2013.01.15
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くさい! もったいない! 残菜を教材にする 【食と社会】[小4・社会科]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第七十七回目の単元は「くさい! もったいない! 残菜を教材にする」です。

ごみの授業では、一般的には学校や家庭でのごみの種類を確認し、それらがどのように集められ処理されていくかを学びます。最後は清掃工場等を見学し、ごみを減らす工夫を考える内容です。
 しかし、実際には子ども自身がなかなか自分の問題としてとらえ、実行に移せないのが本音ではないでしょうか? そこでお勧めするアイテムが給食の残菜(食べ残し)です。単元の始まり、または終末に行うと効果的です。今回は、「わたしたちの生活とごみ」の単元の終末に行った1時間の事例を紹介します。

全校分の給食の食べ残しを児童に提示する

全校分の給食の残菜を皆で見る

全校分の給食の残菜を皆で見る

「これは4年○組の給食の食べ残しです。だいたい1.5kgあります。では全校ではどのくらいの量になると思いますか?」
  と聞くと、
「5kg」
「10kg」
「いやもっと少ないよ」
「僕はもっと多いと思うよ」
 など子どもたちからたくさんの意見が出ます。そこで、
「今日は、全校分の給食の残りを給食室に頼んで全部持って来てもらいました。早速見てみましょう」
 と食缶に入れた食べ残しを見せます。
「わぁー、こんなに多いの?」
「臭い!」
「気持ち悪い!」
「もったいない!」
 の声、声……。中には鼻をつまんでいる児童もいます。
「中をよく見てください。どんなものが多く食べ残されていますか?」
 と質問します。
「ごはんが多い」
「野菜も多い」
「牛乳も混じっている」
「ミカンの皮も入っている」
 ごはんに加えて野菜も多く残されていることを全員で確認した後、
「今日の本校の食べ残しの量を計ってみます。皆さんは10kg位と予想していました。実際には、25.5kgもありました。どうですか?」
 と正解を伝えると、
「多くてびっくりした」
「どうしてこんなに残すのだろう?」
 といった感想が出てきます。そこで、
「今、ごみの学習をしていますね。この食べ残しはどうなるのですか?」
 と聞くと、
「ごみ収集車で集められて埋め立てられます」
 と子どもたち。
「そうですね。最終的にはこの食べ残しはごみとして集められて埋め立てられます。たった30分前までは給食として食べられていたものが、今はごみになったのです。調理師さんや栄養士さんが一所懸命作った栄養満点の給食が、今ではごみとなってしまいました」。

食べ残しのグラフを見て気づいたことは…

次に、栄養教諭から借りてきた11月の食べ残しのグラフを示します。
〈実践校のデータを元に江口が作成〉

〈実践校のデータを元に江口が作成〉

「これは、11月の残菜調査のグラフです。このグラフを見て気づいたことを発表してください」
 すると、子どもたちからは、
「食べ残しが多い日もあるし、少ない日もある」
「少ない日は人気のあるメニューの日だと思う」
「好きな料理の日は少ない」
「少ない日はカレーやチャーハンの日だと思います」
 など多数の意見が出てきます。これらを受けて、
「人気のあるメニューや好きなメニューの日は残さないという意見が多かったですね。社会科でごみを減らす学習をしてきました。学習の結果、ごみを減らす工夫を考えましたね。そこで先生は、これから本校では給食を残さない好きなメニューばかりにしようと思います。毎日カレーライスにしましょう。カレーライスだったら残菜はゼロになります。先生が栄養士さんに頼んでおきます」
 と言うと、
「毎日カレーじゃだめです」
 との声。
「どうしてですか? ごみを少なくするためですよ」
 と返すと、
「だって野菜も食べないといけないし」
「あきちゃうよ」
「栄養が偏るから体によくない!」
「色々なものを食べないと病気になるとお母さんが言っていた」
 というように、子どもたちからたくさんの意見が出てきます。好きなものばかり食べてはいけないことに気づいていきます。そこでもうひと押し!

ごみ問題を自分のこととしてとらえる

「では、皆さんはこの現実をどうしたいのですか?」
 と聞きます。
「食べ残しを減らしたい」
「僕も」
「私も減らしたい」
 と子どもたち。
「だったらどうすれば給食の残菜が減るかを考えてください」
 と課題を与えます。すると、
「嫌いなものも頑張って食べる」
「始めから給食を減らす人がいるけど、今度からなしにする」
「1回に盛る量を多くする」
「はかりを使って配食してみる」
「完食した日には献立表に花丸を付ける」
「ポスターを作って全校に投げかける」
「多く残すクラスを調査して知らせる」
 など多数の意見が出てきます。

残菜と向き合うことを通して、子どもたちは自分の問題として考えることができるようになりました。そして、クラスの目標も見えてきました。この授業後の残菜は見違えるほど少なくなっています。実際にはかりを使って配食し残菜を減らしたクラスもありました。
 社会科のねらいが給食の残菜を見せることで明確になってくる授業の事例です。

授業の展開例
  • 1週間、クラスごとの残菜調べをしてみましょう。そして実態を全校に報告してみましょう。
  • 食べられるのに捨てられる食べ物がたくさんあります。日本ではどのくらい捨てられているのか調べてみましょう。

江口 敏幸(えぐち としゆき)

東京都杉並区立三谷小学校栄養教諭、並びに杉並区学務課保健給食係兼務

平成20年より国産食材だけで給食を作る国産給食の実施、国産給食を教材に5年生社会科で日本の食料自給率について実践。
 理科、生活科と関連づけた年間栽培計画を作成し1年間を通して栽培活動を実施。
 そのほか、ケチャップ、梅干し、みそ、たくあん作りに取り組んでいます。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修:藤本勇二 文:江口敏幸:あべゆきえみうらし~まる〈黒板〉

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