2013.05.14
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めざせ! 買い物名人 【食と社会】[小6・家庭科]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第八十一回目の単元は「めざせ! 買い物名人」です。

子どもたちの身の回りには物や情報があふれています。そのような環境で生活する子どもたちにとって、よく考えて上手に買い物ができることは大切な能力だと考え、「金銭の使い方」をテーマに本題材を設定しました。その際、「食」をテーマに取り上げてみました。高学年になると家族から食材の買い物を頼まれたり、お小遣いをもらっておやつを買ったりする機会が増えます。しかしまだ本当に必要なものを買えなかったり、品質表示を見ずに賞味期限の近い商品を買ってきてしまったりすることもあります。自分でよく考えて行動できる「買い物名人」を目指し、取り組んだ第6学年家庭科の実践です。

我が家の買い物の工夫をポスターにする

「家庭では暮らしを支えるためにどんなことにお金を使っていますか?」
 この問いから授業は始まりました。
「食事に使うお金」
「交通費」
「教育費」
 などの子どもたちの意見を受けて、家庭生活にはたくさんのお金が必要になることを確認しました。
「大切なお金を上手に使えるようになろう。皆の家では買い物の時にどんな工夫をしているのだろうか?」
 と聞くと、
「チラシを見て買う」
「お買い得品を買う」
 など安く買う工夫はたくさん出てきました。しかし、子どもたちの発言からは計画的に買うことや、安心・安全な品物を買うことへの言及はありませんでした。関心が少ないと見て、
「我が家の買い物の工夫を調べてみよう。皆の知らない工夫が見つかるかもしれないよ」
 と呼びかけました。
買い物の工夫をまとめたポスターを全員が作る

買い物の工夫をまとめたポスターを全員が作る

2・3時間目は家の人に聞いてきたことを四つ切り大の画用紙に一人ずつまとめます。「上手なお金の使い方」「我が家の食品の選び方」「生協の利用の仕方」「品質表示のマークに注目」「産地に気をつけて買おう」など買い物の工夫をまとめたポスターができました。

できたポスターを教室の壁に掲示します。子どもたちは友達のポスターに付箋紙で感想を添えます。付箋紙は一人に3枚ずつ渡して、1枚は出席番号の次の人に感想や感動・共感を書き、残りの2枚は自分が気に入ったポスターに貼らせました。書かれた感想に対して、ポスターの作成者も返事を書くことにしました。

買い物名人の工夫をポスターセッションで発表

「計画的な買い物」のポスターセッション

「計画的な買い物」のポスターセッション

4時間目は、
「買い物名人になるために『わたしの5箇条』を作ろう。そのために友達の発表を聞こう」
 この投げかけから始まりました。子どもたちが付箋紙をたくさん貼ったポスターの中から、子どもたちに気づかせたい内容のバランスも考えて、教師が次の6項目を選びました。

  • 国産と外国産どちらを買う
  • レシートは大切
  • 品質表示のマークに注目
  • 計画を立てて買おう
  • ファーストフードVSスローフード
  • 生協のいいところ

次にポスターセッションの方法について確認しました。以前、国語の時間に行ったポスターセッション形式の発表を思い起こさせ、意欲的に本時の学習に取り組めるように支援します。発表時間を前半と後半に分け、先に挙げた6本の中からそれぞれ3本ずつの発表を行います。

「ファーストフード VS スローフード」のポスターセッション

「ファーストフード VS スローフード」のポスターセッション

さあ、買い物の仕方や工夫について発表し合うポスターセッションのスタートです。聞き手は発表を聞いて小グループで話し合います。次の発表の場所に移動してまた話し合うということを繰り返します。聞き取りやすい声の大きさや掲示板の効果的な掲示の仕方などは個別に支援しながら進めます。その場で質問に答えられない場合は後日調べて回答するよう助言します。交替時刻に発表者と聞き手がスムーズに交替するよう促します。

後半では前半の発表者が聞き手に回ります。6例の発表を一通り聞いた後、もう一度掲示された全員のポスターを読んで「わたしの5箇条」を作りました。

「わたしの5箇条」を作る

「わたしの5箇条」は、発表を聞いた時にとったメモを基にして、計画的に買い物をすることや品質表示を見ることを中心にまとめさせます。そして、できあがった「わたしの5箇条」を発表します。
 ポスターセッションを通じて子どもたちが作った「5箇条」を2例紹介します。
1.本当に必要なものか考えて買う
2.何を買うかメモをする
3.エコマークを見る
4.消費期限、賞味期限を見る
5.レシートは残しておく
1.別に同じようなものがあったら買わない
2.品質がよく新鮮なものを選ぶ
3.チラシを見て計画的に買い、むだづかいをしない
4.同じ値段のノートならベルマークの付いているものを買う
5.買い物に行く前に冷蔵庫を見てから行く
中には、「外国産よりも国産のものを買う」といった一面的には決められないことや、「安心・安全なものを買う」というような、どうやって安心・安全を決めていくかなど認識が浅かったり、追究が弱かったりするものもあります。しかし、食の視点から金銭の使い方についてしっかりと考えることができました。

計画的な金銭の使い方と食品の選び方を身につける

子どもたちが作った「買い物5箇条」を自宅に持って帰り、保護者からの助言や感想をいただきました。5時間目はこの助言を基に、計画的な金銭の使い方と食品の選び方についてまとめました。
 保護者からの感想を紹介します。

○よく考えられた5箇条なのでこれからの買い物の参考にさせてもらいます。

○魚や野菜等自分の目で新鮮さを判断できるように勉強しておくといいね。計画的にというのは大事なこと、色々な面で重要と思うよ。

○買い物に行っても色々と考えて買ってくれています。これからも一人で買い物に行く機会がどんどん増えると思います。もっともっと経験して自分流のよい買い物術を身につけてください。

○「添加物が入っていない物」と「消費・賞味期限の長いものを選ぶ」に対して……相反するよ、消費・賞味期限の長いものは防腐剤などが入っているんだよ

○「外国産の品物が安くても国産の物を買う」に対して……外国産の物がすべて悪いわけではないので品質を比べてよいと思ったものを買うようにする。「買う物がある時にはまとめて買う」に対して……まとめて買うと安くなる物もあるし、痛みやすい物は使う時にその都度、買う方がよい場合もある。

授業の展開例
  • 買い物を工夫することは環境に優しい生活にもつながります。環境に配慮した買い物の仕方を実践してみましょう。
  • スーパーマーケットに並ぶ野菜や水産物はどこから運ばれてくるのでしょうか。表示に着目して調べてみましょう。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 准教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

文:藤本勇二 イラスト:あべゆきえみうらし~まる〈黒板〉

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