変身、トウモロコシの変身等、加工食品について調べてみましょう。
藤本勇二(ふじもと ゆうじ)
武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。
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